7月4日 日曜日 「ずっと友達」

 隣の家に住んでいるガーデニングが趣味のおばあさんに、
 一本の苗木を貰いました。

 おばあさんにこの苗木を大切な人と一緒に穴を掘り、
 そして植えなさいと言われました。

 なんでもそうすると、木が枯れるまで二人はとても仲良しでいられるそうです。
 うまく育てば木の寿命は百年を軽く超えたりするので、
 ほぼ一生ということなのでしょう。


 さて、ここで問題になるのが誰と一緒に植えるかということです。
 う〜ん、ずっと仲良しでいたい人というと……
 加奈ちゃんとウサギさん。
 あと玲ちゃんは……彼女のためを思ったら、
 一生私のそばにいるより早めに成仏してもらったほうがいいと思うから抜かして。

 お母さんは……親子だからイヤでも離れられないしいいや。
 黒服は論外。

 あとは……あれ?
 候補が二人しかいない?

 べ、別にいいじゃないですか。
 友達がこれだけでも。
 少ないけど、そのぶん強い絆で結ばれてるんですよ。
 絶対に。


 とにかく候補が出そろったので、
 さっそく抽選会を開きたいと思います。

 抽選の方法は私の目の前を次に通る人が男性だったら加奈ちゃん。
 女性だったらウサギさんということにします。

 それでは抽選会、スタート!!

 

 

 ……皆さんに聞きたいのですが。
 美川憲一ってどっちなんですか?

 っていうかサインしてもらわなきゃ。
 ちょっと待って〜!!


 

 7月5日 月曜日 「穴を掘れ掘れ」」


 さて、昨日もらった苗木ですが、
 加奈ちゃんと一緒に植えることにしました。
 ちなみに抽選方法は独りジャンケンでした。

 寂しいとか言うな。


 加奈ちゃんに苗木のことを話したら喜んで引き受けてくれました。
 植える場所は家の近くの丘にしました。


 「ここぐらいでいいかな? 加奈ちゃん」

 「そうね。ここにしよっか」

 そう確認して仲良くスコップで土を掘り出した瞬間。

 ガキンッ!!!


 地面を掘ったらこんな音が出るものなんですね。
 初めて知りましたよ。


 「なんだか……鉄みたいだけど」

 「ホントだ……周り掘ってみようか?」

 加奈ちゃんと一緒にその鉄の塊の周囲を掘り進めて見ると、
 私たちの目の前には見事な

 「不発弾だね」

 「そうだね。典型的な形の不発弾だね」

 自衛隊に連絡いれました。

 

 さて、人生においてもっとも経験しなくてもいいことをやってしまった私たちですが、
 気を取り直して家の近くの山に来ています。

 「あれは……びっくりしたね千夏ちゃん」

 「本当だね……」

 互いの顔を見て苦笑いをした後、
 適当な場所を見つけて穴を掘り始めました。
 その瞬間。


 グシャッ!!!


 ……最近の土ってなかなか個性的な音をだしますね。

 私たちが掘った穴からはすごく臭い……

 「死体だね」

 「そうだね。
  しかも絞殺死体だね」


 警察に電話しました。

 


 なんていうかもうテンションが落ちまくりですが、
 私たちはこれくらいじゃ負けません。
 いや、誰に勝とうとしているのか分からないけど。


 「ここなら、多分大丈夫だよ……加奈ちゃん」

 「うん、きっと……大丈夫だよね……?」

 自信はありませんけど。


 ちなみにここは私の家の庭だったりします。
 あんなに遠出した意味はなんだったのでしょう?

 意を決して地面に穴を掘り始めました。
 しばらく掘り進めると地面の下に空洞があったみたいです。
 私のスコップがそこを突き抜けました。

 「あれ? 空洞? なんでそんなものが……」

 私がスコップを引き抜くとその空洞から……


 『王様の耳は、ロバの耳ー!!!』

 との声。


 ……私の家の庭にはとんでもない物が埋まっていたみたいです。
 っていうか御伽噺じゃないのかよ。

 もう面倒になったので、その空洞を埋めて、その上に苗木を植えました。

 「メルヘンチックでいいんじゃない?」

 加奈ちゃんがそう笑ってフォローしますが、
 どこか納得いかない今日この頃……。

 

 

 7月6日 火曜日 「衝撃の事実」


 「千夏……実はあなたには血のつながっていない妹がいるの」

 お母さんが衝撃的な告白をしました。
 私と一緒にお風呂を掃除している時に。
 ……もうちょっと時と場所を考えて下さいよ。


 「え? ええ!?
  妹!?」

 まさか風呂掃除中にそんなこと言われるなんて
 微塵も思ってなかったので、パニックです。


 「落ち着きなさい千夏」

 「これが落ち着いていられますか!!」

 今までずっと一人っ子だと思ってたのに……まさか妹がいたなんて。


 「それで……その妹は今どこに?」

 私のその問いにお母さんが重々しく答えます。

 「実はあなたの妹は……」

 ゴクリ


 「悪の組織に捕らえられて……」

 

 んだよチクショウ。
 妄想かよ。


 「洗脳されて悪の幹部にね」

 「そうですか。それは大変ですね」

 相づちをうちながらもお風呂掃除を再開します。


 「3クール目ぐらいにあなたと戦うのよ?」

 なんだよ。
 3クール目って。


 「そんなことよりお母さん。
  手を動かしてよ」

 早く掃除を終わらせたいんで。


 「でもね。ラスボス戦では姉妹で一緒に戦うの」

 「どうでもいいからさ、手に持ってる洗剤ちょうだい」

 「で、ラスボスを倒したら第一部完」

 「まだ続くんですか!?」

 「魔法少女チナチナ
  セカンドステージ」


 「なんですかチナチナって」

 「千夏→チナツ→チナ2→チナチナ
  みたいな」

 よくそんな無駄なこと考えつきますね。


 「私、魔法少女なんて嫌ですよ」

 恥ずかしすぎます。
 それに大きいお友達とか
 大きいお友達とか
 大きいお友達がうざいじゃないですか。


 「魔法が使えるのよ!?
  そのメリットに比べたら視姦されるくらいどうってことないでしょ?」

 オイ。
 視姦って具体的にいいすぎだ。


 その後もお母さんは私に向かって妄言を吐き続けました。
 結局、三期目まで物語が進んだ所で打ち切りになって終わりました。

 ……何気に面白い展開だったのは秘密です。

 


 

 7月7日 水曜日 「お父さん」


 今日は私のお父さんの命日です。
 お父さんは私が二歳の時に亡くなったそうです。

 そして私は今、お父さんのお墓の前で手を合わせています。


 「あなた……千夏はこんなに大きくなったわよ」

 隣にいるお母さんがお父さんに話しかけます。
 しかし私の成長を報告するなら
 鉄の身体になったことをまず伝えるべきではないでしょうか?


 「ねえお母さん。
  お父さんってどうして死んじゃったの?」

 「交通事故に巻き込まれて……命を落としたのよ」

 お母さんが悲しそうに言います。
 いやなことを思い出させてしまったかもしれません。
 お母さんは涙ぐみながら言葉を紡ぎます。


 「私があの時、前をよく見ていれば……」

 ってオイ。

 「ええ!? お母さんが轢いたの!?」

 「いいえ、はねたのよ」

 同じじゃねえか。

 

 「でもお父さんは最期の時まで立派だったわよ。
  三回転半して10メートルも跳躍したんだから」

 「それ、ただ跳ね飛ばされただけでしょうが!!」

 お父さんがすごく不憫です。

 

 「お父さん可哀想……」

 「でも笑顔で死んでいったわよ?」

 どうやら私のM性は父親から受け継いだ物らしいです。

 

 ……今までの話がお母さんのいつもの妄言でありますように。

 

 

 7月8日 木曜日 「割れ物注意のシール付き」


 今日、珍しいことに私宛てに小包が届きました。
 めったに無いことなので開けるのがとても楽しみです。

 楽しみだったんだけど……。


 小包には差出人の名が書いてなくて、
 中からチクタクと時計の音が……。


 さて、さっさと警察に電話しましょう。

 「ちょっと待てよ!!」


 突然見知らぬ人の声が響きます。

 「だ、誰ですか!?」

 「俺だよ、俺!!」

 声のした方にはさっき届いた小包があるだけ……。
 もしかして……


 「小包……さん?」

 「そう、当たり!!」

 小包が嬉しそうに声をあげます。


 「お前さあ、もうちょっと考えろよ」

 「へ?」

 「差出人の名前が無くて、
  中から時計の音っていったら中身はなんだ?」

 「時限爆弾でしょ?」

 だから警察に電話しようとしたんですが。


 「バカだなあ。
  そんなありきたりな物のわけないだろ?
  ここは裏をかいてただの時計に決まってるって」

 そっちの方がありきたりだと思うんですけど。


 「だからさ、開けてみろって」

 「いやですよ。
  そんな怪しい物」

 「お前が開けてくれなかったら!!
  俺は何のために生まれてきたんだよ!!」

 そ、そんなこと言われても……。


 「アイデンティティだよ、アイデンティティ!!
  お前は開封しないことによって俺のアイデンティティを殺すんだよ!!」

 「わ、分かりましたよ。
  開けますからそんなに怒鳴らないでください……」

 私は渋々カッターナイフを取り出し、
 小包の封を開けることにしました。


 「中はホントにただの時計なんですよね?」

 「さあ? 知らない」


 は?


 「な、何で知らないんですか!!」

 「知らないもんはしかたないだろ……」

 「小包なら自分の中身ぐらい把握しててくださいよ!!」

 「じゃあ聞きますけど!!
  あなたは自分の内蔵見たことありますか!?」


 逆ギレかよ。


 「時限爆弾だったらどうするんですか!!」

 「一緒に死のうや!!」

 「お断りです!!」

 

 私は怒鳴りちらしている小包を無視して、
 警察に電話しました。

 

 20分後。
 到着した爆弾処理班によって小包は液体窒素の中に放り込まれました。
 なんでもそうすることで爆発することが無くなるそうです。


 で、結局小包の中身はただの時計だったみたいです。

 

 ……ごめんなさい、小包さん。

 カチコチに凍った彼は、
 どこか寂しそうでした。

 


 

 7月9日 金曜日 「夏の怪談」

 「でね、昼間は確かに12段だった屋上への階段が、
  夜中には13段になってたんだって!!」

 「へぇ〜……」

 さっきから歩く超常現象こと玲ちゃんが、
 こともあろうに怖い話を披露しています。

 しかし残念なことに私にとっては玲ちゃんの存在のほうがインパクトがあるので、
 いまいち話にのめりこむことができません。


 「もう、千夏ちゃん。
  ちっとも怖がってくれないから面白くないよ」

 「そんなこと言われてもね……」


 「あ、そうだ。
  ねえ、今日の夜に学校に忍び込んで七不思議を体験してみない?」

 「え……なんでそんなこと」

 「千夏ちゃんの驚いた顔が見たいから」

 いつも玲ちゃんがいつの間にか私の傍に現れた時に思う存分驚いているのに。
 まだ足りないっていうんですか。

 


 午後九時。
 今までに無いほどの押しの強さで迫ってきた玲ちゃんと、
 夜の学校に集合しました。
 午後九時という中途半端な時間が小学生らしいです。


 「夜の学校ってなんだか不気味だね……なんか出そうだよ」

 玲ちゃんが低い声で前フリします。
 確かになにか不思議な物が現れそうですね。

 というか実際目の前に不思議存在Rがいるんですけど。


 「それじゃさっそく七不思議巡りしようか?」

 「七不思議って……どんな話でしたっけ?」

 「うふふふ……それは行ってみれば分かるよ」

 うわ、なんか玲ちゃんノリノリ。

 

 

 「ここが七不思議の一つ、
  『夜中には13段になる階段』です」

 昼間に聞いたやつですね。


 「それでは本当に13段あるか調べてみましょう」

 そう行って玲ちゃんは階段を一段ずつ数えながら上がって行きます。

 「1、2、3、4、5、6、
  7、8、9、10、11、12、13!!
  ほら!! すごいよ千夏ちゃん!!
  本当に13段あった!!」

 「昼間は本当に12段だったんですか?」

 「え……?
 え〜と、数えてないから分からない……」

 「……」

 なんだかすごく興ざめ。


 「あ、明日の昼間にもう一度数えれば分かるよ!!」

 「……そうですね」

 

 

 「ここに日誌を入れると、
  女神が出てきて質問されるらしい日直日誌入れ!!」

 「ごめんなさい。
  その女神に心あたりが……」

 


 「人語を喋る兎がいる飼育小屋……」

 「その兎は今はどこかの家庭で楽しく暮らしてると思いますよ」

 


 「もう千夏ちゃん!!
  どうして驚いてくれないの!?
  私は泣きじゃくって、腰抜かして、
  抱きついてくる千夏ちゃんの姿が見たいのに!!」

 ちょっとばかり屈折した友情ですね。


 「こうなったら『屋上に現れる自殺した少女!!』
  これならどう!?」

 「え……それって」


 「5年前にね一人の女の子が
  この屋上から飛び降り自殺したんだって」

 もしかして……玲ちゃんのことなんじゃ。


 「な、なんで自殺したの?」

 「彼女が自殺した理由はね……復讐のためなの」

 「復讐……?」


 「そう。彼女はイジメられてたの。
  そしてイジメに耐えきれなくなった女の子は
  イジメっ子への憎しみを抱いたまま屋上から……」

 「玲ちゃん……」

 「不思議なことにね、
  彼女が死んでからイジメっ子たちに
  次々と不幸が起こったんだって」

 「不幸って一体どんな……?」

 玲ちゃんが呪ったということなんでしょうか。
 人を憎むためにこの世に居続けるなんて
 ……とても悲しいことだと思います。


 「イジメっ子たちは呪いでね……」


 ゴクリ

 

 「缶ジュースのプルタブが
  うまく開けられなくなったんだって!!」

 「……」


 なんというか、
 すごく玲ちゃんらしい呪いに感動です。


 

 7月10日 土曜日 「カキ氷を食べよう」


 絶対に真夏です。
 なんなんですかこの気温は。


 借金まみれな私の家にはクーラーなんて高級な物はありません。
 扇風機だって二台しかありません。

 その二台の内の一つはパソコンの冷却ファンですし。
 っていうか普通はそんなの数に入れませんよね。

 ……あきらかに私も熱暴走気味です。

 

 さて、このままだと本当にどうにかなってしまいそうなので
 年に数度しか使わない「家庭用カキ氷製造機」を引っ張り出して
 カキ氷を作ることにしました。

 シロップは蜂蜜です。

 ……別にいいじゃないですか。
 っていうかそもそも屋台で使われているようなシロップを
 常備している家庭は異常だと思います。


 「あれ? カキ氷機が無い……」

 カキ氷機があると思っていたタンスには
 「50m先 工事中」とプリントされた看板しかありませんでした。
 って、なんでこんな物あるんだよ。


 「カキ氷機を探しているのか?」

 我が家のパラサイトこと黒服が話しかけてきます。

 「どこにあるのか知ってるんですか?」

 「ああ、今カキ氷機は俺が改造してるから」


 ……改造?

 「な、なにやってるの!?」

 「この改造により出力が1.5倍に……」

 出力って言われても、あれってたしか動力は人力なのに。

 「さらに光学迷彩を装備していて……」

 どこの世界に隠密行動しなければいけない
 カキ氷機があるんですか。

 「連続稼働時間が50時間を超えました」

 つまり50時間もカキ氷を作り続けても大丈夫ってことですか。
 バカ。
 すごいバカだよあんた。

 


 「とにかくカキ氷機を貸してくださいよ」

 「自衛隊の特殊装備としてイラクに持ち込まれました」

 「嘘つくな!!」

 

 あ〜……カキ氷食べたい。

 

 


過去の日記