11月6日 日曜日 「人間不信の2人」

 「千夏さん千夏さん。お饅頭作ってみたんですけど、いかがですか?」

 「え? これ、雪女さんが作ったんですか?」

 「はいそうです♪ だから思う存分食べちゃってください!!」

 「えー? いやですよー。私、家族からの食べ物は朝昼夕ご飯以外口にしない事にしてるんです」

 「な、なんでですか!?」

 「毒が入ってるかもしれないので」

 「なんで千夏さんの食物に関する安心度は、他人>家族なんですか」

 今までいろいろあったんで。



 「お願いですから食べてくださいよー」

 「イヤですってば。私に食べて欲しいなら、まず初めに目の前で犬かネコに半分食べさせてですね……」

 「毒見が必要なほど疑ってるんですか!? 私が千夏さんに毒を盛るわけ無いじゃないですか!!」

 「用心には用心を重ねてですね……。
  まあそんな事はどうでもいいんですけど、どうしてまた急にお饅頭なんて作ったんですか?」

 「実はですね、この家の名産品にどうかと思って作ってみたんです」

 「名産品? ……ああ、そういえばこの家って世界遺産でしたね。
  すっかり忘れてた」

 「今は修繕中ですけど、直ったら観光客が来てくれるかも知れないじゃないですか。
  だから、今のうちに名産品を作っておこうかなぁって。
  だから千夏さんに試作品を食べて欲しかったんですけど……」

 「雪女さんは偉いですねぇ。真面目に我が家の家計の事を心配しているのは雪女さんだけですよ。
  ホントに偉い偉い」

 「えへへ……だからですね、このお饅頭を食べて……」

 「嫌です」

 「そこまで頑な何ですか!?」

 それとこれとは話が別ですよ。







 「お願いですってば!! 自信作なんですよ!!」

 「一発で私を殺せる自信があるって事ですか?」

 「違います! きっと美味しいって言ってもらえるだろうなって、そういう自信があるんです!!
  どこまで家族不信なんですか千夏さんは!!」

 家族不信なんて単語、初めて聞きましたよ。

 「仕方ないですね……。ほら、そこの縁側に寝っ転がってるラルラさんが居るじゃないですか。
  まず彼女に食べさせてください」

 「本当に先にネコに毒見させるんですね……」

 「その、哀れむような視線は止めなさい」

 まあ分からないでもないですけど。



 「ほーらラルラさーん。お饅頭ですよぉ」

 「にゃーん」

 「美味しいですよぉ」
/p>

 「にゃぁあ」

 「ちょ、ラルラさん、早く食べ……」

 「にゃー!!」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……千夏さん、食べ」

 「食べません」

 ネコにあれだけ嫌われるってどういう事なんですか。
 やっぱり食べなくて正解だったかも。


 「ネ、ネコにはですねっ、私の料理の素晴らしさなんて分からないんですよ!!」

 「はぁ……そうですかぁ」

 「な、なんですかその言い訳なんて聞きたくないねっていう顔はっ!!」

 「別にそんな事を思ってなんかいませんよ。
  気にしすぎです」

 「じゃあ! じゃあその目は何なんですか!
  ゴキブリを見るような、その目はっ!!」

 「だから、そんな事思ってませんってば」

 「嘘です嘘です嘘です!! 千夏さんは心の中では私の事を使えない妖怪だとか、
  万年家政婦だとか、奴隷薄幸少女だとか思ってるんですよ!!」

 「ちょ、雪女さん……」

 私は確かに家族不信ですけど、雪女さんは思いっきり私不信じゃないですか。
 人の事言えないよ。






 11月7日 月曜日 「日常の捏造」

 「えーっと、んーっと、えーっと……」

 「あれー? 何唸ってるんですか千夏さん?」

 「ああ、なんだ……女神さんですか。ちょっとがっかりした気分ですね」

 「話しかけたらがっかりされたなんて事、初めて経験しましたよ。
  地味にショックですね」

 「そうですか。良かったですね。
  はぁ……どうしようかなぁ……」

 「そのスルーっぷりは傷つきますよ……。
  何かあったんですか? 私で良ければ相談に乗りましょうか?
  誰かに話してみるだけでも、結構気分が違うものですよ?」

 「女神さんに相談?
  う〜ん……馬に念仏唱えるような物ですけども、まあしないよりはマシですかね。
  じゃあ聞いてください」

 「先ほどから私の繊細な心は傷つきっぱなしなんですけど?」

 これくらいでめげてちゃいけませんよ女神さん。




 「あのですね、今日は1日がとっても平和だったんです。
  大して酷いイジメをされた訳でもないし。大妖怪とか変な敵が襲ってきたわけでもないし。
  あと、妙なおじさんに道端で絡まれる事も無かったし」

 「千夏さんって毎日が本当に大変なんですね……」

 「放っておいてくださいよ。とにかくですね、平和すぎて困ってるんです」

 「平和すぎて困ってる? すごく良い事じゃないですか。
  なんで千夏さんが困る必要があるんですか?」

 「それはですね、日記に書く事が無いからですよ!!」

 「書く事が無いなら、そのまま何も無い1日でしたと書けばいいだけなんじゃ……」

 「それじゃ全然面白くないじゃないですか!!
  いや、確かに私の日記で何も無い1日でしたと書けばそれはそれで「んなわけねーだろ」という閲覧者のツッコミが
  上手い具合に合わさって笑えるかもしれないけど、でもそれは真っ白のキャンバスを額縁に飾って、
  これは芸術作品ですと言っているような物なんですよ!!
  芸人魂として、それは許せない!!!」

 「なんだかよく分からないけど、千夏さんの日記に対する想いだけは十分理解しました」

 命賭けてるんですよこっちは。



 「だからですね、すっごく困ってるんです……」

 「んーっと、それじゃあ……嘘の内容を書くってのはどうですか?」

 「おぉー、さすが常日頃から日陰で暮らしている女神さん。
  一番目に出したアイディアが日常の捏造だとは。あなたの気質には本当に尊敬の念を払いますよ」

 「私は日陰でなんてくらしてませんよ!!
  あと、私がすっごく汚い存在だと言いたげな言葉はやめてください!!
  これでも一応女神ですよ!?」

 そう言えばそうでしたね。すっかり女神さんが女神であると言う事を忘れてましたよ。
 名前そのままなのに、不思議なものですね。

 「よし。じゃあそれで行きましょう」

 「あれだけ馬鹿にしていたのに結局捏造するんですか!?」

 背に腹は代えられませんからね。






 「でも日常を捏造って言ったってなぁ……何にも思い当たらないですよ」

 「それじゃあですねぇ、こういうのはどうですか?
  『いつ』『だれが』『どこで』『どうした』というグループに属している単語を紙に書いてですね、
  それを箱の中に入れて、くじの感覚でそれぞれ引き抜いていけば、ひとつの物語ができると思うんです!!
  そしてそれを日記に書いてやれば、万事オッケーじゃないですか!!」

 「おーっ、確かに。良い事考えましたね女神さん」

 「えへへ……どうもです」

 「あ、しまった」

 「え? どうかしました?」

 「女神さんを褒めちゃった」

 「この世界のどこかで、私の事を褒めちゃいけないという法律が、
  知らない所で作られちゃったりしてるんですか!?
  褒めてよ!! もっと私を褒めてよ!!」

 小学生に少女に、もっと褒めてと懇願する女神はどうかと思いますよ。




 「さてそれじゃあやってみますか。とりあえず今日の日記なので『いつ』の項目は外して置きますね。
  じゃあ捏造開始!!」

 「そのスタートの掛け声はどうかと思います」

 「まずは『だれが』ですけども……パン屋さんに決定いたしました」

 「まあ平凡ですね」

 「確かにね。パン屋さんなんてごまんといるもんね」

 「そんなに日常に溢れかえっている物ではないと思いますけど」

 「次は『どこで』ですが……貯水率が20パーセントを切ったダムという事になりました」

 「これは結構深刻な水不足問題ですね」

 「現実には起きてないけどね。
  さて、次はいよいよ『どうした』ですけども……殺人事件を解決したという事になりました」

 「さすがパン屋ですね」

 「ええ、さすがパン屋です」









 〜本日の日記〜

 私がたまたま貯水率が20パーセントを切ったダムに散歩に行ったら、そのダムでパン屋さんを見かけました。
 彼はそのダムの頂上付近で連続殺人犯の男に推理を披露していました。
 男は身投げしようとしましたが、パン屋に止められました。
 夕飯がとても美味しかったです。


 『パン屋コゴローの事件ファイル X
  〜水不足のダムで起きた悲劇。被害者の足元に落ちていたアンパンに秘められた愛。
   彼女は何故、こしあん派だったのか? 謎が謎を呼ぶミステリーの最後は、悲しみに彩られた断水報告だった〜」


 〜完〜








 「……これはどうなんですかね?」

 「どうなんでしょう?」


 まあいっか。









 11月8日 火曜日 「書店のしおり」

 今日、私の好きな漫画の発売日だったので、家の近くにある書店へと足を運びました。
 本屋というのはとっても素敵な空間ですよね。
 大量のさまざまな本に囲まれていると、なんだかとっても圧倒されます。
 物語たちの集う場所だからなのでしょうか?


 「さてと……今日買う本はこれだけですね。
  それじゃあさっさと会計を済ませてしまいますか」

 私は本屋ならば何時間いたって飽きないんですけどね。
 別に立ち読みしなくても、本の表紙を見てるだけで結構楽しめますし。
 この本の中身はきっとこうなんだろうなぁって想像したりして。

 まあ今日はそんな暇じゃないで、さっさとおいとまさせて頂きますけど。


 「ご会計は420円となります」

 「420円か……。えーっと、500円玉一枚と、十円玉……」

 「ブックカバーをお掛けしますか?」

 「え? ブックカバーですか? えーっと、いらないです」

 まあ別に電車の中で読むわけじゃないですしね。
 そんなもの貰ったって資源の無駄遣いですし、裸のまま持ち帰らせていただきます。

 「そうですか。それじゃあ対戦車用ライフルの装甲板はお付けしますか?」

 「……はい?」

 今、なんて言ったこの店員?

 「あの、意味が良く分からないんですけど……」

 「ああ、そうですね。えっと説明させていただきますと、対戦車ライフルの砲弾が装甲に直撃したと同時に、
  装甲板に仕込んでおいた爆薬を爆発させる物でして、それによって対戦車ライフルの砲弾が戦車内に到達しない……」

 「違う!! 装甲板の説明じゃない!! なんでそんな物を本に付けなきゃいけないんですか!!」

 「サービスです」

 最近のサービス過剰は話に聞いてましたが、まさかここまでだったとは。
 どこの誰だよ。こんな事考え付いた奴。



 「装甲板お付けしますか?」

 「要りません。明かに使用される場所が戦場のサービス品なんて要りません」

 「しおり代わりに使えば……」

 「しおり代わりには、きちんとしたしおりを使います」

 「そうですか……」

 なんで少し残念そうなんですか。
 やっぱり誰も貰ってくれないから?

 「じゃあフェーズド・アレイ・レーダーをお付けいたしましょうか?」

 「今度はレーダーなの!?」

 新車にカーナビつける感覚で、イージス艦に搭載されているレーダーを付けるのは止めてください。
 っていうか私が買ったのは420円の本ですよ?
 どう考えたってサービス品の方が高く付くでしょうが。


 「このレーダーはですね、今まで護衛艦に備え付けられていた回転式のレーダーとは違い……」

 「要らないですから。そんな説明されても要りませんから」

 「そうですか……。でも今なら2枚付けますよ?」

 「いらねっつうの」

 「しおり代わりに……」

 「しおりはしおりを使います」

 「そうですか……」

 そんなに残念そうって事は、やっぱり貰ってくれる人居ないんだ?
 そりゃそうだろうね。レーダー貰ってどうすんだよ。家にあるイージス艦に付けたりするんですか?
 どんな軍隊がこの書店に本を買いに来るんだ。




 「あのですね、そういうサービスって、ものすごく意味が無いと思うんですけど……?
  痛い目見ない内に止めた方が良いですよ?」

 あまりにも可哀想だったので、ついついそんな事を店員さんに言ってしまいました。
 小学生の客にそんな事言われるなんて、それこそが可哀想ですけど。

 「あなたもやっぱりそう思いますか……?」

 「あ。やっぱり店員さんも私と同じ事思ってたんだ」

 雇われの身は辛いですね。
 同情してあげますよ。

 「そうですよね。やっぱりせめてバンカーミサイルぐらい付けなきゃ喜ばれませんよね」

 「地表貫通ミサイルは要らないですよ!! っていうかそういう問題ですらない!!
  なんで軍事兵器ばっかりサービスで付けるの!?」

 「趣味なんですよ。兵器を見ながら涎垂らすのが」

 「お前の嗜好だったんかい」

 もう同情する気さえ起きんわ。







 11月9日 水曜日 「道具の使い方」


 「あ……どうしよ」

 それは今日の学校での授業中の事でした。
 私が使っていた鉛筆の芯が、こうポキリと折れてしまったのです。
 しかしあれですね。芯が折れた鉛筆の姿は、不思議な寂しさが漂いますね。
 まあどうでもいいんですけど。

 とにかく、はやく削ってあげないと黒板に書かれた内容を板書する事ができません。
 私は自分の机の中からカッターを探そうとしました。
 代えの鉛筆? そんな高級品、私が持ってるわけないじゃないですか。
 いつもたった一本の鉛筆で授業に挑んでいるんですよ。
 それが私の侍道なんですよ。

 …………本当はただ貧乏なだけなんですけどね。



 「あれ? カッターが無い……」

 おかしいですね。私の机の中には愛用のカッターの姿が見当たりませんでした。
 前に使った時に仕舞い忘れてしまったのでしょうか?
 えーっと、確かこのまえ使ったのは……いつでしたっけ?
 結構頻繁に使う物でも無いので思い出せませんよ。


 「確か時限爆弾のコードを切る時に使った……のは半年前だったし。
  暗殺者と激闘を繰り広げた時に武器として使ったのは1年前だし。
  帆立貝をこじ開ける時に使ったのは…………」

 ろくでもない事ばかりに使っている事は気にしないでください。
 ほら、カッターって便利だし。いろんな事に使えるし。ね?


 「うあー……どうしよう。
  このままだと授業が終わっちゃうよぉ……」

 まあそれほど授業に熱心な人間じゃないんで、本当はどうでも良かったりするんですけど。
 担任がウサギさんだからいい所見せようとしているだけだし。
 今日はこのまま授業中ボーっと過ごすのも一興ですかもね。


 (千夏さん……千夏さん……)

 「え……? 誰ですか?」

 さっそく寝始めようとした私の耳に、誰かの小声が聞こえてきました。
 授業中に話しかけてくるなんて、すっごく不真面目な人ですね。
 まあ私も人の事言えたもんじゃないんですけど。

 (私の名前はカッターの精霊……あなたに、伝えたい事があってやってきました)

 「すげえ切れ味の良さそうな精霊ですね。
  八百万の神が生きている日本に住んでいる私もびっくりですよ」

 (ふざけないで聞いてください。私は今、すっごく怒っているのです)

 「怒っている……? 私は別に怒られるようなことしていな……」

 (なんてふてぶてしい!! あなた、自分の行いに自覚が無いのですか!?)

 「はて……?」

 (毎日毎日カッターを酷い事に使って!!
  一体あなたの行いのために、どれだけのカッターが涙を呑んできたと思っているんですか!!)

 「えー!? そういう事で怒られてるの私!?」

 まさかカッターのダメな使い方したから怒られる日が来るとは。
 世も末って感じですね。

 「……でも言わせて貰いますけどね、道具をどう使おうが持ち主の勝手じゃないですか。
  そもそも道具をその目的以外の事に使えないというのはですね、ただ単に頭の固い人なだけですよ!
  ここは子どもらしい柔軟な発想力を尊重してあげるべきであり……」

 (うるさいうるさいうるさい!! 精霊に説教するな!!)

 かなり横暴な精霊ですねぇ。
 このまま言いくるめてしまおうかと思っていたのに。
 残念です。




 (とにかくっ、あなたが傷つけたカッターたちに謝ってください!!)

 「むしろ傷付けたのはカッターの方ですよね。切ったりなんかしてるわけだから」

 (そういう御託はいらないんです!! 早く謝罪してください!!)

 最近の精霊はこんなにも乱暴なんでしょうか?
 謝れ謝れって、これじゃあヤクザな人と何も変わりませんよ。
 まあ私は事なかれ主義の日本人ですので、大して自分が悪いと思っていなくても謝る事にします。
 卑屈っぷりは気にしないでください。

 「えーと、私が悪うございやんした。どうもスンマセン」

 (全然謝る気ないでしょー!!!)

 「あら。バレちゃいましたか」

 (全身から謝りたくないオーラが噴出してますもん!!)

 まあ実際謝りたくないから仕方ないんですけど。





 「はぁ……疲れたなぁ……」

 先ほどのカッターの精霊さんは心にも無い謝罪をしまくったお陰で、何とかお帰りになっていただけました。
 こんな事になるならもうちょっとカッターを大切にしてあげるんでした。
 やっぱり道具は大切にしないといけませんね。
 こういう形で学ぶとは思いませんでしたけど。

 「あ、次の授業は図工ですね……。確かハサミが必要だったんですよね。
  早めに用意しないと……」

 私はまた机の中を探しますが、いっこうにハサミが見つかりません。

 「あれ? ハサミどこに置いたっけな? 前に使ったときは確か缶詰を開ける時に使って……」

 (千夏さん……千夏さん……)

 またしても聞こえてきた、不穏な声。

 「……どちら様でしょうか?」

 (私はハサミの精霊です! あなたにこき使われたハサミのために……)

 「また精霊かよ!!」

 皆さん。道具は大切にしましょうね。






 11月10日 木曜日 「文鎮利用法」

 「文鎮って、習字の時に半紙を押さえる事ぐらいにしか使わないじゃないですか?
  でも私はですね、もっと他の何かに使う事ができると思うんですよね」

 「昨日あれだけ精霊に怒られていたにも関わらず、まだ道具を使用用途以外の物に使おうとしているだなんて、
  おそろしく図太い人間なんだな千夏って」

 「何でウサギさんが昨日の精霊による説教の事を知っているんですか……?」

 「そりゃあ知ってるよ。だって俺が授業してる時に思いっきり話してんだもん」

 「あらら……全部見られてたわけですか。でもなんで注意してくれなかったんですか?
  一応先生なのに」

 「傍から見たらブツブツと独り言を言っている可哀想な子どもに見えたから。
  触れるのが少し怖くて」

 なおさら止めてよ。


 「それで話を戻しますけど」

 「戻すんだ? 文鎮トークに花を咲かせたいんだ?」

 「文鎮って半紙を押さえる意外の事に使えないですかねぇ?
  文鎮さんだって、もっと他の事で主役になれる時が来る事を望んでいるんじゃないですかね?」

 「文鎮さんって言うと、落語家みたいだよね」

 「ウサギさん、私の話に興味なかったりするんですか?」

 そのスルーの仕方は酷いと思うんですよ。

 「興味ないって言うか……文鎮は文鎮として使った方がいいんじゃないのか?
  というか紙を押さえる意外の使用方法が思いつかない」

 「思いつかないから考えるんじゃないですか。文鎮の新たな生き方を」

 「なんでそんなに文鎮に思い入れがあるんだよ」

 無骨な男って感じがしてカッコいいじゃないですか。
 文鎮は。




 「じゃあ千夏は何か良い利用方法とか考えたのか?」

 「えーっとですね、例えば文鎮を沢山くっつけて、一本の長い棒にして……洗濯物を干す時に使うとか」

 「物干し竿をそのまま使えばいいじゃないか。なんでわざわざ文鎮を長くして干さなきゃいけないんだ」

 「それじゃ味気ないでしょ? 文鎮だから趣があるんじゃないですか」

 「俺にはさっぱり理解できない世界だ……」

 「それに洗濯物だけじゃなくて、半紙も干せます」

 「半紙を干す人はあまり居ないけどね」

 「あとはですね……こう文鎮を積み上げて、雪のかまくらみたいに家を作ったり」

 「随分と圧迫感のある家だなぁ……」

 「三匹の子豚の物語で言えば、最強クラスの家ですよ」

 「まあ確かにね。レンガよりは重そうだけど。でも危ないでしょそれは」

 「まあ地震などで崩れたら酷い事になると思いますが、その時はその時って事で」

 「そういう安全対策は怠っちゃいけないと思うんだよね」

 「住民の半紙さんも大絶賛の家です」

 「半紙が住んでる家なのか。薄っぺらい住民だなぁ」

 まあ半紙ですし。




 「あとは鍋で煮込んで美味しく頂いたりね」

 「千夏。考えるの面倒になってきてるだろ? 文鎮が何なのか忘れちゃってるよ」

 「まあそんぐらいですかねぇ。文鎮の利用法は」

 「そっか……。あまり現実的じゃない物ばっかりだったな」

 「ウサギさんは私が提案した中で、どれが一番文鎮の新たな人生としてふさわしいと思いますか?
  私としては文鎮の家がおすすめなんですけど」

 「えーっと……」

 ウサギさんは少しの間考え込み、そしてゆっくり口を開きました。



 「やっぱり俺、文鎮は文鎮として使った方が良いと思うんだよね」

 「ウサギさんの保守派ー!! あなたみたいな人は革命家の気持ちなんて分かってくれないんですよ!!」

 「文鎮の使い方だけで保守派と言われても」

 やっぱり革命の道は茨の道ですね……。






 11月11日 金曜日 「おでんの中身」

 「おかあさーん!! お腹空いたよー!! ご飯まだー?」

 「まったくもう……まるでお腹を空かせた雛鳥ね。
  うるさいったらありゃしないわ」

 「お腹すいたお腹すいたお腹空いたー!!」

 「ちょ、本当にうるさいわよ。そんなにうるさくしてると今日の晩御飯、千夏だけ酢飯にするからね」

 「微妙に陰湿な事しないでくださいよ……」

 軽い虐待だと思います。



 「それでですね、今日のご飯なんですかー? 楽しみにしておけば少しは気が紛れるんで、教えてくださいよ」

 「まったく千夏ったら卑しい子ねぇ。誰に似たのかしら?」

 「私の人格形成に悪影響を与える人物には心当たりがありすぎて、誰か特定出来ません」

 「じゃあその心当たりの全員に似ちゃったんじゃない?
  千夏ったら可哀想」

 その心当たりの中でもぶっちぎりで第一候補に挙がっているあなたが何を言いますかね。

 「今日はねー、おでんを作ってあげようと思ってるの」

 「おでんですか!? それはいいですねー。すっごく楽しみです」

 「近頃寒くなってきたからねー。何だかおでんが食べたくなっちゃって」

 「いいチョイスだと思いますよ。お母さんにしては」

 「おでんって温かくて美味しくて素晴らしい食べ物よねー♪
  毎日おでんでも良いくらい」

 「んー、まぁそれはどうかと思いますが、言いたい事は分かります。
  おでんを食べてると幸せな気持ちになりますもんね」

 「そうよねぇ。熱々の大根とか、食べたいわねぇ……」

 「あー、なんか余計にお腹が空いてきましたね……。
  大根かぁ……。いいなぁ……」

 「牛すじとかも良いわね」

 「うう、想像しただけで涎が出てきた」

 「牛ロースとかね。霜降りとかね。すっごく美味しいわよね」

 「そうでしょうね……って! そんな高級なおでん食べた事ないですよ私!!
  何ウチではいつもそういうおでんを食べてますよ的な事を言ってるんですか!!!」

 「あれ? 千夏って霜降り肉のおでんを食べた事無いの?
  それはまあ本格的に可哀想ね」

 「お母さんは食べた事あるんですか!?
  っていうか霜降り肉をおでんって……明らかにダメだ調理法でしょ。
  しゃぶしゃぶにでもしろよ」

 「これだから貧乏人は……」

 「同じ家計で生きてるくせに」

 「いい千夏? おでんっていうのはね、無限の可能性を秘めているの。
  どんなものだっておでんの汁で煮込めば、全ておでんとして通用する事が出来るのよ!!」

 「本当ですかそれ……?」

 「例えば……おにぎりのおでんとかね」

 「ボロボロ崩れちゃうでしょそれ!! おでんの汁で煮込む時に!!」

 「その姿はまるでおじやみたいに……」

 「初めからおじやとして食えよ。おでんの鍋に入れたら他の具材にご飯粒が付いちゃうじゃないですか」

 「おでん食べた後にそしてご飯を口に運ぶ手間が省けるじゃない」

 「面倒臭がりというレベルじゃないですよそれは……」

 それぐらい自分の手でやればいいじゃないですか……。



 「あとは納豆とかね」

 「最悪だ!! そのチョイスは最悪だ!! よりにもよって納豆とは!!」

 「あら、美味しいんだってば」

 「そんなもんおでんに入れたら大惨事じゃないですか!!」

 「信じてないのね……。よし、じゃあ今夜のおでんに入れて……」

 「やめて!! それだけは止めて!!」

 家庭内暴力したって止めてやりますよ。その愚行だけは。



 「じゃあキムチを入れるだけにしておこっか?」

 「それだけでも十分テロ行為ですってば!!!」

 お願いですから普通のおでんにしてください。
 マジで。マジでマジでお願い。


 11月12日 土曜日 「罰ゲーム機能搭載の家」


 「みんなー!! こっちに来てー!!!」

 家中に響くお母さんの声。何でか知りませんが、家族を呼び集めているみたいです。
 お母さんが私たちを招集する場合は、どうでも良いことで呼ぶ時と
 あまりにも重要すぎる理由があって呼ぶときがあるので気を抜く事ができなかったりします。
 前例から言うなれば、訳が分からない家族会議が前者で、アメリカと戦争を始めたという報告が後者だったりします。
 もうちょっと間を取る事は出来ないんですかね。心臓に悪すぎですよ。



 「おかーさーん? 今日は一体何なんですか?
  今度はどこと戦争? もしかして宇宙人?」

 「そんなわけ無いじゃない。なんで私たちが宇宙人と戦わなくちゃいけないのよ」

 「それはえーっと、地球を守るためとか」

 「そういうのはどこかに存在している防衛軍に任せればいいのよ。
  もしくは光の巨人とか」

 「どこのウルトラマンの世界観なんですか。そんな物がこの地球に常備されているわけないでしょうが」

 「あなたが初めに言い出したんじゃない。宇宙人が何とかって」

 確かに。そう言えばそうでした。


 「それで、どうして私たちを呼んで……」

 「なんとー!! 今日付けを持ちまして、我が家の補修改装が終わりましたー!!
  おめでたいですねー。皆さん拍手ー!!」

 「おーっ。これでようやくあの改修時の騒音から開放されるわけですね。確かにそれはめでたい。
  拍手しておきます。パチパチパチ……」

 「えーそれで皆さんにはですね、新生した我が家の取り扱い説明を行いたいと思いまして、ここに集まってもらったのです」

 「あのー、お義母さん。家の取り扱いの説明って何ですか……?」

 「いい質問ね雪女ちゃん。まるで、そのような質問をしなさいと事前に打ち合わせされていたかのようなスムーズな流れだわ」

 「そんな事してたんですかあなた達は……」

 「ち、違いますよ千夏さん!! そんなバラエティーの見え見えな感じの進行はやってないですって!!」

 まあどうでも良いですけどね。
 雪女さんが質問してなかったら私が質問してたし。




 「この家の取り扱い説明っていうのはね、改装した際に付けた家の新機能の説明をするのよ。
  間違っていろいろ操作してまたこの家を壊されても困るしね」

 「改装のたんびに家をカラクリ屋敷にするのは止めてくれませんか?
  そんな悪戯心溢れた改装よりも耐久度のUPを要求したいんですけど」

 「まず今回の改装で装備された新兵装ですが……」

 しかも例によって兵器の類だし。
 一体これ以上何と戦うつもりなんですか。これ以上の戦争はごめんこうむりますよ。


 「その名も、『自動追尾式お仕置き様電気ショッカー』!!!」

 「え……? 何それ?」

 「これはですね、家にいる人間にどこでもいつでも電気ショックを食らわす事が出来るという最新兵器です。
  理論はこの家中の床と天井に仕掛けられた電極から発せられる電気が……」

 「いや! そんな兵器説明よりも、何でその兵器をこの家に付けなくちゃいけないんですか!?
  物騒すぎるでしょ!!」

 「ほら、こう誰かがムカついたら、ビリビリっとお仕置きを」

 「怖いよ!! 誰かにムカつかれたから電気ショックを撃たれるなんて、恐ろしい事極まりないですよ!!
  家として全然安らげないじゃないか!!」

 「でもこれで喧嘩とか減ると思わない?」

 「言うほど喧嘩してないですよ私たちは。軽いじゃれ付き合いぐらいならあるけど」

 「でも千夏のツッコミとかうるさいし」

 「それ目的!? それだけの目的のためにこんな機能つけたの!?」

 私のアイデンティティをぶち壊すような事をしないでください。






 「じゃあ試しに電気ショック与えてみよっか?
  ちなみにね、このボタンを押せばOKだから。みんな覚えておいてね」

 お母さんがなにやらテレビのリモコンの様な物を取り出します。
 そのボタンには私の名前やリーファちゃんの名前など、家族全員の名前が刻まれていました。
 ワンタッチで電気ショックですか……どこのバラエティ番組の罰ゲームだよ。

 「誰を襲うかなー?」

 「襲うかなじゃなくて、押そうかなでしょ!? なんかすっごく怖くなってる!!
  やめてよお母さん!!」

 「じゃーねぇ……初めての試運転は雪女ちゃんに決定ー♪」

 「うわあぁ!? 何となくそう来るだろうなと思ってましたけど、本当に来ちゃうとは!!
  お義母さんの意地悪っ!!」

 「ゆ、雪女さん。早く逃げた方が……」

 「遅いわっ!!」

 ポチリと電気ショッカーのボタンを押すお母さん。
 すると雪女さんの周りの空間が輝き始め、放電を開始します。

 「ぎにゃああああ!!!!」

 「にょばああぁああ!!!」

 「げっぶひょぐひゃああああ!!!!」

 「ぺぺろんちーのー!!!!」

 その放電に身体を撃たれる私たち一家。
 ええそうです。全員が感電したんです。



 「お、お母さん……? これ、なんなの……?
  なんで、みんなに……」

 「う、うぅ……座標の特定が、上手く行かなかったのかしら……?
  いえ、もしかしたら……単純に絶縁処理が……」

 「な、なんせよ失敗ですよね……。一家心中マシーンになっちゃってますから……」

 「ちくしょう……。いい機能だと思ってたのに……」

 本気でそう思っていたなら、あなたの神経を疑いますよ。







 「それでは第二の兵装、『自動座標特定局所爆撃ボンバーくん』の説明を行い……」

 「それ、さっきと同じ匂いがしますよー!!??」

 お願いですので安心して住める家をください。










過去の日記