7月25日 日曜日 「ガマン大会」

 

 「え〜、本日は町内会主催『ギリギリ決死のガマン大会』
  に参加いただきまことにありがとうございます」

 「ねえお母さん……なんで私たちがこんなものに出なくちゃいけないの?」

 「それはね……」

 「皆さん、優勝賞金のために死ぬ気で頑張ってください」

 ああ、なるほどね。
 やっぱりお金目当てですか。


 しかしガマン大会だなんて……よくこんなロクでもない企画を考えつきますね。
 うちの町内会は。


 「千夏!! 頑張ってガマンしましょうね!!」

 ガマンって頑張るものなんですかね?


 「辛くなったらすぐにギブアップしますからね!?」

 「ネイバー・ギブソンよ!!」

 「ネバーギブアップでしょ!?
  誰ですかネイバー・キブソンって外国人は!!」


 そんなこんなでガマン大会が始まりました。
 私を含めた参加者たちが、広場に作られたステージ上に立たされます。


 「第一予選は『ギリギリ、チラリズムガマン』で〜す!!」

 は? チラリズム?

 

 「この競技は衣服を端から切り刻んでいき、
  恥ずかしさに耐えきれなくなるまでステージ上に立ちつづけるという……」

 オイオイオイ
 こんな昼間っからなんてマニアックなプレイをしようとしてるんですか。


 「えっと、ギブアップ〜」

 当然ですが即決です。


 「千夏さん!!
  まだ始まってもいないですよ!?」

 知ったことかい。

 「それに千夏さんが参加してくれないと困ります!!」

 町内会の役員らしいお兄さんが真剣な顔で説得してきます。

 「別にいいじゃないですか!!
  私一人くらい抜けたって!!」

 「今回のガマン大会の参加者で、小学生はあなただけなんですよ!?」

 「それがどうしたんですか……」

 「つまりですね。
  あなたの裸にはものすごい需要が……」

 それでは、帰らせてもらいます。

 


 二時間後お母さんは優勝賞金の10万円をひっさげて家に帰ってきました。
 話を聞いてみると、暑かったり寒かったり痛かったり、
 大変だったみたいです。
 でも私が一番気になってるのは

 第一回戦。
 どこまでガマンし続けたの?
 洋服を全部新調してるのが気になるんですけど。

 

 

 7月26日 月曜日 「誰か心を潤して……」


 「あ〜、もう本当に暑いなぁ……」

 最近同じようなことしか言っていない気がしますが、
 仕方のないことだと思います。


 夏休みということもあり暇だったので、
 今日は近所を散歩することにしました。

 で、家を出て五分で後悔。
 夏の日差しにノックアウトです。


 「うう……ジュースでも買おう」

 丁度目の前に飲み物の自動販売機があったので、
 なけなしのお小遣いを使って喉を潤すことにします。


 「えっと、レモンティーがいいかな」

 自動販売機にお金を入れ、お目当てのレモンティーのボタンを押します。


 ガタン。
 そんな音を立てて出てきたのは


 6月3日の日記で紹介した、
 『五月雨ミルクティー』でした。

 嫌がらせにも限度があります。


 喉を潤すどころか、
 心が乾いていくであろうこの飲み物を手にした私は、
 軽い絶望感に包まれながら近くにあった木陰へと移動します。


 「何も無いよりはマシかな……?」

 プルタブを開け、意を決して缶を口に当てます。

 「いただきま……」

 


 「うげー」

 食事中の皆様、失礼をお許しください。


 無駄に粘り気と生臭さ溢れる液体は、
 私の舌に触れると同時に、脳に絶望の二文字を叩き込みます。
 死ぬ。
 これは死んでしまう不味さです。


 「い、いったい……どんな材料使えばこんな味が……」

 薄れいく意識の中、五月雨ミルクティーの缶にプリントされている
 原材料名を見てみます。

 『愛50%』


 ……某頭痛薬みたいなこと抜かしやがって。
 しかしアレですね。
 愛が生臭いっていうのもどこか的を得ていますね。

 

 「それじゃ残りの50%は……」


 『忠誠心50%』


 ……質量があるものが見当たらないんですけど。
 私は一体何を飲んだんですか?


 

 7月27日 火曜日 「本当にいたのか妹よ」

 

 「ふははははは!!!!
  会いたかったわ千夏!!」

 散歩していた私に、
 日常生活では滅多に使われることのないセリフがかけられます。


 「え!? な、なに!?」

 突然の出来事に慌てながらも声の主を探します。


 「どこを見ている!!
  ここよ!!」


 そう聞こえてきた方向は私の上。
 見上げてみると電信柱の上に立っている私と同い年くらいの少女。


 ……間違いなく、まともな頭の持ち主じゃありません。

 


 「あの〜……どちら様ですか?」

 「私の名前は『リーファ』
  あなたの妹よ」

 「妹!?」

 いつぞやのお母さんの妄言が思い出されます。
 ただの妄想じゃなかったんだ……


 「妹と言っても兄弟機という意味でだがな」

 兄弟機?
 つまり彼女もロボットってことなんでしょうか?

 「もしかしてあなたも性的愛が……」

 「それを言うなぁ!!」

 受け入れられない気持ちはすごく分かります。

 

 「とにかく!!
  私と勝負しろ千夏!!」

 「なにがとにかくなんですか!!
  訳が分かりませんよ!!」

 「おまえと私。
  どっちのほうが優れた機体であるのかはっきりさせるためよ!!」

 「え……どっちが優れた性的愛玩用か決めるんですか?
  私、棄権しますので
  どうぞあなたが世界一の性的愛玩用のロボットとして君臨してください」

 「違う!! そういうのを決めたいんじゃない!!
  ただ世界初の完全義体としてのプライドが……」


 「分かりましたから早く勝負しましょう。
  見たいテレビが始まっちゃうんで」

 「ああ、もう調子狂うな!!」

 自称妹のリーファちゃんがヒステリックに頭を掻きむしります。
 怒ると体に毒ですよ?

 

 「それじゃ勝負の方法だか……」

 「どっちがより感度がいいかとか?」

 「そっちの方向から離れろバカ!!」

 喋り方には刺がありますが、
 真っ赤になってるリーファちゃんがかわいいです。

 ウブですねぇ。
 ……こういう話に慣れている私は何なんでしょうね。


 「勝負方法はルール無用のデスマッチ!!
  いくぞ千夏!!」

 そう言って私に殴りかかってきました。
 メリケンサック付きの拳で。

 前言を撤回します。
 全然かわいくありません。


 「うわぁ!!
  ちょっとタイム!!」

 「うるさい!!
  早く反撃してみろ!!」

 そんなこと言われたって、
 今の私には頭部狙いの殺意まんまん攻撃をかわすことしかできません。


 「うわぁ!!」

 こめかみにリーファちゃんの拳がかすります。
 もうなんて言うかすごいピンチ。

 「ロ、ロボットは人間に攻撃しちゃいダメなんじゃないの!?」

 「なに言ってる!!
  お前はロボットだろうが!!」

 ああ、確かに。
 あれ……ということは私も攻撃できる?


 「これで終わり……」

 「空舞破天流奥義……BREAK・break・DEATH・dance!!」


 「ひでぶ!!」

 リーファちゃんは私の攻撃を受けて砕け散りました。

 完全勝利です。
 っていうか奥義が役に立って良かった。

 

 7月28日 水曜日 「姉と妹と」


 「千夏お姉さま!!」

 つい先日私の命を狙っていた刺客の声が聞こえます。
 私の手でしっかりとバラバラにしたはずなんだけど……。


 「千夏お姉さま!!
  なんで無視するの!?」

 それはね、関わるとロクでもないことになると分かっているからだよ?

 なんて童話『赤ずきんちゃん』のおばあさんに化けた狼のごとく言えるわけもなく、
 さっきから話しかけてくる自称妹の方へ体を向けます。


 「こんにちはリーファちゃん。
  身体の調子はいかが?」

 少しばかり皮肉が入ってます。


 「敵であった私の心配をしてくれるなんて
  ……千夏お姉さまはなんて心優しいの!!」


 ……あれ?
 なんかキャラが違うんじゃありません?


 「ね、ねえ……本当に大丈夫なの?」

 脳にまでダメージがいってしまったんでしょうか。


 「お姉さま、私は改心しましたの」

 っていうかお姉さまってやめろ。


 「お姉さまと拳を交えて、
  私はお姉さまの偉大さを知ることが出来ました」

 私は命の大切さを学びましたけど。

 「だから一度死んだ私は、
  これからは偉大な千夏お姉さまのために生きていくことに決めたんです!!」

 「えっとそんなの迷惑……」

 「粉骨砕身頑張りますので!!」

 一度本当に砕けてるじゃないですか。


 無駄に熱い想いに負けて
 しかたなくリーファちゃんを妹として迎え入れることになりました。


 「ここが千夏お姉さまの家なんですね!!」

 「どうでもいいけどさ、
  その媚び媚びのオーバーリアクションは結構ムカつくんですけど」


 「ふふふ……敵地潜入完了」

 「え!? 今なんて……」

 「なんでも無いですよぉ
  千夏お姉さまぁ」


 ……寝首かかれないようにしなきゃ。

 7月29日 木曜日 「妹と朝の目覚めと」

 

 「おはようリーファちゃん」

 「おはようございます。
  千夏お姉さま」

 今日もすがすがしい朝を迎えることが出来ました。


 「ところでリーファちゃん、
  ちょっと質問があるんだけどいいかな?」

 「なんですかお姉さま?」

 「なんで、リーファちゃんが私のベッドに潜り込んで、
  私と一緒に寝てるのかな?」

 「姉妹のスキンシップです」

 「そっか」

 「そうです」

 

 「それじぁさ」

 「なんですか?」

 「なんでリーファちゃんは日本刀なんて物騒な物を持っているのかな?」

 「これ、私にとってはぬいぐるみみたいな物なんです。
  これが無いと寝れなくて……」

 「そっか」

 「そうです」

 


 「最後の質問なんだけどさ」

 「なんですか?」

 「なんで、私の両手足は鎖で縛られてるのかな?」

 「それは私がお姉さまがぐっすり寝られるように
  『束縛式安眠法』という物を試させてさしあげたんです」

 「そっか」

 「そうです」

 「……」

 「……」

 「ウサギさ〜ん!!!!」

 「ちっ!! しくじった!!」


 リーファちゃんは部屋の窓を体でぶちやぶって逃げていきました。
 後で問いつめたら『寝ぼけてたので覚えていない』とのこと。

 ……防犯装置、部屋につけないとなぁ。

 

 7月30日 金曜日 「ハトを統べる者」


 「日本で一番数の多い鳥はハトだと思うんだ」

 「私はカラスかと思うんですけど」

 えっと、なぜ私がこんなどうでもいい議論を空き地で、
 黒服なんかとしているのかといいますと
 ……あれ?
 どうしてこんな話になったんだっけ?

 たまにありますよねこういうこと。

 

 「とにかく、ハトを操ることが出来るということは、
  日本の空を支配できるということと、
  同意義と言っても過言ではないんだ」

 過言だと思います。


 「そこで『ハト操縦機』なるものを開発しました」

 「機械の説明を聞かなくても十分理解できる、
  ユーザーフレンドリーなネーミングですね」


 「これで手紙を切手代無しで送り放題」

 日本の空を支配したあかつきが切手代タダかよ。
 随分としみったれてますね。


 「ムカつく人の頭にフンを落とすことも可能」

 陰険だなあ……。

 「ゲゲゲの鬼太郎のように鳥を束ねて飛ぶことだって……」

 あ、それは面白そう。


 「それでは早速試運転を……」

 そう言って黒服がハト操縦機のボタンを押すと、
 わらわらとハトが集まってきます。
 落ちているお菓子にたかる蟻のように。

 ……気味悪いことこの上ないです。

 

 「どう……カブッ、千夏ゲフン!! すごいだ……ガヒュン!!」

 私の目の前に、世にも珍しい、
 人がハトに溺れるという光景が広がっています。
 これはもう写真にでも収めないと。


 「黒服さ〜ん。
  1+1は〜?」


 「……」

 ハトの山から声が聞こえなくなりましたが、
 たいして気にすることなくシャッターを切ります。


 「あ、見たいテレビが始まっちゃう!!
  もう帰らなくちゃ!!」

 「……」

 「それじゃ、バイバイ〜」

 「……」


 私は黒服とロリコンには冷たいんです。


 

 7月31日 土曜日 「愛の手料理」


おちおちご飯も食べれません。

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