1月22日 日曜日 「跳び箱」

 「はい千夏お姉さま。プレゼントあげちゃいます。どうぞお受け取りください」

 「わーい♪ プレゼントだー!! リーファちゃんから貰えるプレゼントなんて爆弾とか毒ガスとかそういうばっかりだけど、
  それでもこの嬉しさを止められないのは何故なんだー!?」

 「人間って愚かな生き物ですよね」

 「そうですよね。罠だと分かっていてもちょっと期待してしまうんですものね」

 って誰が愚かだこのやろう。


 「ささ! どうぞどうぞ!! お受け取りください!!」

 「やっぱりいらないですよ……普通に怖いし」

 「もー。千夏お姉さまったら。いつの間にそんなに弱腰になったんですか? 笑顔で地雷原に突っ込むのがお姉さまのライフスタイルでしょ?」

 「私のライフスタイルを勝手に構築しないでくださいよ。それになんですか。その豪快さを通り越した生き方は」

 「今の日本人にはこれくらいの思い切った生き方が必要だと思うんですよね」

 「地雷原に突っ込むのは思い切っているのとは全然違うと思う」

 ただの自殺志願者です。それに、普通の地雷って足は吹っ飛ばせても命まで失う物じゃないし。




 「……で、その大きな包みが私へのプレゼントなわけですか」

 「おおむねそうです」

 「おおむねの使い方間違ってるでしょうに……。中身ってなんなの? やけに大きいですけど?」

 もしかして爆撃機にでも搭載してる爆弾なんですか? それなら確かに私を仕留める事が出来そうですけど……。

 「ただの跳び箱です」

 「へー。跳び箱ね。…………跳び箱?」

 「そうです。ジャンピングボックスです」

 「別に英語で言わなくても。それに、その英語もあってるか分からないし。
  じゃなくて、なんで跳び箱なんて私にくれるんですか!? 良く意味が分からないんですけど?
  もしかしてどこかの国には親愛の印に跳び箱をプレゼントする風習でもあるんですか? 斬新過ぎてついていけないんですけど?」

 「いえ、ちょっと余っちゃったものですから、千夏お姉さまにあげようかなと」

 「跳び箱って日常生活で余るもんなんだ? 初めて聞いたぞそんな言葉」

 「色のダブりがありましたので」

 「集めてるの!? なんだかガチャガチャのコレクター的な発言してるけど、跳び箱を集めてるの!?」

 「はい。集めてます。こっちの世界では結構有名なコレクターなんですよ?」

 「すげえ。さらりとこっちの世界とか言っちゃってる所がすげえ。ただ跳び箱集めてるだけなのになんでだろうね。
  ……っていうかさ、跳び箱集めてどうするのよ?」

 「飛ぶんです。ぴょんと」

 「ああそうか……そうなんですか」

 なんだか心底どうでもよくなってきましたねぇ。

 「あ。千夏お姉さま、今ちょっとバカにしたでしょう?」

 「だいぶ前からバカにしてるつもりですけど……?」

 「いいですか? 今の若い人たちの間ではですね、跳び箱を集めるのが一種のトレンドになってるんですよ!!」

 「トレンドねぇ……そんな単語、めざましテレビぐらいでしか聞いた事無いっての」

 「若い青年実業家はみんな集めてるんですよ!? これは、素晴らしい文化なのです!!」

 「ふ〜ん……金に余裕のある人間のやる事は良く分かりませんねぇ。
  第一、そんなに跳び箱というものに魅力ありますか? 私にはぴんと来ないんですけど?」

 「あの角ばったフォルム……まるでエジプトのピラミッドを思い浮かべることが出来るじゃないですか。
  なんて神がかった印象を私たちに与えるのだろうか……」

 「エジプトのピラミッドに行って謝って来い」

 「それに上の部分の布地!! あそこから漂ってくる匂いはまるで青春時代のようにすっぱい!! 言い表せぬほど、切ない!!」

 「なんだか嫌な青春時代への帰り方だなぁ……」

 「それに跳び箱に刻まれている数字が切ない。あまり使われない7段から上の数字が切ない」

 「それはリーファちゃんが跳び箱とべるようになればいいだけでしょうが。頑張れよそこは。跳び箱コレクターとして」

 「でも7段って結構引くぐらい高いですよ?」

 「まあね。確かにそれはあるね」

 ちょっと跳び箱やってない期間があると、その高さにびっくりしたりするんですよね。
 ……まあどうでもいい話ですが。



 「だからどうぞ!! 千夏お姉さまもひとつぐらい跳び箱持っていてください!!」

 「1つでも十分すぎるだろ。なんだよ、ひとつぐらいって」

 「いらないですか?」

 「いりません」

 「分かりました……。ホリエモンにでもプレゼントしてきます」

 「確かに彼は青年実業家ですけども、今は跳び箱どころの騒ぎじゃないと思うんですよね」

 「そうですかもね。跳び箱よりも高飛びしたくてたまらないでしょうね」

 「あはは。リーファちゃんったら上手いなぁ!!」



 …………不謹慎極まりないだろ。




 1月23日 月曜日 「サービス選び放題」

 それは私とウサギさんがブラブラと街中を散歩していた時の事でした。

 「千夏」

 「はい? なんですかウサギさん?」

 「ちょっと小腹空いてきたし、あっちのファーストフード店で何か食べていこうか?」

 「おーっ。それはいいですねえ。ちょうどぺらぺらのハンバーグが入ったハンバーガーを食べたくなっていたんですよ」

 「本当かそれ? 実は、ファーストフード店じゃ不服とかそんな事考えてない?」

 「いえいえ。本当はもうちょっと美味しそうなレストランで優雅なディナーを食べたいとか、そんな事を考えた事なんて一度もありません」

 「わかりやすい本音の伝え方ありがとう。でも今日は金無いからハンバーガーで勘弁してくれ」

 「ちぇー。残念」

 まあウサギさんと一緒にご飯を食べれるなら何でもいいですよ。
 それこそぺらぺらのハンバーグしか使ってないハンバーガーでも。
 ……本当ですよ?




 「いらっしゃいませー♪ テリデリーバーガーへようこそ♪」

 「う〜ん……よりにもよって微妙にローカルなファーストフード店に入ってしまいましたね……」

 こういう店って、味がどんな物なのか予想しづらいのが怖いんですよね。
 大型チェーン店のMさんとかだったら、ポテトはどうせしなびてるんだろうなとか覚悟できるんですけど。

 「じゃあ千夏は何頼む?」

 「ん〜っと、そうですねえ……じゃあダブルチーズバーガーのセットで」

 「お肉の種類はいかがなさいましょうか?」

 「へ? お肉の種類!? それって選べるの!?」

 「はい。当店自慢のサービスとなっております」

 「へえ〜……最近のファーストフード店はすごいですねえ」

 この気の利かせ方にはちょっと感心いたします。まあハンバーグにしちゃえばどんな肉だろうと一緒なんじゃないかとかそんな考えが頭をよぎるのですが、あえてここは考えない事にします。

 「肉の種類って、どんな物があるんですか?」

 「当店では『グリーン』『イエロー』『レッド』の3種類をご用意しております」

 「へ? なんですかその色による分類は?」

 「グリーンが国産牛、イエローがオーストラリア産牛。そしてレッドがアメリカ産牛となっております」

 「安全度による分類なのかよ!! 誰がいったいレッドを選ぶんだ!!」

 「ギャンブラーな生き方をご所望なお方に大人気でございます」

 「どうしてこんなくだらない事に命かけなくちゃいけないんだ。
  勝ったって何も手に入らないでしょうに」

 「その理不尽さこそがギャンブルなのです」

 ファーストフード店の店員にギャンブルについて説法受けも。




 「それではポテトの種類はどうなさいますか?」

 「ポテトにも何か種類があるのか?
  ……千夏、どうする?」

 「どうするって言われましてもねえ……」

 「ちなみにポテトの種類は『ノーマル』、『みじん切り』、『丸ごと』の3種類がございます」

 「これは切り方の種類なの!? というか丸ごとってなんだオイ!!」

 「丸ごと油であげたポテトとなります」

 予想と寸分違わぬ答えをありがとうございます。
 誰が注文するものか。






 「それではドリンクの種類はいかがなさいましょうか?」

 「普通の奴で。誰がなんと言おうと普通のでお願いします」

 「普通と言われましても……ドリンクの種類は『ノーマル』、『ミドル』『中庸』とございまして……」

 「全部中途半端じゃないか!! というか明らかに中庸だけ浮いてる!!」

 お客が欲しいのならば、もうちょっと意味のあるサービスを展開した方が良いと思いますよ?





 1月24日 火曜日 「暇つぶしゲーム」


 「ねえ千夏。暇だからさ、私とゲームしない?」

 「なんですかお母さん。いきなりそんな事言い出して」

 「だから、暇なんだってば」

 「主婦の勤めである家事は?」

 「雪女ちゃんが全部やってくれてるから……。
  あ、勘違いしないでよ? 私は別にいいって言ったのよ?
  確かに雪女ちゃんは居候の穀潰しだけど、そんな事してもらう必要なんて、まったく無いんだから!!」

 「そのセリフ、雪女さんに直接伝えたりしちゃってませんよね?」

 「ちょっとだけ面と向かって言っちゃった♪」

 「なんてパワーハラスメントですか……そんな事言われたら働かざるおえないじゃん」

 お母さんの陰湿さは日が経つにつれ鋭さを増していきますね。数年後には陰険王も夢じゃないですよ。ホントに。




 「じゃあ今から英語を使っちゃダメゲームでもしましょうか?」

 「またしりとり並みに決着がつきにくいゲームを選びましたねえ……」

 「いいじゃないの。どうせ暇つぶしなんだし」

 「そうは言ってもですね、私はお母さんとずっと遊んでる程暇じゃないんですけど?」

 「小学生の癖に何なまいきな事を……」

 最近の小学生は忙しいんです。お母さんみたいな人よりはずっと。

 「分かったわ……じゃあ、英語を話したら罰ゲームを受ける事にして、その罰ゲームに耐えきれなくなってギブアップしたら負けって事にしましょうか?」

 「何なんですかそのガマン対決は……そもそも、罰ゲームって何?」

 「ボディブロー」

 「地味な暴力反対!! いや、派手なら良いって訳じゃないけども!! とにかく、それはダメ!!」

 「結構早く勝負がつきそうなのになあ……」

 そりゃそうでしょうね。ボディブロー、すっごく辛いし。
 痛みが倍な私が喰らったら、昏倒ものだし。



 「出来れば暴力系は止めて欲しいです」

 「そうなの? じゃあね……英語を口にしたら、冷蔵庫の中にある賞味期限の切れた卵を生で飲むとか!!
  どう? すっごくスリリングでしょ?」

 「ええ。呆れる程にスリリングですね。よくもまあこんな事を思いつきますよ」

 「まあこれでも主婦だからね。冷蔵庫の中にあるヤバい物くらい、把握しているわ」

 「へえー、すごいですね。でも卵腐らせた責任はお母さんに思いっきりあると思うんですけど」

 「さあ!! ゲームを始めましょうか!!」

 あ。私の指摘を無視しやがったな。





 「それじゃいくわよ? せーの、スタート!!」

 「お母さん!! いきなり言っちゃってるじゃないですか!! スタ……って!!」

 「ちょ、タイムタイム!! 今のなし!! あれさちょっとしたミスだったの!!」

 「また言っちゃってますよお母さん……」

 「だ、だから違うっば!! リスタート!! もう一回やり直し!!」

 「これで卵5個ですか……ご愁傷様です」

 「オーマイガット!!!」

 もう喋らない方が良いと思うんですよねお母さん。





 1月25日 水曜日 「挟まれ屋」

 今日、最近のあまりの寒さにもう一着くらいコートが欲しいなあと思いまして、近くのデパートへと出かけました。
 タイミングの良いことに冬物大特価セールなんてやってたわけですが、それはまあどうでも良い事なのです。
 肝心なのは、私が冬物売り場へと向かうために必要だったエレベーターなのです。



 「……おじさん。ここで何してるの?」

 「おじさんって俺の事かい? えっとね、俺は今エレベーターのドアに挟まれているだけの、何の変哲もない一般市民だよ?」

 「一般市民はあまりエレベーターに挟まれるもんじゃあ無いと思いますけど……というか、異物が挟まってるのにこのエレベーターは開かないんですね」

 「そうみたいだね。どうやら安全装置が壊れてるらしい。
  まったく危険極まりないよ」

 「何で妙に落ち着いてるんですか……普通もうちょっとパニックになるでしょ? 命の危機と言っても過言じゃないんだから」

 「おじさん、この道のプロだから」

 どの道だ。


 「実はおじさんね、こういう事やって生計立ててるんだぁ」

 「へぇ〜、世の中には私の知らない職業があるんですねえ。
  それって、何か資格とか要るんですか?」

 「めげない心だけが唯一の資格です」

 めげない心持ってるなら地道に他の仕事やれよ。
 いったいなんなんだ。エレベーターに挟まれる職業って。


 「その仕事、どうやってお金を儲けるんですか?
 私の一般常識に縛られた脳みそではまったく思いつかないんですけど?」

 「こうやってドアに挟まれてれば、勝手に向こうが慰謝料をくれるんだ。こんなに簡単な仕事、他には無いね♪」

 「わざと自動車にぶつかって慰謝料を請求するのが当たり屋だとしたら、あなたは挟まれ屋ですか。
  うん。人間のクズですね」

 「なんて失礼な!! 俺はこれでも、この仕事に誇りを持っている!!」

 「持つなよ!! こんなダメ人間の成れの果てに、誇りなんて持つなよ!!」

 「とにかく、俺はずっとここに挟まり続ける!! そして、慰謝料を貰い続けるんだ!!」

 「この心の底からのダメ人間め……」

 ここまで性根の腐った大人は見たこと無いです。
 酷いね本当に。世が世なら真っ先にくたばってそうな人種が結構簡単に生き残れてしまうのがこの日本の豊かさなのでしょうか?
 怒りを通り越して呆れてしまいますよ。




 「……」

 「……あの、ちょっと前から気になってたんですけど、少し顔色悪くありません?」

 「……こう、強く挟まれてるから、血管が圧迫されてね……。どうやら血が通ってないらしいんだ」

 「そうですか。マジで命の危機がすぐそこまでやってきてるじゃないですか」

 「た、助けて!! お願いだから、誰か呼んできて!!」

 「いやです。あなたみたいな悪い人は、そこで反省すればいいのです」

 「そんな!! まるで孫悟空に諭す三蔵法師みたいな事言うなよ!!」

 「じゃあ反省しましたか? 二度とこんな事しないって誓えますか?」

 「誓う誓う。ビリケンに誓ってもいい」

 「八番目の七福神は別にいらねぇ。
  …………まあ仕方ないですね。今度だけは助けてあげましょう」

 「ほ、本当か!? ありがとう!! この恩は一生忘れない!!」

 「その代わり、もう二度とこんな事しちゃダメですからね? 約束ですよ?」

 「分かった!! 分かったから助けてくれ!! 気のせいか、目の前が真っ暗になってきた!!」

 本当に死に掛けてるじゃないですか……たかがエレベーターのドアで。
 そんな死に方したら一生あの世にはいけませんね。無念すぎて。


 「……あれ? これ、どうやって開ければいいんだろ? 開閉スイッチは利かないみたいだし……」

 「はや、はやく……しないと、俺…………」

 「……おじさん? どうかしたの? ……………………おじさん?」

 ……
 …………
 …………………

 ……みなさん。悪い事をしたらいつかその報いを受ける物なのです。だから、しっかりと真面目に生きていきましょうね。
 彼の犠牲はそれを表していたのです。多分。








 

 1月26日 木曜日 「みのさんの正体」

 「もし今さあ、この家を大地震が襲ったらどうする?」

 「なんですかお母さん。そんな事いきなり言っちゃって。大地震でも起こす予定でもおありですか?」

 「なんで私が地震を起こさなきゃならないのよ。
  私はナマズか」

 ナマズには見えませんねえ。

 「え〜っとですねぇ、とりあえず地震が起きたら近くにあるコタツの下に隠れます」

 「ぶぶー!! 千夏は今大変なミスをしましたー!! 大きな地震がきたらとりあえず外に逃げたせってえらい人が言ってた。
  生き埋めの危険が無い分、外に出た方が安全だってさ」

 「えらい人って誰?」

 「みのさん」

 出た。主婦という種類の人間に絶大なカリスマを誇るみのもんた。
 あの人が宗教でも開いたら入門者続出でしょうね。
 どうかその人気を世のため人のために使い続けて欲しいです。



 「じゃあ聞くけどさ、もし今家が軽く飛ばされてしまうぐらいの台風が襲ってきたら、お母さんはどうするんですか?」

 「とりあえず地面にしがみつく」

 「無理だろ。人間の腕力じゃどうにもならないだろ」

 「でも私のこの腕なら大丈夫。なんて言ったって私のお母さん印の鉄腕なんだから♪」

 「そう言えばそうでしたね……。そのパワーを使ったところをまったく見た事が無いもんだから、すっかり忘れてましたよ」

 「ちゃんと使ってるわよ。この義手」

 「例えばどんな事に?」

 「ジャムの瓶が開かない時とかにフルパワーで使用してる」

 「おばあちゃんが浮かばれないよ!!」

 かわいそうにおばあちゃんの腕……。



 「話を戻すんだけどさ、もし今イナゴの大群が攻めてきたらどうする?」

 「そんな話してましたっけ!? なんですかイナゴの大群って!! そいつらで深刻なダメージを受けるのは農家ぐらいでしょ!!」

 「農家の痛みは一般家庭の痛みなのです」

 「そうなんですか? 外国から安いお米が入ってくると、一般家庭は傷つくんですか?」

 「主にプライドが傷つきます。値段に負けて外国産米を買ってしまった自分に絶望するのです」

 「買っちゃってるんじゃないか。外国のお米」

 「さあ! イナゴの大群が攻めてきたらどうする!?」

 まだこの話続けたいんですか……? そんなに身のある話じゃないでしょうに。
 こんな会話、小学生の休み時間でもやんねえよ。

 「えっとですねぇ……バルサンでも焚きます」

 「ぶぶー!! ダメでーす! 千夏は死にましたー!!」

 「死んだの!? 私、イナゴに殺されたの!?」

 「はいそうです。イナゴに腹の中から喰い破られて死にましたー!!」

 「すげええげつない死に方ですね」

 そんな死に方はごめんこうむります。例えばの話でも気分悪いわ。


 「ここでもっともベターな対処方は、駆除業者に頼むでしたー♪」

 「そういう専門の人がいるなら初めからそう言ってよ!! というか個人に出来る事が無いんならこの質問は意味無いじゃん!!」

 「生きる意味は自分で見つけるものなのです!!」

 「なんの話だ!?」

 「みのさんが言っていた言葉です」

 「またみのさんですか。お母さん、お昼の番組ばかり見すぎですよ。本当ならば家事で忙しいはずなのに」

 「お昼の番組? 何を言ってるの千夏? みのさんはテレビなんか出た事無いわよ?」

 「へ!? テレビに出てない!? ……もしかしてみのさん違い?」

 私の知る限りみのさんと呼ばれる人間はみのもんた以外には思いつかないのですけど……お母さんにはそういう紛らわしい知り合いが居たという事なのでしょうか。

 「みのさんってどう人なんですか? お母さんとどういう関係?」

 ちょっと興味あったりするのです。

 「みのさんは、昔、私にいろんな物を貢いでくれた男の名前です」

 「なんですって!?」

 「ちなみに、あともう少しで千夏の新しいお父さんになりそうでした」

 「うわぁ……その事実はまったく知りたくなかった」

 もうみのもんたを以前のような視線で見ることは出来ないですよ。
 いや、関係ないのは分かってるんですが……なんとなくね。



 1月27日 金曜日 「たこつぼ宗教」

 「今年は地球に宇宙人が攻めてくる年になります」

 「……へぇ。それは初耳ですね」

 いきなりお母さんが変な事を言い出しました。
 いつもの事だと言えばいつもの事なんですけど、やっぱり頭おかしくなったんじゃないかと思います。いろんな意味で心配になります。

 そんな私の気も知らずに、お母さんは言葉を続けたのでした。



 「だけども、この壺さえ買えば万事おっけーです。無病息災に一獲千金に安産祈願なのです」

 「意味がわからん!! いったい何が言いたいのか、全然わかんないですよお母さん!!」

 「つまり、このありがたい壺を買いなさいという神のおつげです」

 「神じゃなくてお母さんからの命令みたいに聞こえるんですけど? っていうかなに酷い商売やろうとしてるんですか。思いっきり犯罪じゃん」

 「え? そうなの? あ〜あ、せっかく良い商売方法見つけたのに」

 「本気でそれで金儲けしようと思ってたんですか。
  そんなあからさまな宗教商法に引っかかる人なんていないでしょ」

 「それがねー、今の世でも結構カモが居るんだってば。
  いや、普段あまり宗教に触れる事の無い日本人だからこそ、むしろ引っかかり易いのかもね」

 「はあ……そんな物なんですか?」

 「人間は希望無しには生きられないのです。そういった意味では、楽観視する事を許されない今の時代は人間にとって非常に生きづらい!!
  自分を騙して生きていくのもひと苦労だもんね」

 「はあ……そうですか」

 「だから今こそ宗教の出番だと思ってたんだけど……ちょっと早すぎたか」

 「そういった問題でも無いだろうに」

 犯罪的な商売方法がダメなんだって。
 別に宗教については何も言って無いでしょうに。



 「やっぱり壺じゃダメなのかなあ?
  今の流行は絵画とか彫像?」

 「物がどう変わったって、引っかからない人は引っかからないと思いますよ。
  っていうかお母さんってさ、どんな宗教開こうとしてるのよ?」

 「たこつぼを被って宇宙人の攻撃から身を守ろうの会?」

 「まったく持って魅力を感じない宗教だな」

 誰が入会すれというのか。

 「いい魅力を持ってる宗教って何?」

 「さあ……? よく分かりませんけど、仏教とかはお手軽じゃないですか。信じた者は救われるんだから」

 「なるほどね。そういうセールスポイントを作ればいいわけね」

 「セールスポイントって言うのか分かりませんけどね」

 「よし! じゃあ誰でもたこつぼを買えば救われる宗教にする!!」

 「そのまんまだよ!! 全然変わってないし!!」

 しかも何故たこつぼなんですか。
 何があなたをそこまでたこつぼに執着させるんだ。




 「……でもまあぶっちゃけ、宗教なんかで人生は救われないよね」

 「教祖のあなたが言うなや」








 1月28日 土曜日 「ショートカットキー」

 「ああ……なんかいろいろ複雑だなぁ」

 「あれ? どうしたんですか千夏さん? 何か悩んでいる顔しちゃって。
  もしかしておなか空いたとか?」

 「ああ、雪女さん…………なんで、私が悩んでいる顔してたら空腹のサインなの?」

 「今までの経験上からの発言です」

 「それは失敬な!! 私、そんなにいつもお腹空かせてないもん!! 他の事で悩む時だってありますよ!!」

 「そうなんですか? じゃあもしかしてビデオの録画が良く分からないとかそういう悩み?」

 「なんだそのみみっちすぎる悩みは」

 「私の悩みです」

 「そうですか」

 興味ないわ。





 「で、本当はどうしたんですか千夏さん?」

 「いやね、パソコンあるじゃないですか?」

 「そうですね。パソコンありますね。……パソコンが悩みなんですか? パソコンから発生する電磁波が脳に悪影響をとか、そういった悩みなんですか?」

 「違います。パソコンからの電磁波にどうにかなってしまうほど、私はポンコツなロボットじゃありませんよ」

 「またまたぁー♪ だって千夏さん、冬になると中々起動できないじゃないですかぁ♪」

 「別にそれは冬の寒さにスイッチが入らなくなった機械なわけじゃないよ!! 単純に、寒いから布団から出れないだけだ!!」

 「そうなんですか?」

 「そうなんですよ」

 「寒いから布団から出る事が出来ないなんて……私には良く分かりませんね」

 「だろうね。雪女だし」

 「でも春はすっごく眠くなるんですよ? それこそ布団から出れないくらいに」

 「春眠は暁を覚えずって言うしね……って、そんな事今は関係ない!!」

 「そうなんですか? 布団から出られなくて困るって話をしていたんじゃなかったでしたっけ?」

 「違うよ。それは雪女さんが振った話……もうっ!! なんでこんなに話がそれるんだ!! これが雪女の魔力か!?」

 「そんなの雪女の力じゃございません」

 そりゃそうでしょうね。



 「それで、そのパソコンがどうかしたんですか?」

 「いや、えっとですね、そのパソコンのソフトのショートカットキーが複雑すぎて、中々覚えられないなぁと。そんな話です」

 「別にショートカットキーなんて使わないでいいじゃないですか。ただマウスでポチポチッとやるだけでもいろいろ出来るんですし」

 「でもそれだと作業能率が落ちるんですよ。ぱぱっとすばやく終わらせるには、ショートカットキーの記憶が必要不可欠なのです」

 「じゃあいろいろこじつけて覚えればいいじゃないですか」

 「こじつけて?」

 「例えばですね、Ctrl+CのCは……コピーのCとかね」

 「いや、それは実際コピーのCだと思うんですけど?  何自分が思いついたかのように得意になってるんですか」

 「Ctrl+VのVは、バンバン貼っちまうぞのVとかね」

 「それは違うと思いますけど」

 ……でもまあ、そういう覚え方も良いかもしれませんね。記憶にはそういう関係性の構築が良いらしいし。
 試しに私もやってみますか。





 「Ctrl+QのQは……」

 「Qは?」

 「急に終りたくなった時に押すボタンとかね♪」

 「いや、Quit(やめる)のQだと思いますよ?」

 雪女さんに突っ込まれてしまった……だから英語とか嫌いなんだちくしょうめ。









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