10月16日 日曜日 「ナマズ怪人の最後」

 あらすじ:お母さんたちが吐き出されたと思ったら、またまたパックンチョ。


 「……どうしよ」

 昨日、私が作った特性シチューのおかげで一度はナマズ怪人のお腹から飛び出てきたお母さんたちですが……
 その後、口から飛び出したご飯粒を回収するが如くお腹の中に戻されてしまいました。
 これはもうなんか……助ける手立てがたった一つしか思い当たらないんですけど?
 それはそのつまり……排泄物として出るのを待つしか……。

 「千夏! それはダメ!! 人間としての尊厳に関わるから、絶対にダメェ!!」

 「お、お母さん……」

 ナマズさんのお腹の中から私の心を読むのは止めてください。
 っていうかそんな大声出すとナマズさんに気付かれますよ?

 「あれ? 今何か声が聞こえなかった?」

 ほらきた。

 「えーっとですね、多分声が反射したんだと思います。
  ほら、ここって密閉されてる状態だから、声の逃げ場が少ないじゃないですか。
  だからですよ」

 「ふーん、そっかぁ。まるで私のお腹の中から聞こえてきたように思えたけど、
  気のせいだったかぁ」

 えらくピンポイントな所を突いてますけど、気のせいにしておいてください。




 「ふあ……私、眠くなってしまいました」

 「ちょ、ちょっと!? 寝ちゃうんですか!?」

 寝たらトイレに行かないでしょうし……このままじゃあ助け出す手立てが無くなってしまいます。
 どうしよう!!

 「あ、あのですね! 寝る前にはストレッチするのがいいんですよ!!
  健康に! 主に健康に!! もしくは便秘に!!」

 「え? そうなんですか?」

 「そうなんです!! だからっ、ストレッチしましょう!!
  私も手伝いますから!!」

 「そうですねぇ……やってみましょうかねぇ」

 やったー。
 これでナマズさんの腸の動きを活発にしてやれば、
 お母さんたちの人間の尊厳を失う代わりに助け出す事が出来ますよ!!
 この際、尊厳なんて捨ててしまえです。





 「でもストレッチってどんな風にやるんですか?」

 「え? えーっと……」

 そういえば、私だってストレッチなんてした事がありませんよ。
 多分ラジオ体操なんかとは違うと思うんですけど……適当にやるしかないですね。

 「……それじゃあまずは鶴のポーズから」

 「鶴のポーズ? なんかどっかの拳法みたいですね」

 「気のせいですよ。いいから鶴みたいに片足立ちしなさい!!」

 「分かりましたよ……よっと」

 ナマズ怪人はその巨大な体躯でありながら片足立ちします。
 すごい壮観な風景ですね。
 っていうかゆらゆらと揺れてるのがすごく怖いんですけど……。

 「うわぁ!?」

 「きゃああああぁ!!!!」

 『ドゴオォン!!』

 バランス感覚がダメな人なのか、盛大にこけるナマズ怪人。
 その時に巨大な身体を壁に打ち付ける事になりまして、
 もんのすごい振動が私を襲いました。
 多分……上の世界ではとんでもない事になってるんでしょうね。
 …………私の所為じゃないよね?


 「……」

 「えーっと、ナマズさん?」

 「……」

 「……ナマズ、さん?」

 「……」

 なんか、倒しちゃったみたいです。

 「…………………………大勝利ー!!」

 わーい♪ 私の計算どおりですねぇ!!
 本当に! 計算していたんだってば!!






 10月17日 月曜日 「戦争終結」


 「とりあえず助かったわ千夏。あなたがあの怪人を倒せるだなんて思っていなかったけど」

 「お母さん……。まあ倒したって言うか……別にいいじゃないですか。早く地上に出ましょう」

 「すごいぞ千夏? まるで若い頃の俺を見ているような活躍っぷりだ!!」

 「師匠……なんか全然活躍してないからって、無理やり気味な自分の押し売りはやめてくれますか?」

 「お姉さま……私、食われてばっかりなんですけど、何かあるんでしょうかね?」

 「…………最近のリーファちゃんは食べられる運命に付きまとわれているんじゃないですか?
  本当にどうでもいいけど」

 「モグモグッ、モグー!!!!」

 「お腹の中で何があったんだモグラさんっ!?」

 昨日、偶然ながらもナマズ怪人を倒せました。そのおかげで、私はお母さんたちを助け出すことが出来ました。
 まあ助け出したって言っても、気絶して泡吹いてるナマズ怪人の口から、
 ぞろぞろとお母さんたちが勝手に這い出てきたんですけど。
 なんかすっごく怖い風景でしたよ。




 「それじゃあ帰りましょうか。地上に」

 「ええ、帰りましょうお母さん」

 とにかく、めでたしめでたしです。
 さっさと命綱を使って地上に戻り、平穏な日常を取り戻しましょう。
 もうこんな生活こりごりです。

 私たちは、命綱を上り始めました。








 「よーし!! 着いたぞー!!!」

 「千夏さーん!! お帰りなさいっ!!」

 「おーっ、雪女さん。本当に久しぶりですね」

 本当に久しぶりの地上。
 って言ってもまだ地下洞窟内なんですけど。
 とにかく戻ってくる事ができました。

 「千夏さん! 聞いてください!! あのですね、アメリカ軍が……」

 「アメリカ軍が!? また何かしてきたんですか!!??」

 「いえ!! 完全に停戦するらしいんです!!
  あんまりにも私たちに対してお金使いすぎたらしくて、国防費が大変なんですって!!
  ざまあ見やがれ!!」

 「本当ですかぁ!? やったあ!!!!
  戦争が終わったぁ!!!!」

 「よく今まで頑張ったわね千夏。
  戦争が終わったのは80%は私の手腕のおかげで、20%が千夏の活躍よ。
  本当に良くやったわ」

 「おぉーう。微妙な感じのお褒めありがとうございます」

 「とにかくこれで全て終わったわ!!
  さあっ、家に帰りましょう!!!!」

 「はい!!!」

 「「「家に、帰るぞー!!!」」」

 家族みんなでそう叫びました。

 こうして、長すぎた戦争はようやく終焉を迎えました。
 この戦争で得た物は日常の大切さの再確認という、
 あまりにも被害に対して割に合わないものでしたけど、まあ良しとしましょう。
 戦争なんてしょせんそんなもんです。得るものが少なくて当たり前です。
 生き延びただけでも設けもんだと思う事にしましょう。


















 …………っていうか、地上に出てみたら一面瓦礫の山なんですけどー!!??

 「こ、これは一体何が……? もしかして知らない間に核攻撃が……」

 「いえ……多分、千夏さんたちがマントルに怪人を倒しに行っている間に起こった大地震によって
  みんな倒壊しちゃったんだと思います。あれ、かなり揺れていたから」

 「そう、ですか……」

 復興、どれくらいかかるかなぁ…………?










 10月18日 火曜日 「再建開始」


 戦争を見事終結へと導いた私たちは、揃って自宅へと帰る事にしました。
 地下洞窟へ繋がる大きな穴が開いた旅館跡地は、
 秘密結社の生き残りであるモグラさんとシャークさんに変換いたしました。
 なんか、いろいろ迷惑かけてごめんなさい。

 とにもかくにも、全ては万事オッケーです。
 そう言えば全然学校に行ってなかった事を思い出して軽く憂鬱になってますけども、
 まあ十分フォローできる範囲内だと思っています。



 ……まあ、全てが上手くいったわけではないんですけどね。
 大妖怪と戦っていたウサギさんは、どっか行っちゃったまま帰ってこないし。
 ……大丈夫ですよね? ウサギさん、とっても強いし。
 きっとどこかで元気にやってるはずです。そして、帰ってきてくれるはずなんです。








 「お母さん。久しぶりですよね。本当の実家に帰るのって」

 「ええそうね。家、また建て直さないといけないけどね」

 そう言えばそうでしたね。
 まあ今まで何回も倒壊してるんだから、別にショックを受けるような物でもないと思いますけどね。
 再建できるように頑張りましょう。

 「それにしてもこの電車、遅いわねぇ」

 「なんでも大地震でレールが歪んじゃったりしてるらしくて、徐行運転なんだそうですよ」

 「へぇー。大変ねぇ。地震の被害がここまで影響しているだなんて」

 「……」

 気のせいか、お母さんと雪女さんの会話は私を責めているようにも思います。
 まさかね。だってみんな、私の所為だって知らないはずだもんね。
 考えすぎだよね。

 「被害総額なんていくらになるのかしらね?
  きっと千夏がどれだけ一生懸命になって働いても稼ぐ事の出来ないお金でしょうね。
  本当に大変ねぇ」

 「お母さん!? 本当は気付いてるんでしょ!? この大震災の原因を、知ってるんでしょう!!??」

 「はて……? 千夏は何の事を言ってるのかしら?」

 くっ……なんかとてつもなく秘密を知られてはいけない人に、
 重大な事実を握られてしまったかもしれません。
 これじゃあお母さんに逆らえなくなっちゃう……。





 「よーし!! 家に着いたぞー!!」

 へとへとに疲れて帰ってきた私たちを待っていたのは、ミサイルが突き刺さった家。
 人が住めるような場所には全然思えませんけども、紛れも無くこの家は私たちの家なのです。
 日常の生きる場所なのです。
 少しだけ、感動しちゃってたり。

 「さあみんな!! 休んでいる暇は無いわよ!!
  みんなで、この家を建て直さなくちゃいけないんだからね!!」

 「はい!! 頑張りましょう!!」

 なんだか、とっても久しぶりな感じがして楽しいです。
 やっぱり家っていいですね。
 よくバラバラになるけども。











 「オラオラオラッ!! 俺たちの縄張りで何してやがるんでいっ!!
  よそ者はとっとと出ていきな!!!!」

 「え……? あなたたち、一体誰なんですか?」

 「俺たち? 俺たちはな、ここら一体を支配している鬼鮫組でぇい!!!」

 「いつの間にか、家に変なのが居ついちゃってるー!!」

 ちょっと……どうするんですかこれ。
 また面倒な事に……。



 「まあ別に、ヤクザと同居でもいっか……」

 「お母さん!?」

 あんまりにも戦争や何かで疲れたからって、投げやりにならないでください。

 「ふつつかものですがよろしくお願いします」

 「ヤクザさんも乗り気!!??」






 10月19日 水曜日 「家の改装プラン」

 「もぐもぐもぐ……お母さん、ご飯おかわりお願いします」

 「はいどうぞ。久しぶりの家の釜で炊いたお米だから美味しいでしょう?」

 「家の釜って言っても電気炊飯器だから、全然味が変わるはずないんですけど、
  まあ確かに美味しいと感じない事も無い気がします。
  っていうか、炊飯器で炊いた癖にちょっとだけ失敗してる所がお母さんらしいです。
  なんかびちゃびちゃなんですけどー?」

 「これは雪女ちゃんの所為です。ほらあの子、性格がびちゃびちゃしてるから」

 「酷いですよ春歌さん!?」

 それなら仕方ない。



 家に帰ってきて初めての朝食。
 この久しぶりの食事は結構楽しいものでした。
 いやー、やっぱり自宅が一番ですね。
 家の至る所にミサイルが突き刺さってる状態だとしても。



 「このミサイルたちどうするんですか……?
  このままだとすっごく危ない気がするんですけど……」

 「まあ信管は抜いてあるから爆発はしないと思うけど、確かに邪魔ね。
  ……うーん、フリーマーケットででも売り払おうか?」

 「それはやばいでしょ!!
  フリーマーケットに並んでいるミサイルという構図がすっごくやばい!!」

 「外国の方々が買いに来てくれるかもしれないのに……」

 「客層も若干やばい!!!」

 なんでウチが武器商人に鞍替えしなくちゃいけないんですか。
 そういうやばい仕事はお断りです。

 「粗大ゴミとして出すわけにも行かないし……どうしたものかしら?」

 「ミサイルの廃棄方法については一つ提案があります」

 「黒服さん!? 本当ですか!?」

 急に食卓に現われた黒服さん。
 何かアイディアのような物があるらしいです。



 「黒服さん、朝ごはん食べる? ご飯びちょびちょだけど」

 「ええ、頂きます」

 「ちょっと、朝食とかどうでもいいからミサイルをどうにかする方法を教えてくださいよ」

 「もー千夏ったら何を言っているの?
  朝食っていうのはね、人がお昼に働くために使う栄養を取るためにあるのよ?
  言わば一番働き時のエネルギー源!!
  それを摂取しないだなんて、怠け者にも程がある……」

 「なんか急にもっともらしい事を説教しないでくださいよ。
  あんたは給食のおばさんか何かか」

 「それでミサイルの話なんですけどね、あれらは、全部家の補修材に使ってしまおうかと」

 「へ? ミサイルを家の材料にするんですか?」

 「ええそうです。まさにリサイクル。
  リサイクルとミサイルって何となく語感が似てますもんね」

 「どうでもいいよそんな事は」

 「音速を超える速度で飛ぶこの巡航ミサイル及び弾道ミサイル類は、断熱性に優れた素材なんです!!
  これを家の壁に使えば、冬でもあったかく、そして夏はまるでサウナのようにっ!!」

 「ダメじゃん!! 最後のはダメじゃん!!
  サウナというのは、決して住居の褒め言葉ではない!!」

 「まあ夏になったら壁の一部を取り外して風の通り道を作ってあげればいいじゃないですか。
  何の問題もありません。無問題です」

 「私たちの家を組み立て可能な通販グッズのノリでバラけさせるな。
  どうせ改修するならプラモデル並みの壊れやすさをどうにかしてくださいよ」

 「壊れやすさがこの家の個性だと思ってますし」

 「そんな個性、大海原に旅に出しちまえ」

 「うん……なかなかいいアイディアね黒服さん。
  さっそく作業に取り掛かってくれるかしら?」

 「ガッテンでい」

 「えー!!?? 本当にミサイルの家作るのー!?
  嫌だよー!! どうせならお菓子の家がいいっ!!」

 「お菓子の家だなんて素敵にメルヘンな事言って……。
  キャラ作り? 可愛いってキャラ作りなの?
  はんっ、その魂胆がお菓子より甘いってのよ」

 「お、お母さん……?
  ちょっと子どもっぽい事言っただけでなんでこんなに私は責められているんですか……?」

 「私はメルヘンと天然少女が街中で絵の販売会に誘ってくる人ぐらい嫌いです」

 「別に詐欺じゃないですよ私は!?」

 その嫌いな物ランキングの順位は良く分かりませんけども、
  すんごく嫌いという事だけは分かりました。



 「でもただミサイルの素材を使うだけじゃ味気ないわね……。
  そうだっ!! ミサイルらしさを前面に出して、緊急時には大気圏に離脱する機能を付けたらどうかしら?
  黒ひげ危機イッパツみたいな感じで!!」

 「考える事が幼稚ですよお母さん!!」


 何故か知りませんけど、そういう面白カラクリが付いた感じでの改修が決まってしまいました。
 本当に人が住める場所になるんでしょうか…………。







 10月20日 木曜日 「新しい先生」

 「千夏〜起きなさ〜い」

 「んにゃ……? どうしたんですか一体……。
  もう少し寝させてくださいよぉ」

 「あなた何言ってるのよ。今何時だと思ってるの?
  7時よ?」

 「だからどうしたって言うんですかぁ……。
  今ちょうどロッテが優勝する夢見てたのに……」

 「それは正夢、っていうかちょっと遅れた感じの夢ね。
  よっぽどロッテの優勝が嬉しかったの?」

 「別に。ファンでもなんでもないし」

 「じゃあ何でロッテ優勝の夢を見たのよ」

 知りませんよ。私の夢に聞いてください。




 「というわけでおやすみなさい。私は夢の優勝パレードの続きを見てきます」

 「いいから起きなさーい!!!!」

 「うわぁ!!??」

 お母さんの手によってベッドから落とされる私。
 一体何をそんなにいきり立って……。

 「はやく学校に行く準備をするの!!」

 「あ」

 学校。そういえばそんな物ありましたね。
 大気圏から離脱していく勢いで忘れてましたよ。

 意図的に。




 というわけで、私は夏休みが終わってから2ヶ月ほど経つにも関わらず一度も登校しなかった学校に
 行くことになりました。
 もうこのまま惰性で不登校でも良いと思うんですよね。
 ほら、戦争のトラウマによるPTSDがうんぬんで、自宅療養という事にして。
 もうちょっとそこら辺を気を使って欲しかったです。

 「はぁ……学校行きたくないなぁ」

 私にとっては学校は戦場と同じなんですよね。
 敵ばっかりで、気を抜いたら殺されてしまいます。
 それぐらい殺伐とした場所なんですよ。小学校というのは。
 誰ですか友達を100人作ろうなんて歌作った奴。
 友達100人よりね、いじめっ子100人作る方が簡単だっつうんだよちくしょうめ。


 「ああ……そんな愚痴を言っている間に懐かしき我が教室に着いてしまいましたよ。
  うぅ……入るの嫌だなぁ。きっと机の上に菊の花とかあるんだろうなぁ。
  それで花屋の店頭みたいになっちゃってるんだろうなぁ。
  そういえば夏休みの宿題もやってないし。沈められるのは嫌だなぁ」

 ここでぐだぐだ言ってても仕方ないですね……。
 ここは意を決して、教室の中に入ってみましょう!!


 「お、おはようございま〜す……」

 教室に入った私を迎えてくれたのは、自分の机の上にある……ミサイルでした。

 「なんで!? なんで私の机にミサイルが刺さってるの!?」

 「しらねえよそんなの。アメリカが爆撃していったんじゃねえの?」

 「えー!? あいつら、最後に嫌がらせして撤退して行きやがったな!!」

 私、これからどうやって授業受ければいいんですか……。

 「くっ……はやくも挫けそうです」

 これから憂鬱な勉強を繰り返し、
 そしてクラスメイトたちから消しゴムの欠片を
 投げつけられるという事をされないといけないなんて………

 はぁ……家に帰りたいよぉ。




 「ハロー千夏ちゃん♪ お久しぶりー♪」

 クラスメイトはみんな私を無視しているのにも関わらず、一人だけ話しかけてきてくれる人がいました。
 彼女の名前は玲ちゃん。幽霊である事を除けば普通の女の子です。
 多分、その幽霊である事は除いちゃいけないでしょうけど。

 「ああ、玲ちゃん……本当に久しぶりだね。元気してた?」

 「うんっ! 私は元気だよ!! 風邪とか病気とか、全然かからなかったし、本当に健康なの!!」

 そら幽霊だからね。

 「まあ元気そうでなによりですよ。あははは……」

 「んー、千夏ちゃんは朝から疲れてる顔してるねぇ。朝ごはん食べた?」

 「ええ、めっちゃくちゃ食べましたよ。でもね、こればっかりはどうにもならないんですよ」

 「そういうもんなの?」

 「そういうもんなの」

 どーにもなんない事がありまくりなんですよね。
 この世界は。




 「そういえば、千夏ちゃんのクラス、新しい先生が来たらしいよ」

 「新しい先生? なんで? 前までいた先生は?」

 「そこのミサイルに直撃して入院中なんだって」

 この席に座って何してたんだよあの先生は。
 もしかしてイジメっ子たちと一緒に悪戯しようとしてたんじゃないでしょうね?
 教師不信の私には、どうしてもそう思えてしまいますよ。



 「じゃあ新しい先生って……」

 「あっ!! 来たみたい!!」

 ガラガラとドアを開けて、1人の長身の女性が入ってきました。
 おそらくこの人が新しい先生………………

 「ってウサギさん!?」

 「はいみんな、席につくように」

 私のクラスの教室に入ってきた先生は、なんとスーツを着たウサギさんでした。
 なんで? どうして? ウサギさんが先生なの?
 大妖怪と戦っていたんじゃないの!?


 「ウ、ウサギさん!! どうして……」

 「それでは、出欠を取ります」

 「あれー!? すごい勢いで無視!?」

 一体これはどういう事なんでしょうか……。






 10月21日 金曜日 「跳び箱の授業」

 「今日の体育は跳び箱です。みんな、辛い現実を忘れて飛び回りましょう」

 「なんかそれ、ちょっと飛ぶの意味が違ってきてませんか?
  現実を忘れるのは薬物的な飛び方だと思うんですけど……」

 って、ああ。普通に突っ込んでしまいました。
 私たちのクラスの担任がウサギさんになっているという異常事態だというのに。
 どこまでもマイペースなツッコミ気質が憎い!!



 昨日から私たちの担任になったウサギさん。
 私にとっては明らかな違和感が溢れまくってるのですが、何故かクラスのみんなは受け入れていました。
 ウサ耳だぞ? コスプレの時に装着される以外は兎に付いてるアレが、教師の頭の上に乗ってるんだぞ?
 何か思う事は無いのかっ!!

 そう何度も心の中で叫びましたけど、クラスメイトたちには届きませんでした。
 彼らはいつも通り授業を受けて、そして私を虐めてましたとさ。
 そこぐらいはちょっと変化させろよ。
 私のツッコミよりマイペースなイジメ気質はやめてよ。



 とにかく、このまま良く訳の分からない状態を続けるわけには行きませんので、
 勇気を持ってウサギさんに話しかけてみたいと思います。
 ウサギさんはちょっと前から雰囲気が変わっちゃったので、正直怖かったりするんですけど……
 でも、ウサギさんはウサギさんですよねっ!!
 そういう大切な所は、何も変わってないはずです!!

 「あ、あの、ウサギさん……」

 「ん? どうした千夏? 早く飛ばないのか?」

 「いや、跳び箱は今はどうでも良くてですね」

 「跳び箱はいいぞー。こうピョンと飛ぶ感じが、野生を思い出させる」

 「ウサギさんだけでしょ!! 野生を思い出すのは!!」

 兎だったからね。



 「じゃなくてっ!! あのですね、なんでウサギさんがこの学校に居るんですか!?
  何で私たちの担任になってるの!? 大妖怪はどうしたの!?」

 「……実はな、俺は大妖怪の奴を追っていたんだが……」

 「追っていたんだけど?」

 「この学校の中に逃げ込んだらしい。だから、先生になって内部から調べる事にした」

 「ええー!? この学校の中に!?」

 「馬鹿。声が大きいっ!!」

 ウサギさんに口を塞がれる私。
 それにしてもなんて事でしょうか。
 あの凶悪大妖怪が、この学校に逃げ込んでしまっただなんて。
 もしこの学校内であの大妖怪が暴れだしたら、クラスメイトたちに大きな被害が……
 って、別にいいかな。イジメっ子たちだし。これぐらいの痛みを経験しても。

 「千夏? お前今、なんかすっごく極悪な顔しなかったか?」

 「うへぇ!? 気のせいじゃないですかそれは!?
  あはははは…………もうウサギさんたっらぁ」

 「そう思う事にしとくよ」

 ありがとうございます。




 「でも別に大妖怪なんて放っておいてもいいんじゃないですか?
  あの人を解放したアメリカ軍はもう居ないですし、単独で私たちに復讐するとは思えない……」

 「違うんだよ。あいつは、黒幕と繋がっている唯一の存在だから、絶対に逃がすわけにはいかないんだ」

 「黒幕……?」

 「まあ、いろいろとあるんだよ」

 「……」

 また私に分からないような話ばっかりして。
 ちょっとこの置いてけぼり加減は腹が立ちますね。

 「……そういえば、ウサギさんはウチに帰ってこないんですか?」

 「……今は帰れないよ。やる事がありすぎるから」

 「やる事って?」

 「ビデオ録画のCMカットとか」

 「それこそ家でやれよ!!」

 なんか上手い具合にはぐらかされてしまいましたね。
 ちくしょう……いつか本当の事を聞きだしてやりますからねっ!!




 「そういうわけだから、千夏も気をつけろよ。
  怪しい事がこの学校で起こったら、すぐに俺に知らせるように」

 「分かりました。気に留めておきます」

 「…………っていうか、千夏って本当にいじめられてたんだな」

 「うっ……」

 身内に虐められている事を知られる事ほど、恥ずかしい事はありません。
 自分がダメな人間だと言う事を晒してるみたいで、情けないったらありゃしない。

 「俺が何とかしてあげようか……?」

 「……別にいいです。先生が出てきてなんとかなるほど、イジメというのは甘くないですから。
  それに、ウサギさんが介入したら余計に深刻化すると思うから」

 「……そっか。でもよ、なにかあればすぐに相談しろよ?」

 「ありがとうございますウサギさん……」

 やっぱり、ウサギさんは何一つ変わっていなかったんだ。
 少しだけ怖くなってたけど、それは自分の使命に一生懸命だったからなんだ。
 そう思ったら、何だかホッとしちゃいました。



 「じゃあ、跳び箱飛んできますねっ!」

 「ああ、行ってこい」

 私は、跳び箱へと走り出していきました。








 『ドガラッシャーンッッ!!!!』

 「先生ー!! 千夏さんが跳び箱に突っ込みましたー!!」

 「千夏ー!?」

 そういえば忘れてましたけど、私、跳び箱苦手だったんですよね。
 …………やっぱ家に帰りたい。







 10月22日 土曜日 「新しいパソコン」

 ガサゴソ……そんな雑音が、休みの日だからぐっすりと就寝中の私の耳に届いてきます。
 今までの人生経験から言いますと、寝ている私を起こすこの小さな音は、
 8割が暗殺しにきたリーファちゃんで、2割が構って欲しくて布団にもぐりこんでくる雪女さんでしょう。
 ……どんな人生経験なんですかこれは。
 我ながら、軽く未来に絶望してしまいます。


 とにかく、こういう音を聞いたら早く起きて対策と立てるなりしなければ、命と貞操の危機に瀕する事は確実です。
 私はすぐに飛び起きました。

 「誰ですかっ!? リーファちゃん!? 雪女さん!?
  どっちにしたってぶん殴る!!
  …………って、お母さん!?」

 「ありゃ。起きちゃったか」

 「なんでお母さんが寝込みの私を……はっ!! もしかしてっ!!
  とうとう借金苦を改善するために私を売り飛ばそうと……」

 「違うわよ。そういう事をするなら、もうちょっと上手くやるわ。
  あなたを起こすなんてヘマはしないわ」

 「そりゃあ心強い」

 この部屋の警備システム……ミサイルの爆撃で機能を停止しちゃったみたいなんですよね。
 黒服に言って早く直してもらわなきゃ。




 「それで何の用ですかお母さん。もし何かの嫌がらせなら、さっさと帰ってください。
  私、疲れてるんですから。早く二度寝したいんですよ」

 「ふっふっふ……すっかり戦争前の生活に戻ったようね。

  元気そうで何よりだわ」

 ぐうたら寝てるのが元気そうと言われても困るんですけど……。

 「今日はね、千夏にクリスマスプレゼントをあげようかと思って」

 「気が早いにも程がありますよ。まだ10月ですよ? 2ヶ月も先のプレゼントを今貰ってどうするんですか」

 「じゃあ誕生日プレゼント」

 「もっと先じゃないか!! っていうか別に普通のプレゼントとして渡せばいいじゃん!!」

 「いやぁ……ちょっとそれは恥ずかしくてね」

 「なんで実の娘にプレゼント渡すだけでそんなに恥ずかしがるんですか……。
  憧れの先輩にマフラーを渡し損ねている生娘かあんたは」

 「じゃあプレゼントあげるね」

 お母さんは手に持っていた大きな白い袋の中をごそごそと漁ります。
 その袋、クリスマスのサンタの奴ですよね?
 本当にクリスマスプレゼントとして持ってきたんですか……。
 その狂いに狂った季節感はどうにかした方がいいと思いますよ。



 「じゃーん!! 新しいパソコン!!!」

 「おーっ」

 お母さんが袋の中から出したのは一台のパソコンでした。
 お母さんがこんな高級な物をプレゼントしてくれるだなんて……一体何が。

 「どう? 嬉しいでしょ? 超ハイスペックの最新機種なんだからね♪」

 「本当にすごいです……。どこの電気店から盗んできたんですか?
  あ……大地震の時のどさくさに紛れてやったんでしょ?」

 「私は火事場泥棒かい」

 だってそうとしか考えれらないじゃないですか。
 おもちゃや洋服なんて全然買ってくれないお母さんが急にパソコンだなんて……。

 「とりあえずありがとうございます……。
  本当に嬉しいですよ」

 「そう。良かった良かった」

 「でも本当になんで私にパソコンなんかを……」

 「いやね、アメリカ軍との闘いでいいコンピュータを見つけたから。
  だから、それを流用して作ったの」

 「へぇ……アメリカ軍で見つけた奴……?」

 それってもしかして……。


 (よう千夏ちゃん。久しぶりだね)

 「やっぱり足長おじさんだー!!??」

 ターミネーターのサーバーだった物をパソコンにしちゃったんですか!?
 ちょっと酷すぎ!! っていうかこれを使うのは躊躇われるよ!!

 「贅沢言わないの。使えるものは全部使わなきゃ」

 「でもいくらなんでも酷すぎでしょ!! 足長さんもっ、パソコンなんかになりたくなかっただろうよ!!」

 (いや、俺は結構この生活気に入ってるんだぜ?)

 「えー!? そうなのー!?」

 無理やり改造されてしまった悲しい人だという印象だったのに、
 結構ポジティブな人だったんですね。
 なんか同情して損したわ。



 「じゃあ大切に使いなさいね」

 「えー……これ、本当に私が使うんですか? お母さんが使えばいいじゃん。
  私電脳あるし」

 「私がパソコンに触れると4秒で壊しちゃうから」

 「ECM(電子装置妨害システム)レベルの機械オンチかよ」

 (ブックマークに変なの入れるんじゃないぞ? つるっと手を滑らして晒しちゃうかもしれないからな♪)

 「プライベートも無いのかこのパソコンは!!!!」



 多分、使わないです。











過去の日記