7月11日 日曜日 「星屑たちの断末魔」

 私は星空が好きです。
 深い闇に瞬く星たちを見ると、
 心がジーンとしてくるんです。

 今日も自分の部屋の窓から星空を見ていました。
 すると一筋の光が空に走りました。
 流れ星です。

 流れ星の正体は大気圏での摩擦によって燃えている
 宇宙のゴミなんだそうです。

 ゴミだけどあんなに輝けるなんて、
同じくゴミと呼ばれている私にとってはうらやましいです。

 ……別に燃えたいっていうわけじゃないですよ?


 「あ、また流れ星だ」

 私は誰でも知ってるジンクスを試してみました。
 星に願いをってやつです。


 「イジメられませんように。
  イジメられませんように。
  イジメられませんように」


 星を見てからすぐに思いついた願い事が、
 人が聞いたら憐れむような物だったのが私らしいです。

 「その願い、叶えてあげる」

 そんな声がしたかと思うと、
 ついさっき悲しい願い事をしたばっかりの星が、
 私の方へ向かってくるじゃありませんか!!

 

 『小学生、メテオストライクでお星様に』

 そんな明日の朝刊のやけに言い回しのうまい見出しが思い浮かび、
 頭を抱えてしゃがみこんで防御体制をとります。


 「むぎゃっ!!」

 ……今のは私の声ですよ。

 なんだか堅い物が直撃し、
 痛みでうずくまった私が見たものは二本足で立つ星でした。


 ……えぇ!?

 なに星なんかが人類の進化を手に入れちゃってるんですか。

 「私は星の王子様」

 まあ確かに「星の」ですね。
 私から見れば「星が」なんですけど。


 「君の純粋な願いが、
  宇宙を飛んでいた私に届いたんだ」

 純粋な願い……
 どちらかというと
 切羽詰ったと言った方がぴったりなのに。
 まあそれくらいの美化は許容範囲でしょう。


 「願いを叶えてくれるって……イジメを無くしてくれるの!?」

 「もちろん。私に不可能は無かったりあったりするのさ」

 それは普通の人と一緒じゃないですか。

 まあイジメを無くしてくれるって言ってくれてるんだから、
 素直に喜んでおきます。

 

 「でもイジメをどうやってなくすの?」

 話し合いでどうにかなる世の中なら戦争なんて存在してませんよ?

 「私一人の力では無理だけど、友の力を借りればどうにかなるよ」

 「具体的にはどういう方法で?」

 「まず私の仲間たちを地球に落とさせて……」

 ちょっと待って下さい。
 それって隕石を地球に落とすってことですか?


 「そんな!!
  人類が絶滅しちゃうじゃないですか!!」

 「イジメも無くなるよ?」

 話し方に似合わず終末的な思考ですね。


 「やっぱりイジメ、無くならなくてもいいです」

 こんな形の人類の幕引きはごめんなんで。

 「そう……それは残念だよ」

 本当に残念そうなのが怖いです。

 「それじゃあさ、誰かムカつく奴いない?
  そいつに隕石ぶつけてあげるから」

 もしかしたらこの星の王子は
 隕石をぶつける以外は何も出来ないんじゃないでしょうか?


 「そんな急にムカつく奴って言われても……」

 思い浮かぶ人なんて

 「黒服でお願いします」

 わりとすんなり出てきました。

 

 「OK。それじゃ楽しみに待っててね」

 そう言って星の王子は飛び去っていきました。

 とりあえず、黒服の泣き顔が楽しみです。

 


 一時間後。
 私の部屋にお母さんが慌てて飛び込んできました。
 黒服に隕石が直撃したのでしょうか?


 「今すぐテレビ見なさい!!
  早く!!」

 そう言われて居間のテレビを見てみると

 「NASAの発表によると、
  月が地球に近づいてきているとのことで
  ……その、三日後には地球に、地球にぃ」

 アナウンサーが泣きながら報道します。

 

 っていうか星の王子さんさぁ、
 これはもう隕石って呼べるスケールじゃ無いでしょう。

 

 とにかく、私のせいで人類が滅亡することになりそうです。

 あわわわ……どうしよう。

 

 

 

 7月12日 木曜日 「星屑たちの断末魔U」


 突如謎の急接近を始めた地球の衛星『月』
 その異状事態がもたらす未来は、
 人類滅亡という四文字だけだった。

 月が地球に衝突するまで約三日。
 だが特定の距離まで近付くと、
 二つの天体の重力の違いによって生まれる潮汐力によって
 直撃する前に地球は崩壊する。
 その崩壊が始まる距離。
 『ハルマゲドンポイント』に月が到達する前に、
 衛星の軌道を修正しようと立ち上がった勇者たちがいた!!

 

 ……なんで、そのメンバーに私が含まれてるんですか?

 いや、確かにこの事態を引き起こした原因は私にありますし、
 なにか責任取らなくちゃいけないとも思ってましたけど……
 いくらなんでも無理ですよ。
 足を引っ張るだけですって。


 「勇者たちは月へといくために
  NASAの全面協力のもとスペースシャトルへと乗り込み始めた」


 無視かよおい。
 っていうかお前誰なんだ。
 いたっ!! ちょ、ちょっと無理矢理イスに縛り付けるのやめて!!
 宇宙旅行には確かに憧れていたけど、こんな形の地球との別れはいや〜!!

 

 

 「諸君らに与えられた任務は三つ!!」

 多分このメンバーの隊長のポジションらしきおっさんが言います。


 「ひとつ!!
  月への着陸!!」

 まあ、そうでしょうね。

 「ふたつ!!
  月面に穴を掘り爆弾を埋め込む!!」

 ……少し前から気づいてましたけど、
 洋画『アルマゲドン』を意識してるみたいです。

 っていうか月を爆破していいんでしょうかね?

 潮の満ち引きとかは月が起こしている現象なわけですから、
 かなり地球環境を劇的に変化させてしまうと思うのですが。

 


 「そして最後に自爆!!
  以上この三つのプロセスによって地球は救われ……」

 ちょっと待てオイ。
 なんで初めから自爆ありきなんですか。
 どんな自殺志願者集団だよ。

 

 「べ、別に自爆しないでもいいじゃないですか!!
  タイマーとかセットして急いで逃げ出せばいいでしょ!?」

 「いや、タイマー壊れてるんだ」

 壊れてるの承知で宇宙に飛び立とうとしてんじゃないですよ。

 

 「降ろして!!
  宇宙を飛び越えて天国まで行きたくない!!」

 必死になって暴れますが
 もともと非力な私ですので逃げられるわけありません。

 「スペースシャトル打ち上げまで30分」

 

 遺書を書く時間はあるようです。
 ……この日記が絶筆にならないことを祈っています。


 こんちくしょう。

 


 

 7月13日 火曜日 「星屑たちの断末魔V」


 ごきげんよう皆様。
 今日の日記は月面からお送りします。


 まず打ち上げから月面に着陸するまでのことを簡単にお話しますと、
 打ち上げられたメンバーの中でやけに陽気でおしゃべりな男性が、
 宇宙空間に放り出されるといういかにも映画にありそうなハプニングが起こりました。

 まああのような人はいわゆる『死にキャラ』ではないと思うので、
 私たちにピンチが訪れたらさっそうと現れるかもしれません。


 ……なに言ってんだろ私。
 現実逃避するのは早すぎですよ。

 

 さて、気をしっかりもって他の人たちの様子を見てみると、
 みんなで穴を掘ってました。


 ちなみに私はスペースシャトル内でひたすら待機。
 月面に着いてから30分で自分の存在理由について悩むことになりました。

 ホント、なんで私なんか連れてきたんですか。
 もし私をここに連れてきた理由が、
 穴を掘っている彼らのストレスを発散させるための性的愛玩用だったとしたら、
 人類の滅亡より先に手首をかっさばいて
 一足先に天国を下見させてもらいますよ。


 「千夏さん。出番ですよ」


 船外から私を呼んでます。
 そうですか。
 とうとう私の出番ですか。
 しかしアレですね。
 これって野外プレイならぬ地球外プレイですか?

 ……思考が最悪な方向にしか展開しません。


 私が渋々スペースシャトルの中から出てみると、
 目の前には大きくて深い穴が広がってました。
 短時間でここまで掘るなんて凄すぎです。


 「あとは爆弾をセットするだけですね」

 そして自爆でしたっけ?
 ……もうどこか受け入れてしまったみたいです。


 「さあ千夏さんはそちらへ」

 私に話しかけている人が指さす方向にはさっき言ってた穴があります。
 ……まさかそんな所でヤルんですか?

 

 「これを黒服さんから預かってました」

 黒服?
 なんでここであいつが出てくるんですか?

 訳がわからず受け取った物を見てみると、
 いつぞやにお母さんが自爆発言をしたきっかけになったスイッチでした。

 まさか……爆弾って。


 「千夏さん行ってらっしゃいませ!!」

 さきほど私を穴へと誘導した男性が敬礼します。
 なんですか。
 その私に向けられる尊敬の念は。

 他のメンバーも彼に触発されて私に敬礼してきます。
 ここまでされればもう分かりますよ。
 私がここに連れてこられた理由。

 つまり私が爆弾だったわけですね。
 前に私には自爆装置が付いていても不思議じゃないと冗談めかして言いましたけど
 ……まさか本当にそんなもんが装備されてるなんて。


 「あの!!」

 「なんですか千夏さん」

 ここまで来ちゃったらもう腹をくくるしかありません。


 「あなたたちはどうするんですか?」

 「あなたを独りで死なせるわけにはいきません」

 「み、皆さん……」


 なんと感動的なんでしょう。
 サムライです。
 サムライ魂を感じます。


 「ありがとうございます……これで死ぬのも怖くな……」

 「千夏さん!! なんてあなたは素晴らしい人なんですか!!」

 へ?


 「私たちを犠牲にさせないために!! ここから早く飛びたてなんて!!」

 言ってないぞオイ。


 「分かりました千夏さん!! あなたの好意は無駄にしません!!」

 そういうとすぐに皆スペースシャトルへと乗り込み、
 飛び立っていってしまいました。

 


 月に残されたのは性的愛玩用ロボット兼爆弾な私と
 自爆スイッチだけ。

 

 ……いっそ押すの止めて
 全人類と心中しちまいましょうか。


 

 7月14日 「星屑たちの鎮魂歌」


 自爆して、
 人類を救うことになりました。

 完全に強制的ですが。


 ホントは昨日自爆するはずだったんですが、
 少しでも長く生きていたかったのでスイッチ押すの渋っていたら、
 今日の日記を書くことができてしまいました。

 せっかくなので今日の日記は地球にいるみんなへの
 メッセージ、というか遺言にさせてもらいます。

 

 ○加奈ちゃんへ

 加奈ちゃんは私の一番大切な友達でした。
 黒加奈ちゃんにはいっぱい嫌な目にあわされたけど……って、
 黒加奈ちゃんなんて本当はいないんですよね?

 知ってましたよ。
 私を助けて、自分がイジメのターゲットにされてしまうのが
 怖くてみんなに合わせていたこと……。
 加奈ちゃんがそのことで罪悪感を感じていたことも。

 でもね、自分を責めないで。
 加奈ちゃんがしたことは仕方がないことだよ。
 それに、もし私のために加奈ちゃんがイジメられだしたら
 ……そっちのほうが私には辛いし。

 私は加奈ちゃんの笑顔が好きだから。
 だから……ずっと笑っていて欲しいなぁ……なんて、ね。
 ……いつまでも、天国に行ったとしても、見守っているから。
 だから、お元気で。
 さようなら。

 


 ○ウサギさんへ

 ウサギさんは、私のために何かしてくれる、唯一の友達でした。
 助けてもらってばっかりで、私からは何も出来なかったけど……。
 多分、ウサギさんにこんなこと言ったら
 「お前からは十分大切なものをもらっている」
 だとかカッコいいこと言ってはぐらかすんでしょうね。

 本当に、ありがとうございました。
 私にとってウサギさんは父親みたいな存在だったんです。
 見てくれは女性で、中身はウサギなんですけどね。
 そんなあなたでも……本当に大切な人でした。

 私のこと、忘れないでください。
 お願いだから……忘れないで。
 さようなら……ウサギさん。

 


 ○お母さんへ

 最悪の親ですよ、ホント。
 子供を売ろうとするし、変なことを口走るし。
 そう言えば、私がこんな鉄の身体になったのもお母さんのせいじゃないですか!!
 これはもう虐待ですよ!!

 

 ……でも、そんなお母さんでも私は好きでしたよ。
 嫌いになったり、本気で怒ったりしたこともありましたけど
 ……でも好きなんですよ。
 親子だから……なんでしょうかね。
 腐れ縁なんだと諦めてましたし。

 最後にお母さんに抱きしめられたかったな……。
 もう十歳だから、お母さんに抱きしめられることなんて無くなってしまったけど、
 ずっと……お母さんの温もりを感じていたかったんですよ。
 さようなら……お母さん。

 

 ○玲ちゃんへ

 私の先輩ってことなっちゃいますね。
 あっちの世界でのイロハを教えてもらいたかったんですけど
 ……気づいてないんでしたね。


 私、玲ちゃんのことを『いつまでもこの世界に執着している未練たらしい人』だと思ってました。
 ちょっとバカにしていた所がありましたけど
 ……自分がいざそういう立場に立ってみると、
 この世界と別れるのがたまらなく辛いです。
 玲ちゃんもこんな気持ちだったんでしょうか?
 こんなに……辛い思いをしたんですか?

 

 ○たくさんのイジメっ子たちへ

 見て見ぬ振りをするのもイジメだと言うのなら、
 地球にいる八割の人間がイジメっ子ではないでしょうか?

 


 そんなあなた達のために……私は死にます。
 まだこれからやりたいことだっていっぱいあるのに!!
 それなのに、なんで……なんで私を傷つけることしかしなかったあなた達のためにっ!!

 あなた達は、これからも生きていくんでしょう。
 数多くの罪を重ねながら。
 私は、そんな未来のために死ぬのは嫌なんです。
 だからせめて……善く生きようと努力してください。
 いつか私と同じように訪れるであろう死の時に、
 胸を張って自分の人生を誇れるように……。
 そうでもしてもらわなきゃ
 ……私は自分で自爆スイッチを押すことはできませんよ。

 今すぐは無理でも、
 いつか私があなた達のために死んでよかったって……そう思える世界にしてください。
 お願いだから……。

 

 


 瞳を閉じて手の中にある自爆スイッチの感触を確かめます。
 あと一時間足らずでハルマゲドンポイントです。
 そのポイントを通過してしまうと、
 どう足掻いても地球は壊れてしまうらしいです。


 三回、深呼吸してまぶたを上げます。
 とても綺麗な地球が目の前に広がっていました。

 「みんな……さようなら」

 そして私は自爆スイッチに指を……


 「千夏さん。もうそれを押す必要は無いよ」

 「え!?」

 声のした方を向くといつぞやの星の王子様が。


 「もういいんだ千夏さん」

 「ど、どういうこと!?」

 「月は元の軌道に戻っていってるんだ。もう必要無いからね」

 「必要無い……?」

 「私は君を試したんだ。君を辛い目に合わせたのは本当にすまなかった」

 「試したってどういうことですか!!」

 今までのは全部テストかなんかだったってこと!!

 

 「そんな……私、わたしぃ」

 「そんなに泣かないで。
  君は地球に帰れるんだから」

 「うう……うわぁん!!!!」

 「ごめん、本当にごめん。
  でも私は君と出会えて良かった。
  命を失うという絶望の中で、
  イジメっ子たちにすら希望を託した君はまるで聖女のようだったよ」

 「私……私はぁ!!」

 「私たち『星の民』は君に希望の光を見ることが出来たから。
  だから君はテストに合格したんだ。

  そしてこれから君に『星の……」

 「私!! 自爆スイッチ押しちゃったんですけど!!!!」

 

 

 「……マジ?」

 ええ、マジですよ。
 そりゃあもう、見事にポチっと押しましたよ。
 あなたが丁度声をかけた時に!!


 ちなみに自爆までのカウントダウンは30秒をきってます。

 

 


 「……ごめん。千夏さん」

 どうしてやろうかこの星屑野郎。


 とにかく、なんだかよく分からないけど、無駄死にらしいです。

 あ、残り十秒……。

 

 えっと、えっと……それじゃ皆さん、
 さよう……

 


 END?








 7ガツ15にチ

 

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 こがまはまかやkまやむごbどあまだまさだ

 

 プロテクト 解除

 攻性防壁 突破

 衛星 ユーファ 経由

 画像 データ 接続 失敗

 SOUND ONLY

 

 


 「ことの経緯を説明して欲しい」

 「経緯……ですか。どこからどこまでのです?」

 「最初から……と言ったらどこから説明してくれるのかね?」

 「十年前、法律を無理やり作り変えて、
  アウグムビッシュム族から土地を奪った所からですが」

 「それはさすがに長丁場になりそうだな。
  もっと早く終わりそうな所から始めてくれ」

 「やはり政治家は時間がありませんか?」

 「時間の心配より、君とこうしてあっていることが危険なのだよ」

 「大変ですね。いろいろと。
  ……ではここ数日間に起きた『起動実験』の経緯を説明させてもらいます」

 「……よろしく頼む」


 「7月11日、月が謎の異常接近を始めます。
  原因はおそらく『星の民』でしょう」

 「『星の民』!? まさか彼らが本格的に接触してきたのか!?」

 「分かりません。いつもの『気まぐれ』による時空間跳躍だと考えた方が納得できますが」

 「だからといってよりにもよって『器』と接触するかね?」

 「運命なんて、知覚しなければ偶然となんら変わりありません」

 「どういうことかね?」

 「気にしなければ、なんとも無いということですよ。
  では説明を続けさせてもらいます。

  異常接近した月を軌道に戻すため、
  NASAの協力でスペースシャトルを入手。
  私たちはこの異常事態をチャンスだと考え、
  前々から企画していた実験を行うことにします」

 「米国に気付かれていたらどうなっていたか……」

 「かといってこの機会を逃せば
  もう『器』を宇宙空間内に射出することは多分出来ませんから」

 「彼らには何と説明を?」

 「反陽子エンジン内蔵のサポートアンドロイドだと」

 「よく信じたな」

 「反陽子エンジンなんて物騒な物、
  手にとって詳しく調べようと思わなかったんでしょう。

  その後、NASAが搭乗させた乗組員が『器』のための『祭壇』を掘り、『器』を残し離脱。
  そして『器』は自らスイッチを押し、『アウグムビッシュム族の遺産』が発動」

 「で、今に至る……か」

 「遺産の起動実験は一応成功ということになりますね」

 「成功? あれがかね」

 「ええ、何か問題でも?」

 「月が半分消えて無くなった。
  そして……


  全ての人が、ここ数日の記憶を無くした」

 「実験の結果です」

 「その結果の理由が聞きたいんだよ。
  今までみたいに濁した説明ではなくてな」

 「……分かりました。何が起こったのか説明します。

  『遺産』は発動した後、『検索』します」


 「検索? いったい何をだね?」

 「パラレルワールドと言う物をご存知ですか?」

 「ああ、『別の可能性を選んでいた場合の世界』だろ?
  そういう世界が並行に存在してるだとかなんだとか」

 「そう、そのどこかで枝分かれし、並行して存在している『もう一つの世界』。
  遺産はその枝の一本一本を検索し、
  自分たちにとって都合のいい可能性へと進んだ世界を見つけ出します」

 「そんな馬鹿なことできるわけが……」

 「あなた達が恐れている『星の民』。
  彼らの力と似ているでしょう?」

 「……」

 「そして見つけた世界と『並列化』します。
  つまり先日は、『月が異常接近していない世界』と融合、
  もしくは適当な所だけを取り替えたんです。
  そのため月の異常接近という事実は『無かった』ということになり、
  人の記憶にすら残りません」

 「それはもはや神の領域だろう……」

 「事実をお伝えしているまでです」

 「君の理論が本当だとして……何故私たちには記憶が残っている?」

 「私たちは『器』と電脳を共有しています」

 「そのために私たちの記憶は守られたということか……」

 「ただ少し問題なのは『器』が宇宙空間内では
  電脳を使ってサイトを更新していたことですね」

 「つまりそのサイトの存在も守られたと?」

 「ええ、多分。まあ、内容があれですのでほうって置いても問題は無いでしょう。
  ただの狂言日記にしかみられませんし」


 「月が半分消え去ったのは?」

 「それについては調査中です。
  ただ私の見解では、『月が半分しか無い世界』と並列化したためだと思っています」

 「『器』の今後の処理は?」

 「電脳ハックによって記憶を操作します。
  明日からはなんら変わらぬ日常を歩み出しますよ」


 「……」

 「それでは私はこれで」

 「もう一つ、聞きたいことがある」

 「なんですか?」

 「最近、君の行動に疑問な点がある」

 「と、言いますと?」

 「軍の戦闘用の義体を、哺乳動物に与えたそうじゃないか」

 「試験運用を頼まれていたものですから」

 「だからといって、わざわざ『器』の支えになりそうな者に与えるかね?」

 「偶然です」

 「ほう……それと、『器』の周りに超次霊質がうろうろしてるそうだが?
  なぜそのままにしている?
  『器』にどのような影響があるか分からんだろう?」

 「単なる残留思念の塊です。影響など受けるわけがありません」

 「『空舞破天流の後継者』……これはどうだね?」

 「接触していたことは知りませんでした。
  出張中でしたので」

 「だが、『器』の状態を把握するのは君の仕事だろう。
  そして邪魔な物を排除するのも」

 「すみません」

 「……裏切るなよ」

 「裏切りませんよ。私はあなた達より多くの物をこの計画に捧げている」

 「ほう……私達より多くの物かね? なんだそれは、金か? 技術か?」

 「娘を差し出しました」

 「……」

 「それでは失礼します。今度会う時は起動試験ではなく、本番だと思いますけど」

 「ああ……分かっているよ」

 「……」

 「どうした?」

 「覗かれてます」

 「何!?」

 「今、電子防壁を展開し……」

 

 


 接続 強制切断

 

 

 

 シンジツハ ダレノ タメニ

 


 

7月16日 金曜日 「日常」


 朝起きて、ご飯食べて学校行って、
 イジメられて泣いて帰ってきて、そしてサイトを更新する。

 これは私の日常で、ずっとやってきたことです。

 でも今日はなんだか違和感を感じました。
 うまく説明できないんだけど。


 サイトにアクセスしてみると、
 私以外の誰かの手によっていろいろ書き換えられてました。
 ハッキッングって言ういたずらですか?
 こういうのは本当にやめて欲しいです。


 書き換えられた部分を修正してたのですが、
 サーバーにUPすると同時に日記のほうが書き換えられるみたいです。
 もう面倒なのでほうっておきますね。

 

 ああ、そうだ。
 今日は少しおかしな所があったんです。

 学校で一人、クラスメイトが休んでたんです。
 だから私は先生に、
 「今日は加奈ちゃんは休みなんですか?」
 って聞いたんです。
 おかしいですよね。
 だって……

 





 加奈ちゃんなんて子、
 私のクラスには居ないんだもん。

 


 

 7月17日 「曖昧な記憶」

 なんだかここ数日の記憶が曖昧です。
 確か四日前は阿波踊りをしていたような……。
 絶対に違う。
 違うはずです。
 というか違っていて欲しい。


 「ねえお母さん。
  7月11日から15日までにさ、私なにしてた?」

 「え!? 何を言ってるの千夏?」

 「ちょっと……記憶が曖昧で……」

 「まったくもう……スイカばっかり食べてるからこういうことになるのよ」

 いや、それはないでしょう。
 どんな科学変化でそうなるんですか。

 

 「いいからさ、11日からの私の行動を教えてよ」

 「えっと確か7月11日は家族全員オホーツク海で蟹を密漁……」

 「ダウト!!」

 「嘘じゃないってば」

 「なんでそんなことしてるんですか!!」

 「借金を返すために」

 ……まあ確かにお母さんならやりかねないですけど。

 

 「それじゃ12日は……?」

 「銀行強と……」

 「ヘキサゴン!!」


 「借金のために」

 「お願いだから嘘だと言って!!」

 ここ数日間で私たちは
 人間としての最低ラインまで落ちていってしまったんですか……?


 「それで13日は」

 ああ、なんだか聞きたくないです。


 「ここ数日間は忙しかったから休養日だったの」

 へぇ〜……犯罪者グループにも休日があるんですね。

 「休みだからって千夏ったら朝から……」

 なぜかお母さんはそう言って頬を赤らめます。


 「え!? 私なにしたの!?」

 「阿波踊りを……」

 「やっぱり阿波踊りはやってたの!?」

 「それで14日はね」

 「もういいです」

 「臓器密売……」

 「いいって言ってるでしょ!!」


 聞いた相手が間違ってました。


 


過去の日記