3月26日 日曜日 「花見のお誘い」

 「千夏おねーさまー!! 花見行きましょうよ花見!!」

 「リーファちゃん……? 日曜の朝からいったい何なんですか。しかも花見って……。
  時期的にもうちょっと待った方がいいんじゃないの? まだ満開時じゃないでしょ?」

 「あれだよ! 時代先取り!!」

 その言い方は間違っていると思うけども。

 「でもどうしたんですか急に花見だなんて。リーファちゃんってそういう祭りごと好きなの?」

 「好きです! 大好きです!! もっと細かく言えば、花見の席で食べる食事が大好きです!!」

 「あー。なるほどね。花より団子って奴ね」

 「もっと言えばお酒が大好きです」

 「リーファちゃんって子供でしょ!? 酒とか普通にダメでしょうに!!」

 「子供だと 偽った事 あったかな」

 「なに俳句詠んでるんですか。しかも季語入ってないし」

 「子供の部分が季語です」

 「季節は何?」

 「少年時代という過ぎ去った春」

 びみょーに上手い事言ってんじゃねえ。




 「ねぇねぇ。花見に行きましょうよぉ」

 「あのですね、私は結構忙しいのですよ。これから一体どうすればいいのだろうとか、スパイの問題とか。
  あと、急に浮上してきたウチの貯蓄が底を着き始めたという衝撃的な事実とか。
  家長として考えなければならない事が山盛りなのです」

 「千夏お姉さまってこの家の家長だったんだ?」

 「そりゃそうですよ。お母さん死んじゃったんだし。そうなったら私が家長に決まっているでしょう?」

 「血の繋がりで?」

 「まあそういう所ですかね。いくらなんでも元々我が家の家系ではない雪女さんとか黒服さんとかに任せるわけにはいかないのだもの。
  一応、この家は私の財産でもあるし」

 「つまり千夏お姉さまは雪女さんたちに任せちゃったら財産を喰われると思っていたわけですね?
  渡る世間は鬼ばかりだと思っていたのですね?」

 「別にそんなにドロドロになるとは思ってないよ。でも確かに面倒な事にはなりかねないからね」

 「世知辛い世の中ですね……」

 「ちなみに、一番この家の事を任せちゃいけないと思っているのはリーファちゃんですからね。そこんとこ分かっていてください」

 「なんで!? 一体私が何をやったの言うのですか!?」

 「今までのやり放題覚えて無いの!?」

 人は自分にとって都合の悪い事を忘れると言いますけども、ここまで都合よく忘れることが出来たら人生楽なんでしょうね。
 ただしかし迷惑だ。その忘却は。





 「あーあ。じゃあ他の友達とか誘って行こうかなぁ……」

 「リーファちゃんって私たち家族以外の友達居たの……?」

 「居ますよそりゃあ! 千夏お姉さまは私の事なんだと思ってるんですか!!」

 「廃棄処分アサシン」

 「まだ捨てられてはいませんから!!」

 似たようなものだと思うのですけどねぇ。

 「それで、リーファちゃんの友達って誰? どういう人?」

 「ゴルゴ13」

 「えー!? あのゴルゴ13!? 本当に!?」

 「ええ、本当ですよ。マジモンの友達です」

 「何処で知り合ったの!?」

 「ゲーセン」

 「ゲーセン!? ゲームセンターにゴルゴが居たの!?」

 「ガンシューティングやってました」

 「ゴルゴのくせに!? いや、むしろゴルゴだから!!」

 「いやー。アイツとは良い友達ですよ〜」

 「っていうか嘘でしょ」

 「はい」

 あっさり認めちゃったな。この人は。



 「とにかくお金ください。家長さまにお願いいたします」

 「はぁ!? なんでそういう事になるんですか!?」

 「だって花見をするにはお金が必要じゃないですか。そうじゃないと何も食べられない」

 「なんで私が出す事になるんですか!!」

 「だって家長だし」

 「そんなことに払うお金なんて、私は持っていません!!」

 「ケチー」

 「桜の根元に埋めて、花びらを真っ赤に染めたるぞオマエ」

 そういう迷信はあまり信じていないけども。





 3月27日 月曜日 「出所不明のアタッシュケース」

 「……ダメだ。何度計算しても変わらない。ウチって本当にお金無かったんだ……」

 「あらあら千夏さん。何かお困りですかな?」

 「ああ、女神さんですか……。今日はやけに心に余裕がありそうな登場の仕方ですねえ」

 「やっぱりあれですよ。人間、どこかに余裕を持たなくちゃ。そうでないとダメになっちゃいますからね。
  いつ完全にその存在を忘れ去られてしまうのだろうとビクビクしててもしょうがないんですよ」

 女神さんは毎日そんな事を悩んでいたのですか。いろんな意味で可哀想です。
 なんにせよ、その悩みを吹っ切る事が出来て良かったですね。心底可哀想だけど。



 「それで千夏さん。いったい何について悩んでいたんですか?」

 「我が家の家計の事ですよ。もうじき破産申告しなければいけない現実について悩んでいるんです」

 「はーはっは! なんだ! そんな事ですか!!
  ちっさいなぁ千夏さんは!!」

 なんですと?

 「これぐらいの事で悩むだなんて、千夏さんの器はちっさいですねえ! その小ささ、まるでヤクルトの飲み口ぐらいですよ!!」

 「そんな! 一気に飲まれないようにわざと飲み口を小さくしているような奴と同じだなんて!!」

 あまりふざけた事言ってるとぶっ飛ばしますよ?



 「まあ安心してください千夏さん。その悩みは私がどうにかしてあげましょう」

 「女神さんが? なんですか、今の今まで見せてくれた事の無かった神の奇跡でも見せてくれるっていうんですか?」

 「まさにその通り!! 私の起こす奇跡をとくとご覧なさい!!」

 「おお……今日は本当に気味が悪いぐらいハイですね……」

 燃え尽きかけているロウソクの輝きの如く。



 「じゃーん!! 神のアタッシュケース!!」

 「なにそれ!? 全然訳わかんないんですけど!?」

 「さあ千夏さん。このアタッシュケースを開けてみるのです」

 「え? これを? 一体何が入って……」

 女神さんに言われた通りアタッシュケースを開けてみますと、その中にはぎっしりと札束が詰まって…………札束!?

 「な、なんですかこれは!? ざっと見ただけで1億円ぐらいありそうなんですけど!?」

 「ふふふふ……これも全て女神の奇跡という奴です。どうです? すっごいでしょ?」

 「知らなかった。神様の起こす奇跡って、こんなにも現金現金してたものだったとは」

 ここまで俗っぽい奇跡は初めて見ました。




 「でもこのお金は一体どうしたんですか? まさかその奇跡の力とやらで偽造したんじゃないでしょうね?」

 「何をおっしゃるのです千夏さん。そんな事するわけないじゃないですか。これはれっきとした本物なのです」

 「へぇ……そうなんですか。それはそれで不安だったりするんですけど」

 まあ一応貰っておきましょう。あっても困るものじゃないしね。






 「…………時に女神さん。少しばかり尋ねたい事があるのですけど良いですか?」

 「なんです? どんと聞いてくださいな」

 「なんで、このたくさんのお札には所々に赤い沁みがあるのでしょうか? まるで、血液みたいに見えるんですけど?」

 「……なんででしょうねー?」

 お前、どこからこのお金持ってきた?




 3月28日 火曜日 「うろついている人」

 「ねえママ〜……」

 「ん? どうかしたんですか加奈ちゃん?」

 「あのねー、家の周りにねー、怖い人たちがいっぱいいるのー」

 「怖い人たち……? まさか、右とかに偏ってる人たちなんじゃないでしょうね!?」

 「千夏お姉さまが怖い人という部類ですぐに思い浮かぶのが右翼なんですか……」

 近くで私と一緒にゴロゴロしてたリーファちゃんにそう突っ込まれてしまいました。
 だって怖いじゃないですか。

 「その怖い人ってどんな格好してるの? 全身タイツとか?」

 「それは怖いというよりも危険って感じがしますね。というか右翼の次が全身タイツなのか。どういうランキングだ」

 さっきからうるさいですよリーファちゃん。



 「で、怖い人ってどんな人?」

 「んっとねぇ、みんなドスを懐に忍ばせてるのー」

 「うっわぁ……そうですかぁ。そんなヤバイ人が。
  というよりも、加奈ちゃんがドスというやばい言葉を普通に知っていた事がショックですよ」

 「カナ怖いよぉ……。ねぇ、ママ、あの人たちどこかにやって?」

 「そう言われましてもねぇ……。私もさすがにヤクザな人と闘うのは勘弁したいのですけど」

 というかなんで私んちの周りにそういうやっさんたちがうろついているんですか。
 謎すぎます。そして怖すぎます。




 「そうだなぁ……リーファちゃん。あのですね、外に居るヤクザたちを倒しちゃってくださいな。
  暗殺者特有の格闘術とかそういうので」

 「自慢じゃないですけど、私にはそんな技能ありません。武器の力で他人を痛めつける事しか今までやってこなかったですもの」

 ホントに自慢できねぇな。

 「じゃあその武器の力でいいですから、やっちゃってくださいよ。ドババババってさ」

 「私の武器コレクションは全て天日干しにしてあるので今は使えません」

 「布団かよ。お前の武器は」

 役に立たない暗殺者っぷりに磨きがかかってますね。自分の存在についてもうちょっと疑問持った方がいいですよ。






 「でも本当にどうして私たちの家のまわりにヤクザ者なんかが……?」

 「何か心当たりとかありませんか? 例えば、ヤクザの車にぶつかったとか」

 「そんな人身事故するわけないじゃないですか……。っていうかこっちが訴えるよ」

 「じゃあヤクザの金を横取りしたとか」

 「そんな危ない橋を渡ってまでお金を仕入れようなんて思いませんよ。
  まったく。何言ってるのです」

 …………あれ? そういえば昨日女神さんが持ってきてくれたお金は……。




 「…………あは、あはははは……」

 「どうしたんですか千夏お姉さま? 急に笑い出したりなんかして。キモイ」

 まさか、そんな事あるわけないですよね。
 あははは……。







 3月29日 水曜日 「押入れの中のコソコソ話」

 「ねぇ雪女さん……。知ってました? 3月2日って、私の誕生日だったらしいですよ?」

 「そんな大昔の事を今さら言われても困るんですが……。というか、なんでそんな大切な事を忘れていたんですか?」

 「ちょうどその日は旅館ゆきおんなで死闘を繰り広げていましてね」

 「なるほど。それなら綺麗さっぱり忘れ去っても仕方ないですね」

 「そうでしょう? だからですね、今からでもいいんで私の事を祝ってくださいな」

 「おめでとうございます千夏さん」

 うわ。本当にちょっと祝っただけで終わりにしちゃったよ。
 先ほどの言葉には何かプレゼントとかくれても良いですよという隠されたメッセージだったのに。



 「というかですね千夏さん……今は千夏さんの誕生日を祝っている場合じゃないじゃないですか。
  私たちが置かれている状況を分かって言ってるんですか?」

 「もちもち。もちろん分かってますとも」

 「じゃあ聞きますけど、今私たちは何処に居ますか?」

 「家の押入れの中」

 「では何故、この様な所に押し込められているのですか?」

 「外がすっごく危ないから」

 「何故、外が危ないのですか?」

 「どうも女神さんが持ってきてくれたお金がヤクザさんの大切な資金だったらしく、それを取り返しにきた者どもが私たちの家の周りをうろついていて、
  懐に持ったドスやハジキの類を振り回してしたりして、そして時たま銃弾が窓を突き破って家の中に侵入してくるからですか?」

 「大正解!! なんというかコト細やかに説明してくれてありがとうございますと言いたいぐらいの模範解答です!!」

 「わーい。やったぁ」

 「喜んでる場合ですか千夏さん!!」

 大正解って褒めてくれたから喜んだだけなのに。
 それじゃあ子供は良い子に育ちませんよ。




 「はぁ……。でもさ、どうしよっか? この状況」

 「やっぱり警察とかに相談した方がいいんじゃないですかねぇ」

 「アメリカ軍を追い払った家族がヤクザ如きに警察を使うんですか……」

 「餅は餅屋っていうじゃないですか」

 その言い方だと我が家は対アメリカ家庭だという事になってしまいますよ。
 そんなコミュニティを作った覚えは無いですから。

 「それとも、千夏さんはあのヤクザさんたちと正面から戦うこと出来るんですか?」

 「そんなの無理に決まってるじゃないですか。私、人見知りだし」

 「そういう問題じゃないでしょ!! 人見知りだから戦えないなんて話、初めて聞きましたよ!!」

 「シャイなんですよ」

 「その言葉はもはや死語でしょう」

 「じゃあ繊細なのです」

 「それなら仕方ないですね」

 ありゃ。納得してもらっちゃった。



 「本来ならばリーファちゃんとかが暗殺してくれると楽なんですけどねぇ。あの人、武器を天日干ししてるみたいだし」

 「そうですか……。それなら、対ヤクザ用の最終兵器を使うしかないかもしれませんね」

 「最終兵器!? そんなものあったのなら早く使ってくださいよ!!」

 「あまりにも犠牲が大きすぎるので使いたくなかったんですよ……。でも、今の状況では仕方ないかも」

 「あまりにも大きな犠牲って……何?」

 「最終兵器というものが、千夏さんを相手側に差し出そうという事だということなのです」

 「なるほどね。つまり、そんな事を考える雪女さんが私に心底殴られるというリスクがあるのですね?」

 よし。覚悟せえや。




 3月30日 木曜日 「エイプリルフールに備え」

 「千夏さん。じつは折り入ってお話があるのですがいいでしょうか?」

 「……どうしたんですか女神さん?
  あまりの丁寧っぷりに警戒心を掻き立てられまくりなんですけど?」

 「千夏さんにご相談があるのです」

 「私が相談に乗れる事なら構わないですけど。
  例えば、自分が持ってきたお金のせいで家族がヤクザに付け狙われるようになったから、死んでお詫びをしたいとか。
  そういう事なら手伝える事がゴロゴロあります」

 「そういうどうでも良い事じゃなくてですね……」

 「どうでも良い事じゃないよ! 実際私たち困ってるんだから!!」

 「私が千夏さんに相談したいのはですね、明後日の4月1日の事についてなんです」

 「4月1日? その日がどうしたっていうんです?」

 「一年で一番ユーモアのセンスが試される日、つまりエイプリルフールですよ! みなが何か面白い事をしてやろうとやっきになる日なのですよ!!」

 「そこまで追い詰められた感じにエイプリルフールの事を考えた事は無いよ」

 「はあ……私、どうしたら良いんでしょうか? どんな小粋なウソをついてやれば良いんでしょうか?」

 「そんなに苦悩してるならウソなんてつかなければ?
  というかそもそも女神さんに面白い事を期待している人間なんて皆無でしょうし」

 「なるほど。いわゆる逆転の発想ですね?」

 逆転どころか順当な思考発展ですけど。




 「でもダメなんですよ! エイプリルフールから逃げたら!!
  今ここでエイプリルフールから逃げ出しちゃったら、もう二度とウソと向き合えません!! もう、ウソつけなくなっちゃう!!」

 「その方が人間の姿として正しいじゃないか。いい機会だし、真人間になってみたら? 神様として中途半端なんだし。
  しかもついでにキャラとしても中途半端なんだし」

 「何か全人類をパニックに陥れる事の出来るウソは無いですかねぇ……」

 「人の話を聞きなさいよ」

 そしてウソだなんてちんけなもので大きすぎる野望を抱いているんですか。



 「ねぇねぇ千夏さん。何か言い嘘ありませんかね?」

 「女神さんは実は女神じゃなくて、ただのパラサイトシングルとか言ったらどう?」

 ものの見事に信じてもらえると思いますけど。
 というか、パラサイトシングルって言葉は古すぎたか。もう誰も使ってないしね。





 「それ、すっごくいいですね!!」

 「女神さん……例えエイプリルフールであっても、自分に対する誇りぐらいは忘れないでくださいよ……」

 もう可哀想すぎて泣けてくるわ。




 3月31日 金曜日 「イライラしている日」

 「はあ……」

 「あれ? どうしたんですか千夏さん? そんな浮かない顔しちゃって」

 「雪女さん……。あのですね、これを見れば誰だって沈んだ表情しちゃいますよ」

 「これって……骨? 動物のものですかねぇ?」

 「ケンタッキーフライドチキンの食べ残しですよ!! こんなのが私たちの家のポストに放り込まれていたんです!!」

 「それは酷いですねえ。ポストをゴミ箱にするだなんて、決して許されないです。
  いったい誰がこんな事を……」

 「アイツらだ! あの、家の周りをうろついているヤクザどもに違いない!!
  くそうっ! ひまわり組の癖に!!」

 「あのヤクザさんたちってそんな幼稚園チックな組名してたんですか!?
  ダサい! おゆうぎかいという響きくらいダサい!」

 「いや、まあ組名は私が適当につけただけですけど。とにかく、もう我慢の限界です。
  あっちの組に殴り込みに行きましょう!!」

 「ち、千夏さん、どうか落ち着いて。まだ彼らの仕業だと決まったわけではないじゃないですか」

 「こんな嫌がらせするのはヤクザだけだよ!!」

 「えらくみみっちいヤクザですねそれは……」

 そんなものですよ。ヤクザなんてやからは。




 「きーっ!! とにかく許せない!!
  ヤクザたちの家のしょうゆとソースをすべて入れ替えてやりたいぐらい許せない!!」

 「みみっちさでは良い勝負ですよ千夏さん」

 「なんとかしてアイツらを警察に捕まえてもらえないですかね? そうすればいささかこの世の中が平和になるというのに」

 「そうは言ってもですねぇ、何か明確な犯罪行為が行われているわけじゃないんですから……」

 「ぐぬぬぬぬ…………そうだ! 証拠が無ければ作ってしまえば良いのよ!!」

 「なんですかそのパンが無ければ的な発想は」

 「よし! さっそく証拠を偽造しましょうか!!」

 「証拠を偽造って……どんな事やるつもりなんですか?」

 「とりあえず雪女さん扮したヤクザさんが……」

 「私が扮しちゃうんだ?」

 「我が家に不法侵入します。そして私はその一部始終をビデオカメラで撮りまして、腰ばかり重い警察に突きつけてやります」

 「へぇ。そんな事を」

 「そして、雪女さん扮したヤクザは見事逮捕。めでたしめでたしです」

 「どこがですか!? 何故か知らないけど、私が逮捕されちゃってるじゃない!!」

 「そういえばそうでしたね。
  じゃあ雪女さん扮したヤクザが捕まるのではなく、ヤクザ扮した雪女さんが捕まるというシナリオでいきましょう」

 「ヤクザさんは私のコスプレなんてしてくれないと思います」

 それもそうっすね。




 4月1日 土曜日 「エイプリルフール」

 「もぐもぐもぐ……雪女さん。そこのソースとってください」

 「はいどうぞ。実はこの瓶の中に入っているものはしょうゆですけど」

 「本当ですか?」

 「いいえ。ウソです」

 「そうっすか。それにしても、このトンカツ、すっごく美味しいですね。箸が進んで止まりません」

 「本当ですか? いやぁ、今日はちょっと失敗しちゃったかと思ったんですけど、口に合って良かったですよ」

 「まあウソなんですけどね」

 「そうですか。
  …………そういえば、最近千夏さん、めっきり可愛くなってきましたね」

 「え? 本当ですか!? いやぁ、面と向かってそう言われると困るなぁ」

 「ウソですけど」

 「そうっすか。そう言えば、さっき言いそびれていたのですけども、雪女さんのトンカツ、一切れもらいましたよ」

 「ウソですよね?」

 「これは本当です」

 「千夏さん!! 何してくれてるんですか!! トンカツ不味かったのでしょう!?」

 「不味かったわけじゃないですよ。ただ、美味しくなかっただけです」

 「そんな酷い事いうなら食べるなよ!!」

 「うっせー!! 何を食べようが食べまいが、私の勝手でしょうが!!」

 「それを作ったのは私です!! その料理について何か制限させるぐらいの権利ぐらいくれていいじゃないか!!」

 「あーもうっ!! ムカつくなぁこの人は!!」

 「私だって同じ気持ちですよ!! 朝からくだらないウソばかりついて!!
  なんですか今日一番初めのウソ!? 『太陽が引き篭もったので朝が来ない』って!! ロマンティックのかけらもない!!」

 「ウソなんかにロマンティック求めるなよ!! 所詮ウソなんだし!!」

 「それだけじゃないですよ!! 今日一日中事あるごとにウソついて!!」

 「雪女さんだって同じじゃん!! キーッ!!」

 「ムガーッ!!!」





 「ち、千夏お姉さま……雪女さん……なんか、怖いですよ」

 みなさんも、ウソの吐き過ぎによる人間関係の崩壊には気をつけましょう。










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