2月5日 日曜日 「神様になるための修行1」

 「じゃあさっそく神様になるための修行を開始しようか?」

 「あれ、本気で言ってたんですか黒服さん……。私はてっきり心を病んでしまったマッドサイエンティストの戯れ事だとばかり思ってましたよ」

 「俺が本気で物を言わなかった事は一度も無い!!」

 「本気でいろいろ問題のある発言をしていたのかと思うと寒気がするわ」

 「俺はいつも本気で生きているのです」

 「その本気っぷりはどうでもいいんで、もうちょっと真面目に生きてくださいな」

 その方が世のため人のためそして私のためですから。




 「で、神様になるにはどうしたらいいの?」

 「おっ。千夏ったらやる気だねぇ」

 「そりゃあね。命かかってるから」

 「じゃあとりあえず霞でも食べてみようか?」

 「霞を食べる!? なんか仙人みたいな修行ですね?」

 「そう! 仙人になるのです!!」

 「え……? なんで仙人になるんですか? 神様になるんじゃないの?」

 「仙人って神様みたいなもんじゃないの?」

 「なんとなくですけど、神様>仙人って気がします。本当に何となくだけど」

 「でもまあ神様の初級編が仙人って感じじゃないの? 何となくだけど」

 なんて何となくだけで会話をしているんでしょうかね。私たちは。あまりにも頭の悪すぎる会話に脳がふらふらです。

 「だからそういう修行やっても大丈夫だって。多分」

 「本当ですかねぇ……? っていうか霞を食べるってどうやるの?」

 「深呼吸をする」

 「えらく簡単だな。そしてそれじゃあ腹が一杯にならないな」

 「そういった食欲から開放されるのが目的なんだよ。人の持つ三大欲求であるひとつを殺す。まさにそれは神の所業!!」

 「でも普通に餓死しちゃいますよね? 私が電池切れか何かで死ぬ前に」

 「そうだね。でも即身仏って考え方もあるしさ」

 「死んでるじゃん!! 死んで仏になっちゃっても意味無いじゃん!! そもそも死なないために神様になろうとしてるんだから!!」

 「でももし即身仏になったら丁寧に祀ってあげるから心配するな」

 「現代ではそれは犯罪なんですよね。死体遺棄とかそういうので。
  まあそんなのはいいとして!! 本当にそれで仙人になれるの!?」

 「そう信じようぜ」

 「うわー。えらく信憑性の無い言葉だぁ」

 「しかし、普通の霞を食べていても仙人になれるわけではな無いんだ。
  普通に深呼吸だけをしていたら、肺活量の凄い人になるだけだしな!!」

 「そりゃそうっすね」

 「だから私たちは今から霊山……富士へと向かう!!」

 「富士って……富士山!?」

 「そう! 上司の不二さんではなく富士山!!」

 誰だよ。上司の不二さんって。



 とにかく、私たちは富士山へと向かう事になりました。
 …………もうすぐ死にそうな人間に山を登らせるのはどうかと思うんですけどね。





 2月6日 月曜日 「神様になるための修行2」

 「富士山麓へ行きたいかー!?」

 「なんですか黒服。そのどこかへ出かける時にありがちな、絶対に最後まで保ちそうに無いテンションは」

 「もう一度聞きます。富士山麓に行きたいかー!?」

 「うぜえ。死ぬほどうぜえ」

 「もう一度聞きます。富士山麓に行きたいかー!?」

 なんてめげない心を持っているのでしょうか。そういう無駄な心の強さは他の事に役立てて欲しいものです。
 というかしつこいよ。

 「富士山麓へ行きたいかー!?」

 「お〜……。すっごく行きたいです」

 なんて言ったって私の命がかかってるし。

 「じゃあみんなで出発だー!!」

 「みんな……? って、なんで私たち家族全員が玄関に集合してるの!?」

 「旅は道づれとよく言うじゃないか。やはりこういった旅は大所帯で行った方が楽しいだろ?」

 「私が仙人になるための旅はどうにかこうにかしたら楽しくなれるんですか?」

 私の想像力では悲惨な旅の光景しか見えてこないんですが?



 「ママー。カナたち、どこに行くのー?」

 「ああ……加奈ちゃんまでこんな苦行の旅に付き合わされるはめに……。なんて可哀想な」

 というかこんな小さい子を富士山なんかに連れていくのは危険なんじゃないんですかね? とてもじゃないですが体力が保ちそうに無いんですけど。
 無論、私も含めて。


 「黒服さん……。加奈ちゃんを連れていくのはちょっと……」

 「何も心配するな。体力の無い人間でも富士登山できるルートがある」

 「へー。そんな人に優しいルートがあるんだ?」

 「今はバリアフリーの時代だからな!!」

 すげえなバリアフリー。登山のルートさえ作り替える時代なのか。

 「そのルートの名は、『氷結地獄コキュートス』ルートだ!!」

 「バリアフリーを歌ってる割にはずいぶんと物々しい名前じゃございませんか!?」

 なんだかすっごく不安が増してきたんですけど? 気のせいか、空に暗雲が広がってきたし。



 「あまり聞きたくないんですけど、そのルートって一体どんな道なんですか?」

 「もはや道には思えない道のり。というか、道が無い」

 「それのどこがバリアフリーなんですか!?」

 「歩いているうちに、身体から魂が自由に解き放たれた気分になるからに決まってるじゃないか」

 「それって昇天しちゃってますよね!?」

 おそるべしバリアフリー。というか、多分バリアフリーってそういう意味じゃない。



 「さあ! さっそく出発しようじゃないか!!」

 「マジで!? マジで行くつもりなの!? 無茶にも程がありますよ!!」

 ……もしかしてこれって、私が仙人になるための旅じゃなくて、富士の樹海で一家心中コースの旅なんじゃ……。



 「よし。じゃあ行こうか千夏?」

 「イヤだ!! 絶対にそれはイヤだ!!」

 このまま黙って死ぬのはイヤだけど、自分で死にに行くのはもっとイヤですよ。






 2月7日 火曜日 「旅館発見」

 私が神様になるための第一段階、『仙人になるために富士の霞を食べに行く富士登山』。
 その記念すべき第一日目に、私たち家族は思いっきり遭難しました。
 こりゃ笑えるわ。あははは…………はぁ。

 「千夏! 現実逃避している場合じゃないぞ!! もうすぐ陽が沈んでしまう!!
  このままじゃこの冬の樹海で野宿しないといけなくなるぞ!!」

 そもそもこの登山をする事を言い出した黒服がそんな事を叫びました。
 いやね、それくらい私にも分かってるってもんですよ。
 この樹海には獰猛な肉食獣がいても不思議じゃないなあとか、そんな事考えちゃったりしてますよ。


 「そうですね……。現実逃避している場合じゃないですよね。ぼやぼやしてたらクマに喰われてしまいますもんね」

 「クマ? 何の話だ?」

 あまり気にしないでくださいな。



 「でも黒服さん……この氷結地獄コキュートスルートから無事抜け出せるんですかね?
  10メートル先も見通せない暗さなんですけど? 何故か、懐中電灯は壊れるしコンパスは針が折れるしGPSは今頃2000年問題で使い物にならなくなっちゃったんですけど?」

 恐ろしきかな氷結地獄。

 「まあ多分大丈夫じゃねえの?」

 まったく安心できないお言葉ありがとうございます。おかげさまで遺書を書く決心がつきました。




 「ううう……なんだかすっごく寒くなってきた。
  指先がかじかんで動かないよ……」

 「千夏さん! こういう時は心頭滅却すればなんとやらですよ!!」

 「雪女さん……その言葉の後半は、火もまた涼しですよ。これ以上涼しくなってもらっても困るがな」

 間違いなく死ぬから。


 「あ〜あ……ここら辺に温泉でも湧いてないかなぁ」

 「千夏さん……また現実逃避ですか? 過ぎたる現実逃避は身を滅ぼしますよ?」

 「そんなことわざは聞いた事ありませんが、確かにその通りな気がします。
  そうですよね。こんな樹海の奥に温泉なんか……」

 「おーい!! あっちの方に温泉宿屋があったぞー!?」

 「なんですって!? それは本当ですか黒服!?」

 わーい。どうやら現実は現実逃避した先よりも甘い世界だったらしいです。
 いつもこんなだったら生きるのも楽なのにね。



 「で、その宿屋ってどんな宿なんですか!?」

 「結構大きな旅館だぞ。しかし名前が変わっていてなあ……」

 「名前が変わってる……ですか?」

 「なんでも旅館『ゆきおんな』という名前らしくて……」

 「なんか思いっきり雪女さんのお仲間の罠っぽい旅館ですね」

 多分、うっかり泊まると氷漬けにされるぞ?

 「このままここで野宿するのと、雪女の巣窟で寝るのどっちがいい?」

 「う……っ」

 なんで富士の樹海でリアル究極の選択を強いられてるんでしょうかね? 私はこんな事のためにここに来たわけじゃないのに。



 「じゃあ旅館に行きましょうか?」

 「お母さん!? それ、本気で言ってるんですか!?」

 「だってこのままここに居ても凍死しちゃうたけじゃない。どうせ死ぬなら旅館の暖かい布団の中で死にたいわ」

 「そんな未来の無い事を言わないでくださいよ……」

 「それに想像してみなさいよ。たくさんの雪女さんがいる光景を」

 「たくさんの雪女さんが……」

 「なにか、怖い事ある?」

 「全然っすね。バリ平気」

 「なんでそんなにスラッと即答しちゃうんですか千夏さん!?」

 だって、雪女さんだしね……。




 2月8日 水曜日 「見えぬ従業員」

 あらすじ:私たち家族は、雪女(否・我が家にいる奴隷扱いの可哀想な人)がたくさんいる旅館へと泊まる事になりました。
 多分ですが、死の危機に瀕した宿泊になると思います。



 「はあ……おはようございますウサギさん」

 あまり良い寝心地とは言えない布団から抜け出た私は、私と同じ部屋に割り振られたウサギさんにあいさつしました。
 他の人たちはそれぞれ適当に割り振られていると思います。
 ウサギさんと同室なのが、この旅館に泊まるはめになってから一番嬉しかった事ですかね。少しは救われました。

 「おはよう千夏。今日はやけにテンション低いな。
  やっぱりもうじき死んでしまうからか?」

 「違いますよ。私は未来にある死より目の前の雪女(否・我が家にいる奴隷扱いの可哀想な人)におそれおののいているのですよ」

 だってですねぇ、この旅館の雪女は……。

 「…………お客様。お目覚めになられましたでしょうか?」

 「ひぃっ!? ま、またですよ!! この旅館のどこからか女の人の声がします!!」

 そうなんです。私たちがこの旅館に泊まってからというもの、一度も旅館の従業員を見た事がないのです。
 料理や布団の類がいつの間にかきっちり人数分用意されている事から、誰か居るには間違いないんでしょうけど……不気味な事この上ないです。



 「え、えっと……なんの用でしょうか?」

 「朝食の準備ができましたので、どうか大部屋である鴉の間にお越しください……」

 「わ、分かりました……」

 声はしても人の姿がまったく見えません。部屋の外から声をかけているのかと思って廊下の方を見たりしたのですが、そこには人っ子ひとり居ませんでした。

 …………やっぱり怖いよ。この旅館。




 「……今日は広い所で食べる気分じゃないから、この部屋で朝食を済ませたいんだけど、良いかな?」

 「う、ウサギさん!? なに言ってるんですか!?」

 「千夏は見たくないのか? ここに居る従業員の姿」

 「それは……」

 「ここで食べる事になれば、料理をこの部屋まで持ってこなければならなくなる。
  それはつまり、堂々とあいつらの姿を見る事が出来るって事だ」

 「な、なるほど! 頭良いですねウサギさん!!」

 確かな名案だと思います。やっぱり、どんな人間がこの旅館に居るか気になりますもん!
 ……いや、人でない可能性も十分考えられるのですが。

 「…………分かりました。この部屋にお料理を持ってきますので、少々お待ちください」

 (やった!!)

 ウサギさんの作戦に見事引っかかってくれました。
 これでとうとう、この旅館に住む謎の従業員の正体が……。

 『ガタンッ!』

 「え!?」

 「なんの音だ!?」

 謎の従業員がくるのは今か今かと待っていた私たち。
 すると、突然部屋の隅から物音が!! すぐにそちらを振り返りましたが、音があった場所には何もありませんでした。

 「な、なんだぁ……何も無いじゃないですか。ビックリさせないでくださいよ……って、あー!!!!」

 「どうしたんだ千夏!? そんな大声出して!?」

 「て、テーブルの上に二人分の朝食がー!!」

 そうです。先ほどまでは何ひとつ上に乗っていなかったテーブルに、ほっかほかの和食が置かれちゃってるのです。
 いくら素早い人間であったとしても、こんな芸当は出来る訳がありません!!
 やっぱりこれは…………物の怪の仕業!?



 「ちょっと!! 姿を見せなさいよ!! なんで私たちの前に姿を現さないんですか!!」

 「それは……」

 「それは何!? 何か理由があるの!?」

 あまりの恐怖に私は少しパニックになっていたりしました。
 だって仕方ないじゃないですか。本当に怖かったんだもん。

 「私たちが人前に姿を現さないのは……全員が酷い対人恐怖症だからです」

 「対人恐怖症!?」

 「こんな人気のない所に宿を建てたのも、全ては対人恐怖症だからなのです」

 「そんな事信じられるかい!!!!」


 やっぱり怖いですよ。この旅館。




 2月9日 木曜日 「旅館で起きた殺人事件」

 あらすじ:決してお客の前に姿を現さない旅館の奴らにビクビク。


 「よし! 出発しましょう!! さっさとこの旅館から出て仙人になるために霞を食べましょう!!」

 「千夏……なんかすっごいやる気になったなあ。
  霞を食べて仙人になるなんて、荒唐無稽でしか無いのに」

 そりゃやる気にもなるってもんですよウサギさん。
 だって、早くこの旅館から旅立ちたいですからねっ!!


 「荷物も後片付けも万事OKです。後はお母さんたちを起こして無理やり引っ張って行くだけ……ふふ、ちょろいです」

 「なんか料金踏み倒して出ていこうとしてる客みたいだな……」

 まあ逃げ出す事には代わりは無いですね。





 「お母さん! 起きてください!! 早くこの旅館から出ましょう!!」

 ウサギさんと共に部屋から抜け出た私は、まずお母さんと雪女さん(我が家で奴隷扱いされてる人)が寝ているはずの部屋へと向かい、
 そしてそのドアを思いっきり叩きました。
 しかし不気味な事に、お母さんの部屋からは何の音もしてきません。
 朝も早いからぐっすり寝ているだけかとも思ったのですが、それにしても静かすぎるのです。
 まるで、部屋の中には『何もない』かのように……。

 「お母さん!? 居るんでしょう!? 早く起きてくださいよ!!」

 「千夏、そこどけ」

 さすがに何かがおかしいと気づいたのか、ウサギさんはその足でドアを蹴り破るという強硬手段に出ました。
 ウサギさんに蹴られたドアはあっけなく砕け、お母さんたちの居る部屋へといざなう空間を作ります。

 「お母さん……っ!? な、なんですかこれは!?」

 な、なんと、部屋に入った私の前に広がっていたのは……後ろから包丁でぶっすりといかれて床にうつ伏せになっているお母さんの姿でした。
 まったくぴくりとも動かず、しかも包丁に付いている血が黒く変色しちゃってる事から……もう、死んじゃっていると思います。


 「お、お母さん!?」

 「くそっ、いったい誰がこんな事を!?」

 「従業員は見た〜♪」

 「なっ、またあんたですか!?」

 部屋の中で鳴り響いたのは姿を決して見せぬ従業員のひとり。私たちの部屋の担当の奴だったと思います。
 それにしても上手く逃げ切ったと思ってたのに……もしかして気付かれてたんでしょうか?



 「こんな時にいったい何の用ですか!?
  ……はっ! もしかしてあなたがお母さんを……」

 「いいえ違います。私はただの目撃者です」

 「目撃者?」

 「ええ。春歌さんが殺される瞬間を、ばっちりと私は見ていたのです!!」

 「ばっちりと見ていたのなら助けてやれよ」

 「人見知りなもんで」

 本当に対人恐怖症なだけなんですか……? どこか怪しいんですけど。

 「それで……千夏のお母さんを殺したのは誰だ? 見たところ同室のはずの雪女の姿も見えないが……まさかそいつが?」

 「ええ。その通りですよウサギ耳の人……。
  その人が、我らの同胞を連れ去り、そしてそこの女性を殺害したのです」

 「いったい誰だって言うんですか!! その殺人鬼は!?」

 絶対に許せないです。見つけ出して、生まれた事を後悔するぐらいの苦痛を与えて殺してやる。それぐらいしないと、殺人の償いとして釣り合わない!!

 「その人は……」

 「その人は!?」






 「……一番意外な人である事が多々あります!!」

 「いや。べつにそんなサスペンス物の定説とかどうでもいいから」

 結局誰やねん。




 2月10日 金曜日 「一筋の希望」

 あらすじ:お母さんが死んでた。ミステリーの定石から言うと、なんでも一番怪しく無い人間が犯人らしいです。


 「……そうか。分かりましたよ。お母さんを殺した犯人が」

 「本当なのか千夏?」

 名推理を頭の中で構築していた私に、ウサギさんが信じらんないと言いたそうな顔で話しかけてきました。
 まあ信じられない気持ちは分かりますが、それでも事実だから仕方ないのです。

 「お母さんを殺した犯人は……実は、私だったんだー!!」

 「なんだってー!? ……っていうか、それは本当なのか?」

 「お母さんを殺した記憶はありませんが、動機なら心あたりがいくつもあります」

 「そう。ぱにくる気持ちは良く分かるけど、ちょっとは落ち着きなさい」

 あらら……ウサギさんになだめられてしまいましたよ。
 まあごもっともな意見だったりするんですけど。




 「う〜ん……でも一体誰がお母さんを……」

 「どうやら千夏のお母さんだけじゃないみたいだけどな」

 「え!? どういう事ですかウサギさん!?」

 「さっき他の部屋を見て回ったんだが……みんな影も残さず消えていた。
  どうやら、この旅館に居るのは俺たちと姿が見えない従業員だけみたいだ」

 「なんですって!? 私たちだけしか居ないんですか!?」

 なんて事でしょうか……。
 こんな奇怪な事件が起こるなんて、やっぱりこの旅館は普通じゃないよ!!

 「ウサギさん……どうしましょう? みんなを見捨てるわけにはいかないですし、だけどずっとここに居たら私たちも消されちゃうかもしれないし……」

 「そうだな……。とりあえず、みんなが消えて俺たちが消えてないのは何かがおかしい。
  何かきっかけのような物があると思うんだが……」

 「それが分かればみんなを助ける方法が見つかるかもしれないし、それにお母さんを殺した犯人を捜す手がかりにもなるかもしれない!!」

 そうです。きっとこの旅館の謎を解けば全てが解決するはずなのです。
 よーし! やってやるぜー!!




 「…………で、その消えた人たちがやって、私たちがやって無いことって何?」

 「さあ? それが分かれば苦労しないっての。それに、もしかしたら逆に俺たちがやっていて、他の人間がやっていない事なのかもしれない」

 「私たちがやったこと……寝る前のUNOとか?」

 「えらくほのぼのとした相違点だな。多分違うだろ」

 じゃあオセロとかかなぁ……?




 2月11日 「旅館ゆきおんなの歴史」

 あらすじ:富士山の樹海というあまりにも怪しすぎる場所にあった旅館は、その立地場所に負けないくらいの不思議現象で泊まり客を消してしまいましたとさ。
      誰かー。誰かタスケテー。


 「はあ……やっぱりダメですよウサギさん。私たちが生き残って、そして他のみんなが消えてしまった理由が分かりません。
  このままじゃ誰も助けられないし、お母さんの仇も討てませんよ……」

 「確かにそうだな……俺たちがやってて他の奴らがやってなさそうなのは、UNOとオセロとポーカーと2人打ち麻雀と人生ゲームと山手線ゲームぐらいだもんな。
  今置かれている現状ではどうでも良いことだけど、俺たち遊びすぎだと思う」

 久しぶりの外泊で浮かれてたんですよ。これくらいは許してください。



 「くそう! いったい何なんですかこの旅館は! なんで、こんな事に……」

 「この旅館の歴史……それをとうとう語る日が来たのですね」

 「なっ、またあんたかよ!!」

 この旅館ですっかりおなじみになった、姿の見えぬ従業員が私たちに話しかけてきました。
 彼女の口振りからすると、どうも何かを知っているらしいです。

 「なんですか!? その、この旅館の歴史っていうのは!?」

 「実は……この旅館は呪われた旅館だったのです」

 「いや、それはだいぶ前から知ってました」

 だって従業員がアレですし。


 「昔むかし……この国にある一族が住んでいました。その名も、アウグムビッシュム族日本支部!!」

 「またアウグムビッシュム族か!! というか日本支部!?」

 「彼らは神と崇めていた星の民がこの世界から去ってしまったあと、その時代に似つかわしく無いテクノロジーを持って、世界中に旅立ったのです」

 「そいつらが何かしたんですか?」

 「この地に住み着いたアウグムビッシュム族たちは、星の民から貰った技術で、数多くの妖怪を作り出したのです!!」

 「妖怪!? 妖怪って作れるものなの!?」

 「あなた達は知らないかもしれませんが……妖怪と呼ばれる類の者たちは、全てアウグムビッシュム族によって作り出されたモノなのです。
  彼らの技術によって、この世界であらざるものに変えられたのが妖怪たちなのです」

 「妖怪がアウグムビッシュム族が作った生体兵器だとは知りませんでしたよ……。
  という事は、雪女さんもそういった風に作られた生物の末裔だったわけですか」

 「そしてこの旅館は……その妖怪たちを作ったアウグムビッシュム族が作り出した最後の砦なのです」

 「砦? 砦ってどういう事ですか?」

 「そう、ここは……人類が最悪の敵と戦うために作られた秘密基地なのです!!」

 「な、なんですってー!? ここが秘密基地!?」

 …………どう見たって普通の旅館にしか見えないのですが?

 「……ちなみにさ、どこが秘密基地なの?」

 「えーっと、お膳ミサイルとかお布団バリアとか出来ます」

 「確かに秘密基地っぽい!! というか、旅館っぽい!!」

 全然頼り無さそうだけどね。





 「…………ところで、人類の最悪の敵って誰なんですか?」

 「安部さんです」

 「誰やねん」










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