2月26日 日曜日 「対アヴェ秘密基地作動」
「おーっほっほっほっほっほ!!! お前たち、私の召喚獣の餌食になっちゃいなさい!!」
「なんかキャラづけが四天王のひとりに居そうなオカマキャラになってるよアヴェさん!!
すっごく簡単にやられそうなキャラだ!!」
自分で死亡フラグ立てなくてもいいじゃないかと思うのですが。
さて、私たちはなにやらいろんな事の黒幕のドッペルゲンガー、安部もといアヴェさんと戦う事になってしまいました。
アヴェさんはおぞましい召喚獣を呼び出しまして、私たちを殺そうといたします。
誰かをやっつけるのに他人の力を借りるだなんて、お前はのび太くんか! と説教したくてたまりませんよもう。
「くっ……なんてことですか。この旅館は対アヴェ用に作られたものだというのに……そのアヴェに容易く侵入を許していたとは!!」
この旅館の従業員のひとり……その声からすると、私とウサギさんの部屋の担当だった人が悔しそうに呟きます。
そうか。彼女も肉体が戻ったんだ。
「えーっと、あなたの名前はなんでしたっけ……?」
「十業院栄子です!!」
「うんすごい! 感じで見るとなんだか良いところのお嬢さんだけど、漢字変換すると従業員A子な名前がすごい!!
ここまで脇役人生を定められた人間が居ていいものだろうか!?」
ある意味で関心しますわ。その名前を付けた親に。
「なんですか? 私に何か聞きたい事でもあるんですか?」
「え、あ、はい。そうです。聞きたい事があるんです。名前なんかに驚いている場合じゃないのです」
私の後ろではウサギさんとアヴェさんが召喚した化け物が戦っているようです。なにやらすごい音がしてますし。
ウサギさんなら大丈夫だとは思うけども、でもやっぱり私も何か手伝わなきゃ。
「A子さん……じゃなくて栄子さん。あのですね、この旅館ってもともとアウグムビッシュム族の秘密基地なんですよね?」
「ええそうです。あのアヴェという者が来る事を見越した者たちが作った、最強の秘密基地なんです」
「秘密基地の最強がどういうものか全然分かりませんけども、まあ今はいいです。
という事は、彼に対抗できるような武器が設備としてあったりするんじゃないですか?
それを使えば、アヴェさんをぎったんばったんに出来たりしちゃうんじゃないですか?」
「なるほど! さすが千夏さんですね!! 神様の仮免許をお持ちなだけある!! ありがたい!!」
「別にありがたくは無いと思います」
だから拝むな。
「分かりました!! じゃあさっそくそういう武器っぽいのを探して参ります!!
この旅館『ゆきおんな』に在籍している従業員、全300名の力を集結して!!」
「そんなに人居たんですか!? この旅館は!?」
なんて無駄な人員確保してるんですか。どう見たって300人は過剰人員なのに。
毎月の給料とかどうしてるんだろ?
「ウサギさ〜ん。大丈夫ですか〜? 今、従業員さんたちが全員武器になりそうな物を探しにいきましたから、もうちょっとの辛抱ですよ〜」
「うん。戦闘中にそんな事言われても、気が散るだけなんだけどっ!!」
ウサギさんはアヴェさんの化け物にハイキックを喰らわしてぶっ飛ばします。
これだけで普通の人間だったらすでに昇天レベルの攻撃なのですが、巨大な化け物はゆっくりと立ち上がります。
……どこの誰ですかね? モンスターは体力が凄いって設定した奴は。
「千夏仮神様!!」
「え!? なにそれ!? 私の事なの!?」
従業員A子さんが私の事を呼びました。どうやら武器か何かを見つけてきたらしいです。
「何か見つけたんですね!?」
「ええ! これを見てください!! これならきっとアヴェを倒す事が出来ます!!」
「おお! これは………………何ですかこれ?」
「カビの生えた餅です!!」
「うわぁ……確かに生体兵器かもしれないけども」
でもそれって別にこの旅館が秘密基地だからあったわけじゃなくて、ただ単に正月用に買った奴が今の今まで残っていただけでしょうに。
むしろそいつを対アヴェ用の兵器として残していたらどうかと思いますわ。
「じゃあこれとかどうです?」
「えっとこれは……本?」
「はい。アヴェの奴の中学校の卒業文集です。これを見て自分の恥ずかしさで死にそうにさせれば……」
「無理! そういう倒し方は、絶対に無理!!」
っていうかアヴェさんは中学校に行ってたんですか?
星の民なんでしょ? ドッペルゲンガーなんでしょ?
「じゃああとはこれぐらいしか……」
「なんですか? あまり期待してなかったりしますけど、一応確認させてくださいよ」
「はいどうぞ。これが厳重な封印が施された箱に入っていたんです」
「これって……薬? 一体なんの薬でしょうか?」
「なんでもその秘薬の名前は『ショボイ妖怪デモ、スッゴクツヨクナ〜ル(雪女トカ。主ニ雪女トカ)』というらしいです」
「なるほど。まるでさっきから人外の戦いを見て端の方で震えている雪女さんに使うためにあるようなお薬ですね」
とうとう出番らしいですよ雪女さん。
良かったね。目立つ事が出来そうで。
…………死ぬかもしれんけど。
2月27日 月曜日 「雪女さんの薬」
あらすじ:雪女さんがすっごくパワーアップする薬を見つけました。怪しい事この上ない一品ですが。
「さあ雪女さん!! どうぞぐぐいっとお飲みください!! 遠慮しないで!!」
「喜んで遠慮させてもらいますよこんなもん!!
いくらなんでも怪しすぎますって!」
「怪しいって言ったってちょっとドクロマークが貼られているだけじゃないですか。どうって事ないよこんなもの」
「かなり大事な位置を占めてると思いますよ!? そのマークは!!」
そのマークの恐怖を乗り越えて、是非雪女さんには一気飲みしてもらいたいですね。
「雪女さん……いいんですか? このままだと、まったく良いところ無しで話が終わってしまいますよ?」
「え……?」
「その目立たざる佇まい、女神の如しですよ?
それでいいんですか?」
「良いです。別に。死ぬよりは」
「ありゃ。まさかの非積極性」
女神さんが聞いたら激怒しますよ。多分。
「千夏! まだ何か武装は見つからないのかよ!?」
向こうの方で化け物と戦っているウサギさんが私たちに向かってそう叫びました。
どうやらアウ゛ェさんの呼び出した召喚獣はかなり強敵みたいです。
はやく助けてあげないとやばいかも……。
「ほら雪女さん!! 四の五の言わずこれ飲んで!!」
「だから嫌ですっばー!!」
「雪女さんだけが唯一の希望なんですよ!? 不本意な事にっ!」
「その言いぐさは私に期待してるのかしてないのかどっちなんですか!!」
期待しまくってるんですってば。不本意な事に。
「これを飲んだらスーパー雪女さんになれるんだよ!?(多分) 名前の頭にスーパーが付くなんて、子どもの頃からの夢じゃないですか!!」
「確かに子どもの時はスーパーという文字にときめくかもしれませんが、今の私はそんなのでときめきません!!
勝手に人の夢を変な物にしないでよ!!」
スーパーには別に憧れてなかったんですか。
そりゃ残念。
「ね〜、お願いですよぉ。この薬、飲んでくださいってば」
「何度頼まれようとそれは了承できません。私は、自分の命が惜しいですから」
「じゃあこの薬を飲んでくれたらご褒美あげますよ。すっごいの」
「すごいご褒美……? もしかして、千夏さんのでぃーぷきすとか!?」
そんなの欲しいんかい。この変態妖怪が。
「今は亡きモリゾーとキッコロのぬいぐるみを差し上げます」
「今さらそれですか!?」
いろんな意味でレアじゃないですか。モリゾーとキッコロ。愛地球博のマスコット。
「ぐぬ、ぐぬぬぬぬ……確かになんだか欲しい気が……」
「あれ、予想以上に効果があった」
私の本音を言わせて貰うと、こんなのいらない。
だってモリゾーの目つきが怖いし。
2月28日 火曜日 「スーパーな人」
「モリゾーとキッコロのため……っ!! いっきさせていただきます!!」
「うっひゃー。まさか珍味なぬいぐるみのために薬を一気飲みしてしまうとは。
私の立場にしてみれば嬉しい事この上ないですが、素直に心配になりますよ。その判断は」
「誰だって一度ぐらいは、人生の全てを賭したギャンブルをやらなくちゃいけないんです。
臆病者なんかには、この世界は生きれない」
なんとなくかっこいいセリフにも思えますが、その言葉がモリゾーとキッコロによって生まれたものだと思うとがっかり度が愛地球博ですね。
微妙に上手い事言ってごめんなさい。
「じゃあいただきます!! ゴクゴクゴク……」
「うわぁ……マジで飲んじゃった。
ねえ雪女さん、それ美味しい? 人生最期の飲み物は美味しい?」
「ちょ、なにさらりと不吉な事言ってるんですか!! せっかく戦う決意を固めた人間に向かって!!」
「それもそうね。とにかく頑張ってね雪女さん。命捨てる覚悟で。命、捨てる覚悟で」
「……千夏さん。もう応援はいいです。少しずつ凹んでいくから」
私の誠心誠意を込めた応援が凹むと言われるのは正直良い気分はしませんが、まあ良いです。
とにかく本当に頑張ってください。
雪女さんの肩に、地球の命運とかそういうのがかかってそうな雰囲気なんですから。
……そういえば私たち、なんでアヴェさんなんかと戦ってたんでしたっけ?
正当防衛? あまり盛り上がらない闘いの理由だなぁ……。
「なに言ってるんですか千夏さん!! 私たちには、仇討ちという立派な理由があるじゃないですか!!」
「勝手に人の地の文……モノローグを読むのは止めてくださいよ。プライバシーの侵害ですよ?」
「だって千夏さんが酷い事言ってるから!! いくらなんでもあの人に殺された被害者に失礼ですって!!」
「アヴェさんに殺された被害者……? そんな人居ましたっけ?」
「酷い! なんて凶悪さなんですか千夏さん!!
人間としてどうかと思いますよ!!」
「え〜っと殺された人殺された人…………ああ! あの、醤油とソースとコーヒーの見分けがつかない人の事ですね!?」
「春歌さんの事かーーー!!!!」
「ゆ、雪女さん!?」
なんだか有名なセリフっぽい事を口走った雪女さんの体から凄まじいオーラが爆発的に解放されました。
多分これがこの旅館に隠されていた秘薬の効果なのでしょう。
何もかも予想通りに進んでますね。あとは雪女さんが見事化け物に勝利してくれればいいのですが。
「すげえ……オラの力がどんどん湧いてくっぞ」
「なんだその言葉使い? どこの戦闘種族だお前は」
「今のオラなら……やれるっ!!」
「人の話を聞かないかねスーパー雪女さん」
また私を置いてけぼりなキャラが増えたのか。
もうやってられへんわー……。
3月1日 水曜日 「ヨミガエリ」
「喰らえ! オラの必殺技、デガピンだ!!」
「ぎゃー。やられたー」
「でこピンの最上級技で化け物を倒しちゃったー!?
すごいなスーパー雪女さん!!」
「スーパー雪女? オラの名前はそんなダサいもんじゃねえ」
「しゃべり方がすでに死ぬほどダサい人間が何を言いますかね……」
「オラの名前はバーニング雪女ってんだ! よろしくな!!」
「熱いのか冷たいのか良く分からない名前になっちゃいましたね」
いっそのこと自分の熱で溶けてしまえばいいのに。
わりと本気でそんな毒を吐いてしまいます。だってうざいし。
「ほほう……まさかそんな隠し玉を持っていたとはな。驚いたよ」
「アヴェさん……もう何もかも終わりですよ。大人しく降伏しなさい」
「降伏だと? そういうのは不利な立場の人間がやるもんだろ?」
「なんですって……? あなた、まだ自分が押されているわけじゃないっていうんですか!?」
「切り札は最後に取っておくもんだぜ……。
我が呼び声に応え、死色の冥界よりその姿を現せ!!
そなたの心臓を動かすは、何より鋭き憎しみたるぞ!!
そなたの空の心を埋めるのは、熱き生き血の潤いだけぞ!!」
「なっ……!? まさかまた召喚ですか!?」
さっき雪女さんがでこピン……じゃなくてデガピンで倒したレベルのモンスターならいいのですが、もしあれより強い奴が出てきたら……。
最悪な事になりかねないです。
「雪女さん! 召喚される前に、アヴェさんを倒しちゃいなさい!!
術者さえ倒せば万事オッケーだから!!」
「へへ……。何言ってんだよ千夏。
こんなにすげえ奴と戦える機会なんてめったに無いんだぜ?
ここでアイツを倒しちまったらもったいないじゃねえか」
「あんたこそ何言ってるんだ。目を覚ましなさい」
いつからそんな好戦的になったんだよ。
ああ……あのヤバげな薬を飲んでからですよね。
やっぱり飲ませなければ良かったかも。
「いざ、召喚!!」
「ああ! グダグダ話してる間に召喚されてしまいましたよ!!」
ちくしょうめ。これじゃあ真っ正面から闘わなきゃいけなくなったじゃないですか。
……それにしても、アヴェさんの切り札っていったい?
「さあ! 我が手足となって闘うのだ!! リビング春歌よ!!」
「ま゛ーーー!!!! 千夏コロース!!!!」
「ってお母さん!? お母さんが召喚されてきた!?」
なんですかこの最悪な再会の仕方。
思わず無かった事にするために脳みそをシュレッダーにかけたくなりますよ。
「お母さん!! どうしてこんな事に!?」
「ま゛ーーー!! 千夏コロース!!!!」
「かわいそうに……きっと記憶を失って生き返ってしまったんだな」
私の方が記憶を失いたくて仕方ないんですけど?
「しかし相手は春歌か……へへっ。相手にとって不足はねえぜ」
「雪女さん!? まさかお母さんとガチンコで闘う気なんですか!?」
「あったりまえでい! オラは目の前に現れた敵を片っ端から倒していくだけよっ!!」
「そんな!!」
「それに……それが春歌のためなんだ」
「え……? お母さんのため?」
「見てみろよ。あの春歌の姿を。みっともないったらありゃしない。
生きていた頃の春歌は時折人として最低な行いをしたけども、それでも自分の誇りというものを大事にしてたっ! そういう気高い輝きを持った女だった!!
しかし今のアイツはどうだ!? あれじゃあただの動く死体じゃないか!!」
「それもそうかもしれませんけど……でもあれはやっぱりお母さんなわけで……」
「それにオラには、アイツと戦う理由がある」
「え? それっていったい……」
「連日23時間労働の恨みー!!!!」
「やっぱり奴隷扱いの不満爆発だったの!!??」
確かに怒る気持ちは分かりますけど、それを戦う理由にするのはやめてください。
なんだか戦いが急にちんけなものになった気がしますから。
3月2日 木曜日 「よくある展開」
「うおおおおー!! 23時間労働の恨みー!!」
「雪女さん! その闘いの理由はしょぼすぎる!!」
スーパー雪女さん。もといバーニング雪女さんがお母さんに殴りかかります。
連日の23時間労働の恨みを晴らすために。
というか毎日23時間働かされてたんですか。そりゃバーニングにもなるわ。
「ま゛ーーー。雪女コロース!」
お母さんは相変わらず正気を失ったままですし。
「殺せるものなら殺してみやがれ! この死後硬直が解けたばっかりのふにゃふにゃゾンビ……ぷぎゃはっ!!」
「雪女さんが張り手いっぱつでやられたー!?」
なんと衝撃的な展開なのでしょうか。
いちおうバーニング雪女さんは前回アヴェさんが呼び出した化け物を倒してるというのに。
死んでも戦闘力はお母さんの方が上らしいです。
さすが最強の四肢を持つ女。いくらなんでも卑怯でしょ。
「く、くそ……やっぱりこの人には勝てないっていうのかよー!!」
「もしかしたら雪女さんのDNAにはお母さんに勝てないとか刻まれてるのかもしれませんね」
そうなると雪女さんは一生お母さんに奴隷扱いされるわけですか。いや、実際は今まさに死んでからも足蹴にされてるんですけどね。
あーはっはっはっは…………笑えないなあ。
「うがー」
「リビングデッドお母さん、ちょっと待った!! なにも雪女さんにトドメ刺そうとしなくてもいいじゃないですか!! 酷すぎるよ!!」
「くくく……その女にはもはや言葉など伝わらん! なにせ、もう死んでしまったのだからな!!」
「そんな……」
「死というのはそういう事だ! 意志を、自分自身のすべてを失う事……それが死だ!!
その損失の恐ろしさを知っているからこそお前はこの地に来たのだろう?」
「っ!? 私がここに来る事を知ってたんですか!?」
「もちろんさ!! だから我はここに居るのだ!! ここでお前たちを待ち伏せしていたのだ!!」
なんでコイツが私が死にかけていて、そして神様になるためにこの旅館にやってくる事を知っていたんですか?
いくら万能に近い星の民だからって、こんな事まで…………まさか、私たち一家の中に内通者が……?
「よし!! まどろっこしい話は終わりだ!! お前たち全員を殺してやって、暁と黄昏の器を奪ってやる!!
その力でもって、アイツのドッペルゲンガーという立場からおさらばだ!!
リビングデッド春歌!! そいつらを殺せ!!」
「ま゛ーーー!!」
「きゃあああああ!! 誰か助けてぇ!!!!」
「まてい!! その子に手を出すな!!」
なんと、もう少しでお母さんにぽきっとやられてしまいそうな時に、誰かからの叫びが届いたのでした。
まあ普通だったらどっきりびっくりな展開なんでしょうけど、私の人生においては幾度かすでに経験済みの展開なのであまりどっきりしなかったりします。
でも一応は嬉しいよ。結構慣れたけど。
「お、お前は誰だ!?」
「私の名前は……正義の使者、だい……
きりも良い所ですし、ここらへんで今日の日記は終っておきましょうかね。
それではみなさん、また明日。
「なにその切り方!? ちょっと酷いよ!!」
うっさいボケ。
3月3日 金曜日 「ヒーローの正体は」
あらすじ:私を助けるために大妖怪さんが来てくれました。
「あらすじで正体ばらし!? こんなに酷すぎる展開見たこと無い!!」
「まあまあ、そんなに怒らないでくださいよ。ある意味斬新でしょ? ニューウェーブでしょ?」
「斬新すぎて波に飲まれたよ! だからお前たち家族は嫌いなんだ!! やることなすこと常識から外れすぎている!!」
私はまだまともな方だと思いますよ。
みんな一緒くたにしないでください。
「それにしても……どうして私たちの事を助けてくれるんですか大妖怪さん? 私たち、少し前までは敵同士だったんでしょ?
しかも相手は黒い星の民のドッペルゲンガーだし。あなたのお父さんと言っても過言ではない間柄のはずなのに」
「私は師匠から空舞破天流を習い、その力を正しく使おうとしているだけだ。
別に、お前らを助けたいと思ってやっている事ではない。全ては、空舞破天流の志のため」
「空舞破天流の志? そんなたいそうなものがあったんですか?」
「ひとーつ!!」
「わぁびっくりした! いきなり大声出さないでくださいよ!!」
「空舞破天流とは、弱い者のためにある!! 反骨精神は大人になっても持ち続けよう!!」
ださい掟ですねぇ……。何故か学校の標語みたいな言い方に思えるし。
「というか空舞破天流って弱い者の味方だったんですね。そんな正義の心がある武術だとは思わなかった。
ただ神様を殺すためだけの武術だと思っていましたよ。
でも弱いって言ってもですね、私たち一家は結構力のある集団だと思うのですが……? そこんところどうなのよ?」
「主に、頭の弱い人に優しい武術です」
「そっちの弱さか!! そりゃあ私たち救われちゃうわ!!」
えらいショックですけどね。まあこれは認めざる負えない。
「大妖怪……? ああ、原始生体の生き残りか。この世界で一番星の民に近い命のお前が裏切るとは……これも、そこの娘の力か?」
「何を言ってるのだかドッペルゲンガーさん。私は、誰の意志でもなくここに居て、そしてあなたを倒すのだ」
なんだかカッコいい事を言ってにらみ合うアヴェさんと大妖怪さん。
もう戦闘態勢に入っているらしく、ここの空間がビリビリと震えます。
いいね。そういう私たちを置いてけぼりの姿勢。まあどうでもいいですけど。
「いけ! リビングデッド春歌よ!! あの裏切り者を殺せ!!」
「ま゛ーーーー!!!!」
「空舞破天流の煌き、お前たちに見せてやる!!」
アヴェさん(実質戦っているのはお母さんゾンビ)と大妖怪さんの戦いが、今まさに始まったのでした。
「よし。とりあえずみんなでここから逃げましょうか? ほら、雪女さん立って」
「え……? 戦いの顛末を見届けなくていいんですか……?」
「そんな事より私は、おそらくこの秘密基地らしい旅館に設置されているであろう自爆装置を起動させて逃げた方がいいと思うんですよ。
大妖怪さんにアヴェさんの足止めをしてもらって」
「酷い! この人本当に酷いよ!!」
勝つための戦法だといってくださいよ。
3月4日 土曜日 「メラメラと」
「いやぁ。やっぱり木造の旅館らしくよく燃えますねぇ」
「まあ実際は旅館じゃなくて妖怪だったらしいけどな」
「そういえばそうでしたねウサギさん。私、すっかり忘れてましたよ。
それにしても……こうして見ると、物が燃えていく風景ってすごく残酷ですごく美しいですよね……。
なんでこんなにも人の心をひきつけるのでしょうか」
「やっぱり火というものに人は何かを見出してしまうんだろうな。
恐怖に似た尊敬が、そういう気持ちにさせてくれるんだと思う」
「はぁ……いろいろありましたけど、ようやく家に帰れそうですね……。
そういうセリフは年寄り臭くて嫌だけど、やっぱり家が一番ですよ」
「まったくだな。しかし本当にいろいろあったよなぁ」
「うんうん。例えば、妖怪が星の民の技術で作られた生体兵器だったりとかね。
そりゃまあ普通の生命体ではないなとは思っていましたけども」
「雪女の奴も多分そうなんだよな」
「ええ。この旅館に妖怪用のパワーアップドラッグがあった事もそれを裏付けているでしょうね。
妖怪を作る技術があったからこそ、あんなものを作れたんでしょうし。
それにしてもあのパワーアップは無いですよねぇ……」
「バーニ……なんだったっけ?」
「バーニング雪女ですよ。なんだか変なキャラクターになってました」
「しかしあいつ、俺より強かったからなぁ……」
「まあ確かに、あんなに苦戦していた化け物をデガピンで一発ですからね。
そりゃないって感じです」
「しかしそれも千夏のお母さんには敵わなかったんだけどな」
「そうですねぇ……あの人が強すぎるっていうよりは、雪女さんがお母さんに負け癖がついてるだけっぽいですけど」
「でも千夏のお母さん、死んじゃったんだよなぁ……」
「…………そうですね。確かに、あの人は死んじゃったんです。いまだに信じられないけど。
またどこかで出てきそうな雰囲気がプンプンとしているけども」
「それは確かにありえる」
「……まあ、良かった事も結構ありましたよ。私、神様(仮)になったんですもん」
「そうだっけ……。なんか、全然威厳無いからそんな風に思えなかったよ」
「あ。ウサギさん酷い」
「あははははは。ごめんごめん」
「もう……あははは。とにかく、アヴェさんも倒せたし良かったですね」
「ああ。本当に良かった良かった」
「いいわけあるかーっ!!!!」
「うわぁー!! 燃え盛る旅館の中から大妖怪さんが出てきたー!!」
「コロス! お前ら全員殺してやる!!」
「逃げろー!!!」
というか良くあの火災で生きてましたねぇ。
さすが大が付く妖怪。