2月19日 日曜日 「ドッペルゲンガーの説教」

 「っていうかあなたもしっかりしなさいよ。なんでそんな人生にしちゃったわけ?
  入れ替わる事になるかもしれないドッペルゲンガーの事を考えた事無かったの!?」

 「はぁ……そう言われましても、こればっかりはどうしようもないというか。あと、ドッペルゲンガーの存在を考えて人生を生きる人って稀だと思うんですよね」

 「そういう気持ちの持ちようがダメなんですよ!! あのね、あなたの人生を客観的に見てみなさい? 胸を張って自慢出来るようなモノ!?」

 「だからそう言われてもですねぇ……」

 「もっと良くなるように生きろよ!! 自分の人生でしょ!? それが良くなるように生きないで、何をして生きるって言うんだ!! お前、人生やり直せ!!」

 なんかすっごい事言われてますね。
 というか、なんで私はドッペルゲンガーに説教されないといけないのでしょうか。
 酷いや。そこまで言わなくても良いのに。


 「つうかお前! なんでいじめられてるんだよ!!」

 「さあ……? 何ででしょうね?」

 「そういう所がダメだ!! 不幸の原因を究明して改善しようとしないから、ますます不幸の泥沼にはまり込んでいくんだ!!」

 「あのですね、イジメとかそういうのは理不尽な不幸でして、被害者側からは何かする事なんてできな……」

 「諦めるな!! 人生は諦めちゃダメなんだ!!」

 「別に諦めたわけじゃなくてですね……」

 「いい!? 人間は生きていればね、人生をどうにでも変える事が出来るの! それだけの可能性を人は秘めているの!!
  だから、一生懸命がんばるべきだよ!! 頑張れるのは生きている時だけなんだからねっ!! 死んでいるモノには頑張るなんて事できないんだからね!!」

 「なんだかまるで自殺しようとしている人に説教してるみたいになってますね……」

 むしろ私は生きたくてしょうがないのですが。
 だからこんな旅館にまでやってきたわけですし。
 というか、生き延びるために目の前に居るドッペルゲンガーさんと戦わなきゃいけないんじゃなかったでしたっけ?
 なんで私は正座させられているんですか。なんでここまで言われなきゃいけないんですか。
 戦いはどうした?



 「もうダメだあんたは! ダメダメだ!! このままじゃただの雌ブタだ!! ほれ、ブヒって鳴いてみ!? ブヒって!!」

 「ちょ、ちょっと! なんだか訓練中の兵士に罵声を浴びせる鬼軍曹みたいになってる!!
  もう良く分からんよ!!」

 「あんたが不甲斐ないからいけないんだ!! あんたのその不甲斐なさが、私のS心を震わせるんだ!!」

 ドッペルゲンガーさんはSだったんですか。私のドッペルゲンガーのクセに。

 「もういいよ! あんたに千夏という存在は任せられない!! 私が、千夏として現世で生きる!!」

 「なっ、なにを勝手なこと言ってるんですか!! 私はまだあなたに自分を明け渡すつもりは無いですよ!!」

 「私が生きた方が、絶対に幸せな人生を送れるはずだもん! あんたなんかより生きるのが上手いはずだもん!!」

 「例え生き方が上手かったとしてもですね、幸せになれるわけじゃないんですよ!! 人生ってのは、不条理との戦いだから!!
  突然襲い掛かってくる不幸に傷つきながら生きるしか無いんだから!!」

 「よっしゃー!! じゃあ拳で決めようやないけー!! どっちが千夏として生きるか、勝負だ!!」

 「それって最初に戻ってるだけじゃないか!! 長い! 前フリが長い!!」

 「一撃で決める! ボディーへの一撃で私は決める!!」

 「じゃあ私は遠くから槍で突くよ!! すっごい安全策で!!」

 「構わない! どんとこい!!」

 「いいの!? 武器使っちゃっていいの!?」

 あまりの好条件にびっくりですよ。普通にしてたら勝っちゃいますけどいいんですか……?




 「あのさ……早くしてくれない?」

 「ウサギさん。そうは言いましてもね」

 なんでこんな時間かかってるんだろうか良く分からないですけど、でもしょうがないんですよ。
 多分。




 2月20日 月曜日 「勝負の行方」

 あらすじ:誰が千夏として現世で生きるか、ドッペルゲンガーとガチンコ勝負してます。


 「やったー! 勝ったー!!」

 「ええ!? 今日の日記始まって2行目で勝負終わり!?」

 「いやー、大変でしたよウサギさん。
  まさか相手が古代殺人武術『焼かない焼きそばUFO拳』の使い手だったとはね。
  あやうくごちソースをぶちまけられる所でした」

 「まったく危機感が無いピンチだったな」

 「でもそれを喰らうかという所で、私の潜在能力『コチョッペリーナ』が発動するんですよね。
  まるで少年漫画の主人公みたいでしたよ。私は」

 「タイかどこかのスパイスみたいな名前だな。『コチョッペリーナ』」

 「能力の発現の勢いに任せてドッペルゲンガーを倒しちゃおうかと思ったんですけどね〜……。
  まさかドッペルゲンガーの正体が……生き別れの姉だったなんて」

 「生き別れの事実よりも、むしろドッペルゲンガーであった頃の方が衝撃度は強いけどな。
  だってドッペルゲンガーだし」

 「その真実を知った私はついつい攻撃の手を緩めてしまうんですよね。
  ほら、私って情に厚いから?」

 「聞かれても」

 「ドッペルゲンガーの奴はその隙を逃す訳もなく、卑怯な攻撃をしてくるんですよ。
  UFO拳最終奥義、『あげだまボンバー』でね」

 「なんだかすっごく懐かしい技名だな。ヤキソバンという名称が思い浮かんだ」

 「あやうくその『からあげレバー』を喰らいそうになった私ですが……」

 「技名変わってるよね。気付いてないかもしれないけど」

 「最終奥義を喰らいそうになった私ですが、間一髪の所でトコロテン夫人が助けてくれたんです」

 「すんなりと新キャラ出したね。というかなんだトコロテン夫人って」

 「トコロテンさんの奥さんです」

 「そいつはちゃんとした哺乳類なのか?」

 「そして助けてくれたトコロテン夫人が言うのです。
  『あなたはここで死ぬべきような器じゃない。生きなさい。そして、大儀を成すのよっ!』…………ってね」

 「トコロテンと結婚してる癖にかっこいい事言うね」

 「こうして私はなんとかドッペルゲンガーに勝利する事ができたのです。めでたしめでたし」

 「確かにめでたいな。途中、素敵すぎる展開だらけだったけど」

 まあいいじゃないですか。勝ったんだし。




 「嘘だ!! その物語はまったくのパチモンだ!!」

 「げっ……まだ生きてたんですかドッペルゲンガーさん」

 「本当は、槍よりも遥かに卑怯なアサルトライフルで私を倒した癖にっ!!
  そんな卑怯なやり方で倒したのにっ!!」

 「せっかく人がかっこいい死に際にしてあげたのに……」

 「あれのどこがかっこいい死に際!?」

 アサルトライフルで蜂の巣にされたという事実よりはずっとマシだと思うんですよね。
 まあとにかく、私はドッペルゲンガーに勝利して神様へと一歩近づきました。
 やったね☆


 2月21日 火曜日 「久しぶりな人」

 「あ……加奈ちゃんどうしたんだろ」

 ドッペルゲンガーを倒して神様に一歩近づいた私ですが、一番大切な事を思い出してしまいました。
 そうですよ。私は加奈ちゃんを助けるためにこんな妖怪の腹の中に来たんですよ。
 別にまったく私と似てないドッペルゲンガーとじゃれあうためにここに居るんじゃないんです。


 「ど、どうしよう……。加奈ちゃんがもし妖怪に完全に消化されて、雪女さんたちみたいな事になってたら……」

 「あの子の悲鳴を聞いたのは大分前だからな……。もしかしたらダメかもしれない」

 「そんなぁ……」

 例えそれが事実であっても、もうちょっと希望を持たせてくれてもいいじゃないですか……。
 酷いですよウサギさん……。

 「……あ、ごめんな」

 「いえ……。とにかく今は、一瞬でも早く奥へと向かいましょう。
  もしかしたら加奈ちゃんは無事のままかもしれないし」

 そんな事ありえないのは十分承知していましたが、それでも私は信じたくて溜まりませんでした。
 だって加奈ちゃんは……私の、娘なんだもん。
 無事で居てほしいに決まってます。




 「加奈ちゃ〜ん! 良い子だから居たら返事してください〜!!」

 「……」

 「加奈ちゃーん!!」

 いくら私が声を張り上げても、一向に加奈ちゃんからの返事は返って来ません。
 やはり加奈ちゃんは妖怪の奴に……。

 「ウサギさぁん……。どうしよう?
  私が寄り道なんかしてたから加奈ちゃんが……」

 「別に千夏のせいじゃないよ」

 「でもぉ……」

 「この妖怪の奴が、そしてそれを作ったアウグムビッシュムの奴らが悪いんだ」

 「それもそうだね! あいつらが悪い!!」

 「心の切り替え早っ!?」

 ウサギさんが励ましてくれたんじゃないですか。
 私はそれにどっぷりと浸かっただけです。



 「それにしても……アウグムビッシュム族の人たち、なんでこんなモノを作ったんでしょうか? 前に世界の驚異である阿部さんに立ち向かうためだと聞きましたけど……多分嘘でしょうし」

 「そうだよな……。なんでこんな死階の境界なんていうへんてこな空間を作ったんだろう?」

 「それには私がお答えしよう」

 「だ、誰ですか!?」

 また主の姿が見えぬ声が私たちの所までやってきました。
 どこかで聞いた事のある声なんですけど、一体……?

 「私の正体は……」

 「あなたの正体は!?」

 「家族旅行なのに普通に置いていかれた、ただのパソコンです」

 「我が家のファミリーパソコンに成り下がった足長おじさん!?」

 そう言えば居ましたね。そんな人。
 ……女神さんよりその存在を忘れてた。





 2月22日 水曜日 「本当のお話」

 「私がすべての真実を話そう。どうか落ち着いて聞いてほしい」

 我が家に普通に置いていかれたパソコン……もとい足長おじさんが、妙にもったいぶって語りだしました。
 まあなんにしても、良い出番与えられて良かったですね。
 あわや出番無し記録を更新しかねない勢いでしたから。

 「あ。その話を聞く前にひとつ質問があるんですけどいいですか?」

 「ん? 何が聞きたいんだ?」

 「足長おじさんの本体は我が家にあるはずなのに、なんでここまで声が届くの?
  IP電話?」

 「私は確かに動ける肉体を持ってはいないが、その代わりに自由自在に幽体離脱できる技術を身につけたのだ! すごいだろ?」

 「死にかけている事を自慢されても」

 「違う! 幽体離脱と死にかけは違う!! なんかこう、ニュアンス的に!!」

 そんなもんなんですかね?
 私にしてみればどっちも似たようなものですけど。



 「よし。それじゃあ今までの事を説明するぞ?」

 「どうぞ、お願いします」

 「実はこの旅館ゆきおんな……アウグムビッシュム族が作り出した妖怪だったのだー!!」

 「ええー。それはびっくりー(棒読み)」

 本当はとっくに知っていた事ですけれど、いちいち話の腰を折るのもあれなので適当に相づち打ちました。
 これが今の世を生きるための処世術なのです。

 「しかしまあこれは別に驚く事では無い。旅館が妖怪なんて、都会に行けば普通にある事だ」

 「都会なんかにねえよそんなびっくり旅館。
  どこの田舎人の都会に対する誤解だ」

 「しかしこの旅館が普通の妖怪たちと違う点がひとつある。
  それは……この旅館は、神様になるための修練の場として作り出されたのだ!!」

 「なんですってー?(棒読み)」

 まあそれも今までの展開見れば分かりますけどね。
 でも何も言わないのがいわゆる大人の対応って奴です。


 「ここに宿泊した者は数々の試練を与えられ、神へと近づいていくのだ。
  ちなみに、お前以外の人間の姿が消えてしまったのも神になるための試練のひとつだったのだ」

 「あれがですか?」

 「そう。神とは常に孤独な存在だからな。孤独に耐えられる精神を作るために、お前をひとりにさせたんだ」

 「あれ? でもウサギさんも消えてませんでしたよ?」

 「ありゃ。何か手違いでもあったのかな……? まあいいや。とにかく、お前はその試練を耐え抜いたのだ。
  孤独に耐え、そして自分の代替存在であるドッペルゲンガーに勝利した。
  見事だったぞ千夏」

 「という事は……みんな無事なんですか!? 加奈ちゃんもその他の人も!?」

 「もちろんだ。そしてお前は見事、神の仮免許を手にする事ができたのだ」

 「仮免許!? 神様って免許制なの!?」

 「免許制にしないとどんなホラ吹きでも神様を名乗る事ができるじゃないか。
  ちなみにその詐欺紛いの神様たちは、業界ではモグリと呼ばれている」

 どの業界だ。



 「とにかくおめでとう千夏!」

 「千夏さん、おめでとうございます!!」

 「お姉さまおめでとう!!」

 どこからともなく雪女さんやリーファちゃんが姿を現しました。今の彼女たちにはちゃんと肉体があります。
 きっと試練が終わったので彼女たちの肉体が元に戻ったのでしょう。
 本当に無事で良かったです。



 「ママー!!」

 「加奈ちゃん!? ああ、無事だったんですね!?」

 私の元に走ってきた加奈ちゃんを思いっきり抱きしめてやって、私は高い高いをしてあげました。
 まあさすがに小学生の私には言うほど歳の離れていない子を持ち上げるのは大変でしたけど、精一杯の愛情表現としてやってあげました。



 「みなさん無事みたいで本当に良かったですよ。というか心配して損した」

 「なあ千夏……」

 「ん? なんですかウサギさん?
  なにか変わった事でも?」

 「いや、その……千夏のお母さんの姿が見えないのだが?」

 「……」

 そう言われてみれば確かに、この場所にお母さんの姿は無いです。
 というか、そういえばお母さんは妖怪に肉体を食べられたんじゃなくて誰かに刺されていたような……。

 「……足長おじさん。お母さんはどうして包丁で刺されてたんですか?」

 「……………………さあ? なんでだろね?」

 「事件はまだ終わってない的展開!?」

 今から犯人探しですか!?



 2月23日 木曜日 「すっごい証拠」

 「え〜っと、みなさんにここの旅館の大広間に集まってもらったのは他でもありません。これから、お母さんが殺された謎を解きたいと思います」

 「千夏さん。ひとつ質問があります」

 「雪女さん。私の事を呼ぶときは名探偵千夏と呼んでください。もしくは千夏先生」

 「千夏さん」

 「人の話聞けよ」

 「あのですね、もしかして千夏さんにはもうすでにお義母さんを殺した犯人が分かっているんですか?」

 「ええもちろんです! もちのロンです! 満貫です!!」

 「その良く分からない麻雀つながりはなんですか。
  まあそんな事はどうでも良くて、それなら私たちをここに集めたのは……この中に犯人が居るって事なんですね?」

 「なかなか鋭いですね雪女さん。まさにその通りです」

 私の言葉にざわつく大広間。
 そこにいるのは我が家のメンツだけではなく、この旅館の従業員だった人もいます。
 彼らもどうやら肉体を取り戻して普通の人間に戻ったみたいです。良かったですね。


 「千夏迷探偵!!」

 「字が少し違っちゃってますよ黒服さん」

 「いくらなんでもその結論は早すぎるんじゃないのか?
  何か証拠でもあるってのかよ!!」

 「ありがとうございます黒服さん。そのミステリーものの物語でよく脇役っぽい人が言いそうなセリフを待ってました。
  そうです!! 私は、この中に犯人がいるという確実な証拠を見つけたのです!!」

 「本当ですかちなたん!?」

 「千夏名探偵を勝手に略すなよリーファちゃん!
  しかも今の世ではどこかに溢れていそうなキャラみたいな名前で!!」

 「じゃあナツテイにしましょうか?」

 「納豆のなり損ないみたいでヤダ。
  とにかく、私は重要な証拠を見つけたのです。しかも、普通じゃありえない証拠を」

 「普通じゃありえない証拠……? それって何なんだ?」

 「ふふふ……これを見てびっくりしちゃってくださいウサギさん。
  それは……ジャジャーン!! 『犯人の名前が完璧に書かれたダイイングメッセージ』!!」

 「それは確かにありえない!! 特にミステリーものでは!!」

 「すごいですよねー。私も見つけた時びっくりしちゃった。
  あるとは思わなかったもん」

 でもおかげさまで回りくどい推理をしないで済みました。
 やったね☆。




 「それで犯人はいったい誰なんだ?」

 「はい。お母さんの遺したダイイングメッセージに書かれた名前は……」

 「名前は……?」










 「安倍さんです!!」

 「また安倍さんなのか!? いったい誰なんだその安倍ってのは!?」

 人類の敵らしいですよウサギさん。



 2月24日 金曜日 「犯人みっけ」

 「犯人は安倍さんです!!」

 「「だから誰やねん安倍さんって!!」」

 大広間に集まってもらった方々全員から突っ込まれてしまった私。
 ちょっとばかしそれが怖くて縮こまってしまいますよ。
 みなさん、探偵にはもうちょっと優しく接してあげてください。
 か弱い生き物なんですよ。探偵は。



 「だってそう書いてあるんだから仕方ないじゃないか!!
  それともなんですか!? この安倍という文字を、『ヤスベ』さんとでも読めと!?」

 「そもそもそれって本当に被害者が遺したダイイングメッセージなのかよ!?
  もしかしたら犯人が捜査を撹乱させるために仕掛けたトラップかもしれないじゃないか!!」

 おそらくこの旅館の従業員であろう男性Aがまともな事を言ってきやがります。
 ちくしょうめ。まさかその正論をエキストラポジションの人間に言われてしまうだなんて。
 探偵としてやっていく自信が無くなりました。まあ初めから探偵として生きる気はさらさらありませんでしたが。



 「え〜っと……ここに居る中で安倍って名字してる人!!
  手をあげなさい!! 逮捕しちゃいますから!!」

 「「……」」

 し〜んと静まり返る大広間。
 誰も手はあげませんし、声ひとつあげませんでした。
 ……なんだか寒いギャグでも言って場を凍りつかせたみたいな状況になってますね。すっごく悲しいわ。

 「千夏……もし本当にこの中に安倍っていう名字の人が居たとしてもさ、誰も手をあげようとしないと思うんだよね。空気的に」

 それもそうっすね。ウサギさんに言われて初めて気付きましたけど。


 「じゃあ名前が安倍っていう人〜! 手をあげて〜!!」

 「違うぞ千夏! そういう意味じゃない!!」

 「え? そうなの?」

 じゃあ無駄な質問しちゃいましたね。あはは。
 はあ……。





 「すみませ〜ん……。私、名前が『アヴェ』というのですが……」

 「あれー!? 居ちゃった!?
  っていうか犯人みっけー!!」

 わーい。やったあ♪




 …………マジですか?




 2月25日 土曜日 「最悪の敵、アヴェ」

 「あなたがお母さんを殺したのですね!?」

 自らの名前を『アヴェ』だという男性に向かってビシッと指を突き刺し、私は思いっきり言い切ってやりました。
 うんカッコイイ。本当に探偵になったみたい。
 その私からの追求を受けて、アヴェさんは高らかに笑い出しました。


 「は〜っはっはっはっはっは!!!! その通りだ!!
  私があの女を、器の前所持者を殺したのだ!!」

 「微妙に昨日とキャラを変えてくるなよ! 高笑いしそうな人じゃなかったじゃんか!!」

 なんで犯人だと指摘されたら急に気が大きくなったんだ。
 そのきっかけの中に一体どんなスイッチがあったというんだ。

 「とにかく、なんで私のお母さんを殺したりなんかしたんですか!?
  しかも包丁で後ろからぶすりという、あまり派手じゃない殺し方で!!!
  あれじゃあ大量生産された2時間サスペンスですよ!! そんな殺され方されたお母さんの哀しさを考えて見てください!!」

 「千夏! ちょっとなんか説教のベクトルが違う気がする!! 怒るのはそこじゃないだろ!!」

 ウサギさんが先ほどの言葉の訂正を要求してきますけども、まあ一度口から出してしまったものなのでどうにもならないと思います。
 さっきのは違ったと言うのも恥ずかしいですし、このまま私はお母さんの殺し方が地味だった事で怒っているという体で進めさせてもらいましょう。
 いやね、本当はお母さんが死んじゃった事自体に怒っているんだよ? 本当ですよ?

 「ふふふ……悲しむのではないぞ少女よ。どうせ、お前たちもすぐにあの女の後を追う事になるのだからなっ!!」

 「なんだかRPGのボスでそんなセリフ吐く奴が居そうな事言っちゃって……」

 そういう方向付けのキャラで行くんですか? なんだかすっごく簡単に死にそうだ。





 「わが呼び声に応え、その姿を構築しろ! 血は毒。肉は穢れた大地。魂は崩れゆく憎しみっ!!
  世界の全ての闇を生み出す聖母よっ!! 我の敵を、全て握りつぶせぇ!!!!」

 「な、なんですか!? これ、召喚術!?」

 アヴェさんが何やら良く分からないセリフを吐いたかと思ったら、彼の後ろからおぞましい化け物が出てきました。
 いくつもの人間がごちゃごちゃにくっつけられたようなそれは、まさに世界で一番おぞましいオブジェと言えるモノです。
 恐ろしい。というか、恐怖という感情を無理やり押し付けられているような圧迫感を感じます。

 「お前……普通の人間じゃないな? いったい何者だ?」

 「くくく……機械の守り人か。長い年月をかけて人間どもに改修され、動物の脳を安全装置として組み込まれた人形か。
  可哀想だな。安らかに死ぬことさえ出来ないのだから」

 「お前……星の民か?」

 「その通りさ!! 私は黒い星の民のドッペルゲンガー!!! 私に仇なす存在であるお前らを殺すために、直接ここに来てやったのだ!!」

 「黒い、星の民だとっ!?」

 黒い星の民っていうと……アウグムビッシュム族の原始の村を崩壊させた人の事?
 全ての元凶となった奴ですか!!

 「さあ! お前ら全員殺してやろうぞ!!」

 「私たちだって負けませんよ!! あなたはとりあえずぶん殴ってやらないと、気が済まないからねっ!!!」

 こうして、私たちの戦いが始まりました。




 ○私たちの戦力

 ウサギさん(すごく強い)

 リーファちゃん(強いはずだけど、私ひとりも殺せないダメ暗殺者)

 加奈ちゃん(戦いなんて無理)

 黒服(どう見たって戦い向きじゃない)

 雪女(なんだか弱そう)

 女神(キャラ的に弱そう)




 …………あまり頼れる人が居ませんね。大丈夫かこんなんで。









過去の日記