11月20日 日曜日 「怪盗からの予告状」


 「千夏!! 大変よ!!」

 「どうしたんですかお母さん。そんなに慌てて。
  ゴキブリでも出たとか?」

 ちょっと季節外れな気がしますけどね。ゴキブリ。
 怖いのは何も変わらないですけど。

 「違うわよ!! ゴキブリの方がまだ可愛いわ!!
  これがね、ポストに入ってたのよ!!」

 「なに? 赤紙?」

 「そうそうそう。これを貰ったらね、竹やり持って戦場に……ってバカ!!
  いつの時代なのよそれは!!」

 「おおぅ……久しぶりのノリツッコミご馳走様でした」

 キレが増しましたねお母さん。


 「怪盗よ!! 怪盗からの予告状が来たの!!」

 「普通の人なら一生お目にかかれない物を易々と私たちは貰ってしまうんですね。
  なんですか怪盗からの予告状って」

 「その名の通り、怪盗があなたのこれを盗みに行きますよって宣言してくれる、
  ユーザーフレンドリーな手紙の事よ」

 「ユーザーフレンドリーはそういう時に使う言葉じゃないでしょうが」

 まあ確かに対策とか立てやすいかもしれないけども。




 「それでその世にも珍しい怪盗さんは何を盗みに来るって言ってるんですか?
  お母さんの傍若無人さとか? それだったらノシつけてくれてやるのに」

 「うふふ♪ 千夏ったら何を言ってくれてやがるのかしら?
  この予告状によるとね、怪盗さんはこの家の家宝を貰いに来るんですって」

 「ウチ、家宝が108個あるんですけど?
  一体どれを狙いに来るって言うんですか」

 「確かにね……。どれを狙いに来るか分からなければ、守る事さえ出来ないわ……」

 「別にいいんじゃない? 108個あるんだし、1つぐらい無くなっても」

 「このバカちんがー!!」

 「がぶはっ!?」

 いきなりお母さんに殴られる私。
 家庭内暴力は止めてくださいっての。

 「あの家宝たちはねっ、お母さんが遺してくれた物なのよ!?
  それをいらないだなんて……千夏はなんて酷い子なの!!!」

 「げぶっ! がふっ!! 分かりました!! 分かりましたからっ、倒れた私を蹴り続けるのは止めてください!!
  死ぬから!! マジで死ぬから!!」

 傍から見たら虐待極まりないのでやめてください。
 いつか通報されるぞあんた。




 「じゃあとりあえず怪盗対策として、家宝を宝物庫にでも保管しておきましょうか?」

 「宝物庫だなんて素敵な感じの物、我が家にありましたっけ?」

 「改装した時に作っておいたの。万が一のためにね」

 「宝物庫が必要な万が一って何?」

 「宝くじが当たって、億万長者になった時に買い捲った骨董品とかを入れておく時に必要になるじゃない」

 「あまりにも哀しすぎる夢ですね」

 宝くじが当たると考えて将来設計立ててるんじゃないですよ。
 普通にありえないですから。



 「でも全部移動させるのは大変ですよ……?
  こういう場合は目星を付けておいて、それだけ宝物庫に入れておいた方が良いと思うんですよ」

 「目星?」

 「怪盗が欲しがっているっぽい家宝を選別するんです。
  多分いらないだろうなって思える物はそのままにしとけばいいですし」

 「そっか……選別か。
  じゃああれね、宝刀チゲナベは確実に宝物庫行きね」

 「えー!? あれは別にいらないでしょー!!
  辛いだけの刀ですよ?」

 「味付けに失敗した時とかに料理にあの刀を放り込めば、結構普通に食える感じになるのよ!?
  主婦にとってはまさに神器だわ!!!」

 「そんな使い方してたのかよ」

 というか料理に刀を放り込むな。






 「っていうか聞き忘れてたんですけどね、その怪盗さんっていつ来るんですか?
  その日時によって立てられる対策が違ってくるんですけど」

 「えーっとね、来年の9月に盗みに来るんですって」

 「それは遠いよ!! 普通に忘れてしまうって!!」

 「きっとそれが怪盗の目的なのね……」

 なに相手が忘れるまで待ってるんですか。
 それともそこまで予定がいっぱいなのか?




 11月21日 月曜日 「家のさらなる改装計画」


 「千夏の動く家」

 「どうした黒服? 脳に変な菌でも入ったか?」

 「この家を、動く家にしたいと思います」

 「……改装したばっかでしょ? なんでそんな事言うの?」

 「ハウルの動く城見たから」

 「安直だ!! 小学生並みの動機だ!!」

 「で、それを手伝って欲しいなと」

 「嫌ですよ。そんな妙なリフォームなんかに手を貸したくありません」

 「えっと、取り敢えずこの家に足を付けたいんだけど……」

 「人の話を、ちゃんと聞いてください」

 いつもながらに自分勝手ですね。



 一時間後、無理矢理黒服に手伝わされ、渋々改装計画を練っていた私ですが、
 なんだか夢の家を話し合ってるみたいで結構楽しくなっちゃいました。

 「ねえねえ、やっぱりミサイルもつけちゃいましょうよ」

 「何と戦う気なんだ?」

 「怪獣とか」

 「怪獣なんて来ないだろ」

 「いや。私たちの家には何となく来る気がします」

 「う〜ん……まあありえないとは言い切れない」

 そうでしょう?



 「あっ、やっぱりプールとか造りませんか?」

 「地下シェルターにあるじゃないか」

 「地下のプールに行くたびに、あそこに居る虎にかじられて、私の質量が減っていくのは嫌なんですよ」

 「分かった。それじゃあ考えとこう……。それよりも俺は、やっぱりコンビニがあった方が便利だと思うんだよな」

 「コンビニ!?」

 「ローソン、千夏支店」

 「なんだかそれ、私の頭の上に建ってるように思える」

 「ローソン、千夏の鼻支店」

 「鼻の頭か。私の鼻の頭の上に乗っているのか。ローソンが」

 ある意味コメディタッチですけど、私は私の鼻の上にローソンを招致する気はございません。


 「どう? ダメ?」

 「全力でダメですね」

 「じゃあセブンイレブンにしようか?」

 「そういう問題でもない」

 私にコンビニを誘致するのはやめてください。





 ちなみに、この改装計画はお母さんのめんどくさいのひと言で無かった事になりました。
 うわー。超むなしいー。



 11月22日 火曜日 「部屋のスプリンクラー」

 「ぎにゃああああー!!!」

 「んー? どうしたの千夏?」

 「お母さん!! 水が!! 私の部屋に水が!!」

 「もしかして雨漏りしちゃったとか? やーねー。改装したばっかなのに」

 「雨漏りって言うレベルじゃないですよ!! 私の部屋の天井から、シャワーのように水が降り注いでくるんですけど!?」

 そうなんです。なんでか知りませんけどね、私の部屋の天井がシャワーになってるんですよ。
 おかげさまで部屋にあるもの皆びしょびしょです。
 どうしてくれるんだ。


 「あー。もしかしたら緊急のスプリンクラーシステムが作動しちゃったのかもね。
  火災対策に付けてたんだけど、故障しちゃったのかも」

 「なんてありがた迷惑な機能を勝手に人の部屋に取り付けてるんですか……」

 たまにしてくれるお母さんの好意ほど煩わしい物は無いですね。




 「とにかく!! どうにかしてくださいよこれ!!」

 「どうにかしてくれって言われてもなー」

 「なんでそんなやる気無いんだよ!!」

 「今っ、天気予報見てるからでしょ!! 明日雨降ったらどうするのよ!!
  洗濯物干した後に雨降っちゃったら、大惨事でしょ!?」

 「今は私の部屋が大惨事ですよ!! 大雨洪水警報ですよ!!」

 本当にどうにかしてください。


 「このままだと他の部屋にだって浸水しちゃいますよぉ。
  そうなったら大変でしょう? だから早くどうにかして……」

 「大丈夫よ。この家は1ブロックが浸水したとしてもその機密性から他のブロックに漏れる事は無い……」

 「なんでそんな潜水艦みたいな素晴らしい造りになってるの!?」

 「何かやばいのが漏れ出したら拙いじゃない。ウイルスとかそういうの」

 「まあ確かに私の家ではそういう事が多々ありますけど……」

 だからって私の部屋を水没させても良い理由にはならないでしょ。

 「と、とにかくですねぇ、このままだと寝てる時に水に打たれて風邪引いちゃいますよぉ。
  どうにかしてよう」

 「はいはい分かったわよ。じゃあちょっと部屋で待ってて。改善したかどうか確かめて欲しいし」

 「簡単にどうにかできるなら早くやって欲しかった」

 今までの問答は何だったんだと問い詰めたくて仕方ないですよ。




 「千夏ー!! 聞こえるー? 何か変化したら知らせてねー!!」

 「はーい! 分かりましたー!!」

 「えっと、この蛇口を捻れば……」

 下の階で何かを操作しているらしいお母さん。
 早くこの状況をどうにかして欲しいです。
 私の足首の上の辺りまで水が溜まってるんですけど?
 足長おじさんのパソコンって水大丈夫だったっけ……?

 「どう千夏? 何か変化あったー?」

 「え? いえ、別に。まだシャワー状態が続いていて……ってあれ!?」

 なんだか白い煙の様な物が部屋に立ち込めてきた気がします。
 お母さんはこの水を止めるつもりだったのに何かガスでも撒いてしまったのでしょうか?
 …………お母さんだったら大いにありえる。


 「お母さん!!!」

 「どうしたのー? なんかあったー?」

 「何か白い物が……って、これって蒸気!? もしかして降ってくる水がお湯になってるの!?」

 「これで風邪を引かずに済むわね。良かった良かった」

 「水の温度をどうにかしろと言ってるんじゃないですよー!!!!
  というか熱い!! お湯がすっごく熱い!!!」

 「バスタオルと石鹸持ってこようか?」

 私はここでお風呂済ませるつもりは無いっての。






 11月23日 水曜日 「神秘の水」

 『ピンポーン!!』

 「あれ……? チャイムが鳴った? お客様ですかね?」

 お客様を出迎える気がさらさら無い私ですが、重たい足を引きずって一応玄関へと向かいます。
 居留守してもいいんですけどね本当は。
 でも結構暇ですので相手しようかなと思ってしまったんですよ。


 「こんにちわー!!」

 「……こんにちわ」

 「お元気ですかー? 最近すっごく寒くなってきましたから、風邪など引いておりません?
  体には気をつけないといけませんよー。何事も体が資本ですからねー!!」

 「あの〜……お宅さんはどちら様で」

 「おおっと!! ついつい世間話に夢中になるあまり自己紹介を忘れてましたよ!!
  このうっかりさんめ!!」

 うん。この僅かなコンタクトの間にかなりに不快感を相手に持ちましたね。
 ここまで初印象を悪くする来訪者も珍しいです。


 「私はですね、実はこういう者でして……」

 「名刺……? ニコニコサボテン株式会社、営業部担当 ウェルダン鈴木!?」

 怪しい。怪しい事この上ない。特にサボテンが。それよりさらにウェルダンが。

 「……もしかした何かの訪問販売だったりするんですか?」

p> 「訪問販売だなんてそんな!! ただ私は、素晴らしい商品を運の良いお客様に紹介して差し上げようとしているだけです♪」

 「それを訪問販売って言うんでしょうが。なんてまどろっこしい言い回しをするんですか」

 そういう所が信用できないんだよなぁ。



 「えー、本日あなたに紹介したい商品は……」

 「ほらやっぱり!! すぐに何かを売りつけようとしてる!!」

 「誤解ですって!! ただね、ほら。えーっと、ジャパネットタカタごっこをしたいだけなんですって。
  だから、やらせてください」

 「なんて言い訳なんだ。あなたはそれが私に通用すると思っているのですか」

 子供だと思って甘くみないでよ。

 「まず今日紹介するこの商品は……」

 「あんなに嫌がってたのに本当に始めやがった」

 おっそろしいですねこの人種は。

 「最近すっかり寒くなってきましたよね? 体の心から凍えるぐらい」

 「まあ確かにそうですねぇ。というか冬だから当たり前な気がしますけど」

 「そうなってくるともちろん体調を崩すきっかけにもなるわけです!!
  そこでお勧めしたいのがこの商品!! ヘルシーミネラルウォーター!!!」

 「……水?」

 「ただの水ではございません!!
  これはなんとですね、霊山と恐れられるカルコプリ山の奥地にある湧き水から採取した物で……」

 「霊山と恐れられている所の水なんて飲みたくないでしょ。
  全然健康なんかになれそうにない」

 「ほら、よく言うじゃないですか。毒をもって毒を制すって」

 「どう考えたって毒のある体に毒を入れたらダメになると思うんですけど」

 「これだから素人は困りますねー」

 それじゃああんたは何の玄人なんだと言うんですか。



 「この水をですね、一日2リットル飲んでいただくと、すぐに健康的な体に生まれ変わる事が出来ます!!!
  すごいですねー。こんなお手軽に健康が手に入るんだから安いものですよねー」

 「具体的にはどんな効能があるんですか? 免疫力が付くとか血行が良くなるとか、そういう物をちゃんと言ってくださいよ」

 「深爪しなくなります」

 「驚くほど水関係ねぇ!!」

 「これだから素人は……」

 じゃあその理論を言ってみろ。
 水を飲んだら深爪しなくなるようになる理論を事細やかに説明してみろ。
 爪の切り方に気を使うようになるのか? どんな水だよそれ。



 「ついでにサボテンにこの水をかけてあげるとケタケタと笑い出します」

 「そこか!? そこがニコニコサボテン株式会社なのか!?」

 それもまたどんな理論でのミュータント化なんだよ。





 11月24日 木曜日 「お母さんの見栄」

 「おかーさーん! ごはーん!!」

 「なによもう!! いつも私の顔を見たら開口一番にご飯ご飯って!!
  私はねっ! あなたのご飯係じゃないの!!」

 「え? なに? 今日は倦怠期の夫婦ごっこなの? いい加減にしてくださいよ」

 あとですね、子供にご飯を作ってあげるのは親の義務だと思うんですよね。
 ご飯係である事を否定するなよ。


 「いいから早くご飯を出しなさい。
  すさんだ学校生活で傷ついた私の心を癒すご飯を、私にください」

 「ご飯であなたの心が癒えるの?
  ずいぶんと胃と深い関わりのある心を持ってるのね」

 いいじゃないですか別に。
 美味しいご飯は健康な心身を作り出すって言うんですから。



 「それじゃあはい。これが今日のご飯よ。なんとチキン南蛮」

 「おーっ。結構凝った料理じゃないですか。これは珍しい……ってお母さん」

 「ん? どうかした?」

 「そのさ、これってさ……コンビニの弁当だよね?」

 「なんですって!? なに失礼な事を言ってるのよ!!
  いくらコンビニに売っている弁当のごとく綺麗に出来たからって、その言い方は無いでしょう!!」

 「いや、でも……この梅干が」

 「梅干が何!?」

 「カリコリする奴の梅干なんですけど? 普段一般家庭で使っているような、果肉がぷにぷにした奴じゃないもの。
  コンビニでしか見ないような、ちっさい奴だもの」

 「業務用をしこたま買い占めたのよ!!」

 「あれ、業務用だったんかい」

 そういう分類がされた梅干だとは思っても見ませんでしたよ。





 「だからね、これは私が作ったの。OK? 理解できた?」

 「でもですねぇ、このご飯に振り掛けられているゴマがさらにコンビニ弁当っぽさを際立たせていて……」

 「いいじゃん別に!! たまにはご飯にごま塩を振り掛けてみても!! 確かに一般家庭ではあまりやらないけども!!」

 「この薄っぺらいたくあんもまた怪しくて……」

 「ちっさい方が可愛いでしょ!? ミニマムがプリティーでしょ!?」

 「なんといっても一番怪しいのはマヨネーズが弁当に付いてきている感じのパックで出されてるし。
  温める時は外してくださいってプリントされてるし」

 もうこれは決定でしょう。
 証拠は全てあがっているんです。


 「くっ……そうよ!! そうなのよ!! これはコンビニのチキン南蛮弁当よ!!
  何か文句ある!?」

 「あるよ!! なんで自分が作ったと嘘つくんですか!! そこに何の意味があると言うんですか!!」

 「見栄ですー!!」

 うっわ。最低だよこの大人。

 「それにさ!! コンビニ弁当なんて、弁当のパックから皿に移した時点でもうコンビニ弁当じゃないんだよ!!
  だからある意味で、これは私の作った弁当なの!! その事実はきっと変わらない!!」

 「むりやりすぎるでしょその言い訳は!!」

 「大人の世界なんてこんなものよ!!」

 「コンビニ弁当で語られる程大人の世界はしょぼいんかい!!」

 「あながちそれは間違いではない!!」

 「自信を持ってそれを言うなぁー!!!!」

 なんでこうも私の周りには模範となるべき人間が居ないんでしょうね?
 反面教師ばっかりだとまともに育たないと思うんですけど。
 加奈ちゃんの教育にも悪いだろうし、どうにかしなければと真剣に思います。





 「もうっ!! そこまで言うのならこのご飯いらないのね!?
  じゃあいいわ!! 私が全部食べるから!!」

 「べ、別にそんな事言ってませんよ!! 食べますよ!! 私は!!」

 「いいわよそんな無理しなくて!!」

 「無理とかそういうんじゃないよ!!」

 「ちっ……じゃあいいわ。さっさと食べちゃいなさい」

 「まったく子供ですかね……こんな事で腹を立てて。大人気ないったらありゃしない」

 「じゃあこれもさっさと食べちゃいなさい。デザートのアイスよ」

 「わーい♪ ……っていうか、やっぱりこれもコンビニで」

 「違うわよ!! 私が作ったの!!」

 「嘘つくの止めろよ!! 棒付きのアイス出しといて、自分が作ったって言い張るな!!!」

 ガリガリくんを一般家庭の人間が作るのは無理だと思うんですよね。





 11月25日 金曜日 「冷凍クイズ」

 「千夏さ〜ん♪ 私とクイズしましょうか?」

 「えー。いきなりなんですか雪女さん。遊びたいなら他の誰かとやってくださいよ」

 「いいじゃないですかたまにはこういうコミュニケーションも。
  家族の触れ合いこそが幸せな家庭作りへの第一歩ですよ」

 今の家庭があまり幸せで無いのは認めますが、別にそれをクイズなんかでどうにかしようとする事はないでしょうに。
 クイズをやりたい言い訳としては三流ですね。

 「それでは雪女クイズ第一問〜」

 「え? なんですかその雪女クイズって? 初めて聞いた感じの単語なんですけど」

 「えっとですね、その名の通り、雪女たちの間で流行しているクイズの名称です」

 「へぇ……それはまた狭い界隈で流行している遊びですねぇ」

 「どういうクイズかと言いますとね、今から私が千夏さんに何かを凍らせた物を見せますので、
  それは一体なんなのかというのを当てるゲームなんです」

 「凍った物を当てるゲーム? 聞いてるだけだとすっごく簡単に思えるんですけど。
  クイズとして成り立つんですか?」

 「これが結構難しいんですよ? まあやってみれば分かると思います。
  じゃあ行きますね?」

 「はいはい。付き合ってあげますよ」

 「第一問!! この物体はなんでしょーか? 難易度は1って所ですかね。
  もちろんこれを触ってみても良いですよ」

 雪女さんが出してきたのは、直方体の赤い物体。
 これの答えは、大きさといい色形といい、一つしか思い浮かびませんでした。

 「レンガ」

 「ブブー!! 残念でしたー!! ……っていうか千夏さん。レンガなんか凍らせたって形が変わるわけないじゃないですか。
  それってクイズとしてどうかと思うんですよ」

 「でも雪女さんならそういう無駄な事しそうだし」

 「え? それってどういう意味……」

 「まあそんなどうでも良い事は置いておいて、そのレンガの正体は何なんですか?
  どうみたってレンガにしか見えないんですけど」

 「ふふふふ……やっぱり難しいでしょう? 実はこれはですね、マグロの赤身のブロックでしたー!!
  これはこの家の冷蔵庫の奥底に眠っていた物です。多分食べれます。今日の夕飯です」

 「へー。それが今日の夕飯かぁ……。なんか食べる前にそんな悲惨な状態を見るとあまり食欲が沸いてきませんね」

 すっげえカチコチで、まさに本当のレンガっぽいですもん。
 これ、食べても大丈夫なんですかね? 変な感じに構成物質が変質してたりしませんよね?



 「ふふふ……どうですか? なかなか面白いでしょう?」

 「微妙」

 「またまた千夏さんったらぁ。いくら認めたくないからってぇ」

 「私の正直な気持ちを捻じ曲げた感じに解釈しないでくださいよ」

 私が素直な気持ちを言うだなんて滅多に無いというのに。


 「じゃあこの調子で第二問行っちゃいましょっかー?」

 「はいはい。どうぞどうぞ。一応最後まで付き合ってあげますから」

 「それでは第二問!! これはなーんだ?」

 次に雪女さんが差し出してきたものは、やはり先ほどと同じようなブロック。
 ……やっぱりレンガなんじゃないんですか?

 「分からないのであったら、少し舐めてもいいですよ。味で正解する事が出来ると思いますし」

 「嫌ですよ。そんな謎の物体Xを舐めるだなんて。
  そんな命知らずの事なんて出来るわけないです」

 一応今までの暗殺未遂経験から、そういう危機管理意識は出来てるつもりなんですよ。

 「じゃあ答えは何でしょう? 正解したら15雪女ポイントです」

 「え……? なんですかそのポイント?」

 「100ポイント集めたら私が貰えます」

 「いらねー」

 「そんな事言わずに頑張って集めてくださいよ!! 私が貰えるんですよ!?
  お手伝いとかお掃除とか、いっぱい出来ますよ!? いらなくなったら下取りに出せますよ!?」

 「いらなくなったら下取りに出して良いのかよ。自分の尊厳を何安売りしてるんだ」

 そういう生き方は幸せになれないと思いますよ。





 「えーっと、じゃあこのブロックはブリの赤身とか?」

 「ぶぶー!! 違いまーす。答えはですねぇ、トマトジュースでしたー」

 「トマトジュース!? トマトジュースが凍ってブロックになってるの!?」

 初めてみたよこんなもの。
 あまりのステレンジアイテムにびっくりです。

 「ちなみにこれは今日の晩ご飯に飲み物として登場します」

 「絶対飲みたくねー!!!」

 これはいくらなんでもキツ過ぎるでしょう。
 その長方形の体躯からは、美味しさが微塵も感じられない。



 「それでは第三問!!」

 「まだやるんですか……。もうさすがにうんざりなんですけど」

 「これは何が凍った物でしょうかー?」

 雪女さんが私に見せてきたのはまたもや赤いブロック。
 なんだよ。一体それは何なんだよ。

 「分かりません。全然分かりません。唯一思い浮かぶのはレンガだけです」

 「千夏さんってレンガが好きなんですか?」

 んなわけねえよ。

 「正解はですねー、キムチの残り汁でーす!!」

 「こんなに大量のキムチの残り汁!? よくここまで集めましたね!!」

 「ちなみにこれは今日の晩ご飯に……」

 「でちゃうの!? 完全に残り物じゃないか!!」

 というか今日の晩ご飯はまったく期待できませんね……。





 11月26日 土曜日 「ブリキのロボット」

 「ウィーン、ガッシャッン!! ウィーン、ガッシャッン!!」

 「……誰ですかー? 
  私の部屋になんでも鑑定団とかでたまに出てきそうな古いブリキのロボットのおもちゃを置いていったのはー?
  うるさくて迷惑極まりないんですけどー?」

 「ウィーン、ガッシャッン!! ウィーン……」

 「だからうるさいっての。……しかしよく見れば見るほど不細工なロボットですねぇ。
  かっこ良さという物が全然滲み出てきてませんよ。
  ある意味でびっくりするわ」

 「このフォルムの良さが分からないとは、千夏もまだまだだなぁ」

 「あ。黒服だ。……私の部屋に来たって事は、もしかしてこのロボットを引き取りに来たんですね?
  つまりオマエが持ち主か」

 「その通り。そのロボットは私が作った物だ」

 「へぇー。黒服が作ったんですかぁ。
  今までのハイテク発明品から一気に退化した感じが逆にびっくりですね」

 「退化? 何を言ってるんだ。それはな、ある意味でロボットの最終進化系なのだよ!!」

 このブリキがロボットの最終進化系?
 明らかに進化の方向を間違っちゃってるでしょうよ。
 間違いなくこの地球上の熾烈を極めている生存競争では勝つ事が出来ないと思います。



 「見ろ! この無骨なボディ!! 惚れ惚れするだろ!?」

 「無骨なボディっていうか、ただの直方体なブリキ缶にしか見えないんですよね……」

 「これだから最近の子は。流線型だったり尖ってたりするロボットが近未来的だなんて、誰が決めたというんだ。
  ここは発想の逆転で、シンプルな線で構成されたロボットを作ってもいいじゃないか」

 「はぁ……。そう力説されましてもねぇ。
  実際そのロボットがしょぼく見えてしまっているんでどうにもならない感じですけど……」

 「そして見よ!! このパワフル感溢れる腕を!!
  なんと手はなぁ、ロボットの基本と言えるピンセット型な手をしてるんだぜ!!」

 「ピンセット型っていうか、カチカチって挟むだけの奴ですよね。
  でもそれって使い難いでしょ。人に刺さった棘でも抜く時に使うんですか?」

 「いや。プラモデルを作る時に使用する」

 「ニッパーかよ!!!」

 プラモデルを作るロボットって需要あるの?



 「このずっしりと安定した足も素敵じゃないか。そう思わないか?」

 「そうですか……? かなり大根足に見えるんですけど」

 「この歩行に合わせて光る目を最高だ!! かっこ良さに拍車をかけている!!」

 「ゾイドのおもちゃだってそういう事できるよ」

 むしろあっちの方がカッコいいし。




 「さっきから千夏は否定ばかりして……。そんなこのロボットが嫌いなのか?」

 「嫌いってわけじゃないですよ。ずっと見てたら何となく可愛い気もしてきたし。
  でもですねぇ、これが最新のロボットって言われてもねぇ」

 「お前はこの世界に溢れている幾億の人間たちと同じように、見た目に騙されてる人間なんだな。
  失望したよ」

 「おおう。今の発言はちょっとカチンと来ますね。
  そんな事言うんだったら、見た目では計れない能力を秘めているんですよね?
  上等じゃないですか。それを見せてくださいよ」

 「ほほう……。こいつの真の力を見たいのか? 良いだろう。特別に見せてやる」

 「真の力っていうか、偽物の力も見せてもらっていませんが。
  とりあえず見せてよ。その力とやらを」

 「いいか? よく見てろよ? このゼンマイを巻くとだな……」

 「ゼンマイが動力な時点ですでにダメな感じが……」

 「見た目に騙されるなって言っているだろう!!」

 見た目って言うか内燃機関なんですけどね。まあどうでもいいか。
 すごい事してくれるなら動力は何でも。

 「ゼンマイを巻いたらどうなるんです?」

 「なんと、さっきの二倍の速度で動くのだ!!」

 「うわぁ。そりゃ、すっごぉい☆
  …………とうりゃー!!!!」

 「何するんだ千夏ー!!??」

 あまりの凄さに、私はロボットを掴んで窓の外に投擲してしまいました。
 いやー、びっくりびっくり。



 「千夏三号ー!! カムバーック!!」

 「って、えー!? あれ、私の後継機だったの!? あのブリキ缶が!?」


 それはいくらなんでも酷すぎると思います。











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