7月18日 日曜日 「熱き日々」


 今日も今日とて暑さにやられ、
 居間に寝そべっています。

 「うう……暑いぃ、死ぬかも……」

 「本当よね……どうにかならないのかしら」

 私の独り言に相づちをうってきたのはレギュラー落ちしてた女神さんでした。


 「お久しぶりですね女神さん」

 「ええ、本当に。
  このまま消えてなくなるのかと思ってたわ」

 私もそう思ってました。


 「で、今はなんの女神をやってるんですか?」

 改めて考えてみるとおかしな質問ですよね。

 「今は冷蔵庫の女神」

 転職しやすいんでしょうか。
 女神って。


 「冷蔵庫って十分涼しそうじゃないですか」

 「スタンバってるのは冷蔵庫の後ろのほうだからさ」

 「ああ、なるほど……それは辛いでしょうね」

 裏側はとても熱いですからね。

 

 「なにか涼しくなるものってない?」

 「そんな物があるんだったら私が使ってますよ」

 「それもそうね……あ、そうだ
  私とゲームしない?」

 「ゲーム?
  どんなゲームですか?」

 「ロシアンルーレットと言ってね……」

 「遠慮します」

 ロシアンルーレットって拳銃に一発だけ弾を込めて、
 自分の頭に向けて撃つやつでしょ!?


 「涼しくなるのに」

 下手したら体温そのものを失っちゃいますけど。

 

 「あ〜もう本当に暑いなあ。
  これじゃ仕事する気力もないよ」

 冷蔵庫の女神の仕事って……?


 「これもみんな千夏という名前が悪い」

 「ものすごく理不尽なことをさらりと言わないでください」

 「責任をとって寒いギャグを言って
  この場を涼しくしなさい」

 ギャグで気温が変わるのなら
 誰も地球温暖化で騒ぎませんよ。
 まあそんなこと言ってもまともに聞いてくれなさそうなので
 ギャグを言うことにします。


 「病院が飛んだんだって
  ……ビョイーーン」

 恥ずかしい!!
 予想以上に恥ずかしかったですよこれは!!


 「アハハハハハ!!!!」

 女神さん?


 「病院が……アハハハハハ!!!!」

 自分で言うのもアレですが、
 そんなに面白いものじゃなかったですよ?


 「アハハハハハ!!!!
  死ぬ!! お腹痛くて死んじゃう!!」


 ……セミの鳴き声と女神の笑い声。
 暑さが増したような気がします。

 

 「アハハハハハ!!!!」

 「うるさい!!」


 誰か助けて。

 

 

 7月19日 月曜日 「家族会議」


 「これから第32回家族会議を始めます」

 お母さんのそんな宣言で家族会議が始まりました。
 私の記憶に間違いが無いのなら、
 今まで一度も家族会議なんてしゃれたもの開いたこと無いはずです。
 それなのに第32回だなんて。

 まあ多分お母さんの見栄だと思うので気にしないでください。
 誰に見栄をはっているのかは知りませんけど。


 「今回の議題は『無人島に漂着した時に一つだけ持っていくとしたら何?』です。
  皆さんそれぞれこのテーマに対しての意見を……」

 なんて恐ろしいほど将来的に実用性のない議題なんですか。
 こんなあまりにくだらない話は、学校で友達同士と話してる時ぐらいしか出てきませんよ。
 それをわざわざ家族会議でやりますかね?


 「私だったら携帯電話だね。独りでも寂しくないし」

 こんな話になったら一人くらいはお母さんと同じこと言いますけど、
 『寂しさを紛らわすことより先に、携帯電話で助けを呼べよ』って言ってやりたいです。


 「ウサギさんは?」

 「う〜ん、俺はナイフ一本あれば大体の場所で生き抜けるしなぁ」

 すごいなウサギさん。
 さすが野生動物。
 って元は私の学校のうさぎでしたっけ。

 

 「黒服さんは?」

 「湯たんぽ」

 信じられないくらいのバカチョイス。
 どれだけ冷え性なんですか。

 

 「買い物カゴの女神さんは?」

 「えっとですね……」

 ってオイ。
 レギュラー落ちした女神がなんでいるんですか。
 しかも買い物カゴの女神って……。


 「とりあえずライターとか火を起こせる物ね」

 うわ!!
 存在はふざけているくせに普通の答え!!

 

 「千夏は何を持っていく?」

 とうとう私の番ですね。
 真面目に答えるのもバカらしいので、適当に思いついた物を口に出します。

 「えっと……120分のビデオテープ」

 我ながら間抜けな答えです。

 

 「そう、分かったわ。
  それじゃ今度の夏休み、それを持って無人島に漂着するから」


 ……へ!?
 何を言ってるんですか?


 「お、お母さん、何の話?」

 「だから、夏休みに家族旅行で無人島に漂着するのよ。
  みんながついさっき言ったアイテムだけ持って」

 へぇ〜、無人島って自分たちから進んで漂着するものなんだ〜。


 「ってバカじゃないですか!?
  なんでそんなことするんですか!!
  そもそも旅行するお金あるなら借金を返しなさいよ!!」

 「お金返すメドが立たないから、無人島に行くんでしょうが!!」

 「それ、夜逃げじゃん!!」

 

 と言うことで世にも珍しい無人島に夜逃げすることになりました。
 こうなったら開き直ってバカンスだと自分に言い聞かせることにします。

 ああ、楽しみだなあ……ぐすん。

 

 7月20日 火曜日 「バカは急には止まれない」

 私の家の近くの交差点に一人の少年がつっ立ってました。
 歩行者用の信号はすでに青なのに、いっこうに渡ろうとしません。

 「どうかしたんですか?」

 私がそう尋ねると少年は困ったように言いました。

 「横断歩道の黒い所踏むとさ、死んじゃうんだよ」

 ……居ますよね。
 こういう自分ルールを作りたがる人。


 「死ぬとは大変ですね」

 一応話を合わせておきます。

 「戸籍とか抹消されちゃうんだ……」

 「え!? 社会的に死ぬってことですか!?」

 自分ルールのくせに妙に複雑設定ですね。
 いいじゃん、別にただ死ぬだけで。

 

 「でもその恐怖を越えて……渡らなくちゃ。
  この血清を、村に届けなきゃ」

 なんだかすごいストーリーが展開してるみたいです。
 こうなったら物語の結末まで見届けないと。

 ……暇なんですよ。
 悪いですか?


 「私がここで見守ってあげますから、
  勇気を出して!!」

 見守るっていうかただ単に向こう側に
 渡るつもりじゃなかっただけですけどね。


 「ありがとう……君のおかげで進めそうだ」

 そう言って彼は勇気ある一歩を踏み出し……!!

 

 

 横断歩道の信号が赤だったため、車にはねられてました。
 救急車を呼んであげたし、多分大丈夫でしょう。

 


 自分ルールよりまず先に、交通ルールを守るべきだと思います。

 


 

 7月21日 水曜日 「昨日もらったんだけど」

 

 昨日もらって隠していた通知表が、
 ものの見事にお母さんに発見されたので、
 開き直ってネット上にも公開しちゃいます。

 

 ○国語 4

 漢字の読み書きが普通の子以上に出来るのは大変良いことです。
 ですが、たまに子どもらしくない作文を書く場合があります。

 読書感想文に『まるでデイジーカッター(爆弾の名前)のような〜』
 などという軍事用語を平然と使うことは控えましょう。

 あと、つっこみが主体の文章もどうかと思います。


 ○算数 3

 コンパスを使う授業になると必ず、
 『クラスメイトに針で刺されるから』
 という理由でズル休みするのはやめましょう。


 ○社会 2

 地図記号の『畑』

 『ハート』と訳するのは止めなさい。

 三丁目は愛に溢れている、ってなんですか!?


 ○理科 3

 電池を使う授業になると、
 『電極プレイをさせられるから』
 という理由でズル休みするのはやめましょう。


 ○体育 1

 うちの学校が、いまだにブルマ着用なことに疑問を持たないように。


 ○美術 5

 確かに上手いことは上手いのですが、

 その歳で、美少女キャラクターばかり描いているのはどうなんですかね?

 

 ○生活面 問題なし。


 ○健康面 胸が小さいのは、あなたの大切な財産です。
      誇りに思うように。


 (原文そのまま)

 

 ……ちなみに、うちの学校では教師から生徒に渡す通知表の他に、
 生徒から教師へと渡す通知表があります。

 イジメのこととかが全部スルーされていることにつっこむべきかもしれませんが、
 取り合えず私は、

 『フォントサイズを変えて、笑いポイントを指定する行為を
  通知表でやるな』

 とだけ書いて渡してあげました。


 小さな復讐です。

 7月22日 木曜日 「無人島生活1日目」


 どうも皆さんごきげんよう。
 今日は無人島から日記をお送りします。

 とりあえずこんな場所に来るまでの経緯を説明いたしますと、
 朝の三時に叩き起こされ、なつかしの某テレビ番組のノリで目隠しされたまま飛行機に。
 そしてあまりの乗り心地の悪さに意識が遠のき、気が付いてみると無人島という息もつかせぬ展開。

 ……ため息しか出てきませんよ。


 「どう千夏?
  ここが夢にまで見た無人島よ!!」

 どうせなら夢のままにしておいてくれればよかったのに。


 「なんかさ……ここ、すごく寒くない?」

 さっきから震えが止まらないんですけど。

 「北極に近いからねぇ」

 「ええ!? 無人島って言ったらさ、大体南の島じゃないの!?」

 「そんなこと私は一言も言ってないでしょ?」

 ええ、確かに。
 言ってませんけど……なんだか私たちの生存帰還率がぐ〜んと低くなったのは気のせいですか?
 全然食料になりそうな物が見あたらないんですが。


 「はい、千夏」

 お母さんが私にビデオテープを渡しました。

 「え……これって」

 「家族会議で無人島に持っていきたい物を一人一人決めたでしょ?」

 なんてことですか。
 冗談で答えてしまったばっかりに……。
 過去に戻って自分をひっぱたいてやりたいです。


 「そ、そうだ!!
  お母さんが持ってきた携帯電話は!?」

 圏外かもしれませんが、唯一の希望です。

 「飛行機に乗っている時にヒマだったからゲームしてて……」

 「バッテリー使いきったの!?」


 さて、今の私たちの持ち物はナイフ、湯たんぽ、ライタービデオテープ、そしてもはや意味をなさない携帯電話。ということになります
 どうやって生き残れっていうんですか……。


 生存者 5人


 ……な、なんか不吉なカウンターが。
 そんな物があると必ず誰か死ぬ気がしますよ……。


 生存者 4人


 「一人減った!?」

 そう言えば女神の姿が見あたりません。

 7月23日 金曜日 「無人島生活2日目」

 

 「寒いよパトラッシュ……」

 「いや、俺はそんなしゃれた名前の犬じゃないぞ?」

 夢の中でふわふわで暖かい犬を抱いて遠くの世界に旅立とうとしていた私を、
 ウサギさんの冷静なツッコミが現実に連れ戻します。

 「お、おはようございます……」

 私が抱いていたのは犬では無く、ウサギさんでした。
 身長の関係から抱いているというより抱かれていると言った方が正確なんですけど。


 「よく眠れたか?」

 「は、はい。
  あまりの心地よさにもう目覚めないかと思いましたよ」

 三途の川を渡りかけましたし。


 「それにしてもウサギさんはよく平気でいられますね」

 オーロラを見ることができるくらいふざけた気温なのに、
 ウサギさんの身体は暖かいんです。


 「寒冷地でも戦闘できるように作られてるから」

 さすが戦闘用ボディ。
 どこぞの性的愛玩用とはひと味違います。

 

 生存者 3人


 ……今度は黒服の姿が見あたらないです。
 っていうかペース早すぎじゃないですか?


 「千夏!!
  ちょっと来て!!」

 遠くからお母さんの呼ぶ声が聞こえます。

 寒さと強い風に翻弄されながらも声のもとへたどり着くと
 無駄に元気そうなお母さんがいました。

 「見て、この洞窟!!
  ここに財宝があるに違いないわ!!」

 「え!? 財宝?」

 「ふっふっふっ……千夏、
  もしかして何の目的も無しにこの島に来たと思ってたの?」

 ええ、思ってましたとも。


 「実はこの島には売れば数億円の財宝が隠されてるの!!
  つまり私たちはそれを探しに来たの!!」

 あるのか無いのかはっきりしない財宝とかを人生かけて探してる人がいますけど、
 家族のことも真剣に考えてください。
 今、心からそう思います!!

 「本当にあるのか?
  財宝なんて」

 ウサギさんがすごくまともな質問をします。

 「無かったら『ワクワク無人島サバイバル家族旅行』が
  『ドキドキ一家まとめて心中旅行』に変わるだけよ」

 うわあ……

 「そ、それじゃ早く探してみましょうよ」

 お願いだから見つかってください。


 そういうことで私、ウサギさん、お母さんの三人で
 洞窟内へと入っていくことになりました。


 しばらくウサギさんが作ったたいまつを頼りに暗い洞窟内を進んでいくと、
 見事に道が三つに別れてました。

 「どうしましょうか?」

 「ちょうど三人いるんだから
  バラバラになったほうがいいんじゃない?」

 お母さん。
 私はそのちょうど三つに別れている所が不安で不安でしかたないんですけど。
 なんだかわざとバラバラにされようとしてるみたいな……


 「それじゃ私は真ん中行くから千夏は右のほうをお願いね。
  ウサギさんは左をお願い」

 「千夏。
  気をつけてな」

 「はい……ウサギさんもご達者で……」

 ホントに不安でしかたないですが、
 財宝を見つけなければ心中旅行になってしまうので右の道へと進みます。

 

 「はあ……本当に財宝なんてあるの?」

 一人でいる寂しさと不安で涙ぐんでいますけど、私は歩き続けました。


 「……あれ?
  さっきここ通ったような……」

 多分。
 というか絶対に迷いました。


 「そ、遭難した時はその場を動かないほうが良いって言いますしね」

 無人島に漂着している時点ですでに遭難なんですけどね。

 「それにこんな時はウサギさんが助けに来てくれるはず……」


 生存者 1人

 

 ……結果的に一家心中旅行になりそうです。


 

 7月24日 土曜日 「無人島の秘宝」

 皆さん、もし無人島で一人きりになって力つきようとしているなんていう
 バカげた状況になったらどうしますか?
 私?
 私の場合はですねぇ……。


 「我が輩は海賊であ〜る」

 ……財宝を守っている海賊の幻覚を見ます。


 「小娘、お前も我が輩の宝を奪いに来たのだな〜?」

 幻覚が喋りかけてきます。
 とりあえず無視。


 「ほほう、沈黙で返してくるか。
  それならばこっちにも考えが……」


 そう言って私の幻覚は持っていた剣を振り上げ……


 「って、うわぁ!!!!」

 紙一重で幻覚の攻撃を避けます。
 っていうか真剣?


 「な、え!? 本物!?」

 「いったい何だと思っていたのだ」

 錯乱した私が見た幻覚だと思ってました。
 とにかく、目の前の海賊が私に敵意を持って襲いかかってきます。


 「ご、ごめんなさい!!
  無視したりなんかして!!
  お願いだから許して!!」

 「別に無視したことに腹を立ててるわけじゃねえよ!!」

 「ええ!? それじゃあ何で剣なんて振り回して……」

 「財宝を奪いに来た賊を倒すために決まっているだろうがぁ!!」

 「え? 財宝!?
  そんなもの本当にあるんですか!?」

 「ああ、もちろん
  伝説の部族『アウグムビッシュム族』の呪われた秘宝がな!!」

 え……呪われてるの?


 「もしかしてお前……財宝のこと、知らなかったのか?」

 「え、ええ。
  そうなんです。
  初耳でした」

 お母さんから聞いてたけどここは黙っておきます。


 「なんだ、そうだったのか。
  すまなかったな小娘」

 「い、いえ……」

 

 (千夏……千夏)

 突然私の頭の中に、死んだはずのお母さんの声が響きます。

 「お、お母さん!?
  どういうこと!?」

 (今私は天国からあなたにメッセージを送っているの)

 「嘘つかないでよ!!」

 (嘘じゃないわよ。
  本当に死後の世界にいるんだってば)

 「お母さんが天国なんか行けるわけないじゃん!!
  絶対に地獄行きだよ!!」

 (そっち?
  そういう意味でありえないってこと?)


 「それで地獄から一体何の用ですか?」

 (地獄じゃないんだって……
  まあいいわ。
  千夏、これからあなたは目の前の海賊をうまく騙して
  財宝を手に入れるのよ!!)

 「そんなこと無理ですよ!!」

 (うまく行けば『海賊から宝を騙し取った少女』でしておとぎ話になること間違いなしよ!!)

 さすがに今の時代ではおとぎ話になることなんて無いでしょう。


 (さあ早く!!)


 もう仕方ないなあ……
 やるだけやってみます。

 「えっと、海賊さん……」

 「ん? 財宝ならやらんぞ?」

 先手をうたれました。
 でもこれぐらいではへこたれません。

 「その財宝と、私の持っている120分ビデオテープを交換しませんか?」

 確かにへこたれてはいませんでしたが、
 いっぱいいっぱいでした。
 よりにもよってビデオテープですか自分。


 「そんな物財宝と交換する価値無いぞ」

 まったくの正論です。
 でもこれぐらいじゃ負けません。


 「このビデオテープはなんと、三倍で取れば6時間も番組を録画できるんですよ!!」

 確かに負けてはいませんでしたが、
 いろんな意味でダメになってました。
 ビデオデッキの機能を説明しただけだし。


 「え!? マジで?」

 食いつきやがりました。


 「今ならなんとこの暖かい湯たんぽもついてきてお得ですよ!!」

 なんだか通販番組みたいになってます。

 「う〜んどうしようかな……」

 もう一押し。

 「さらにこのサバイバルナイフも付けちゃいます!!」

 「あ、それじゃいらない」


 ……あなたの物欲はどんな法則で燃え上がって、
 そして冷めるんですか。

 

 「それじゃ帰ろっか千夏?
  みんな外で待ってるわよ」

 「お母さんたち生きてたんだ……」

 「心が死んでいただけだったのよ」

 それはそれでまずいですよ。

 お母さんに連れられて洞窟を脱出し、いつの間にか作っていた
 なんだかんだでバカンスが終わりました。


 というか、結局財宝ってなんだったんですかね?

 


過去の日記