<とある魔術師>


 私はこの屋敷から見ることが出来る風景が好きだった。丘の上の屋敷という少し上からの視線で見る街や森は、なんだか絵画のような印象を受ける。赤や青などの瓦を屋根にしている家々が、色彩に幅を出している。夏の日差しに彩られるこの光景を額に入れて飾りたいものだ。そうしてリビングにでも飾れば、素晴らしいインテリアになるな。
 私はそんな芸術品と思える風景から目を離して、家の中を眺めた。そこには1人の少年がいた。少し、その少年と関わりあいを持ちたくなってしまった。

「1つだけ魔法が使えるとしたら、どんな魔法を使いたい?」
「え? 魔法?」
 目の前の少年は、読んでいた本から私に視線を変更した。床に座っていた彼と、部屋にある唯一の窓枠に腰掛けていた私の位置関係から、彼の見上げる顔を見ることができた。
 うむ。なんというか、すごく可愛いな。
「ちなみにここでいう魔法とは、私が使っているような魔術の類ではない。一個のファイアーボールを放つのに30時間の準備が必要だったり、限定結界内でなければ物理法則を無視して空を飛べないような、融通の利かない夢の無い力のことじゃない。
 ドラえもんの道具のような、そういう奇跡の力だ。夢を叶えられる、そういう力だ。そんな力を手に入れることができるとしたら、どんな力を君は望むかね?」
「う〜ん、う〜んとね」
 私の目の前で必死に悩む少年。うんうん。こういう姿が見たくてこんな質問をしたのだ。結果通りになって満足だよ。
 愛しの少年は答えを見つけたらしく、向日葵の様な屈託の無い笑顔を向けた。
「ぼくはね、ぼくは……」



「お師匠様と、ずっと一緒に居れる魔法がいいな」





「というのが彼の初めてのプロポーズで……」
「言ってないです。そんな臭いセリフ、言った覚えないです」
 いい気分で過去の回想に浸っていた私に、弟子が水を差してきた。10年も経てば、こんなに反抗的になるのか。
 彼は寝巻きを着て、右手に歯ブラシ、そして左手に水の入ったコップを持っていた。歯磨きしながら歩き回るなとあんなに言ったのに。
「朝っぱらから変な妄想するの止めてくれませんかね? 精神衛生上、すごくよくないので」
「こらこら。歯磨きしながら喋るな。泡が飛ぶだろうが。掃除するのは私なんだぞ? さっさとうがいして着替えて、朝食を食べてくれ。お前とルナが食べてくれないと、私の家事はどうにもこうにも進まないんでね」
「あーそうですか。分かりましたよ」
 よほど私の回想が恥ずかしかったのか、耳を紅くしながら自室に戻っていく弟子。そんな光景を見れたので、まあ反抗的な所もいいかもしれない。可愛い弟子は宝だな。
 私は回想と同じ様に、窓枠に座って外の風景を眺めていた。風景は以前とはまったく違う。視線は下がり、近くの高校への通学路とそれに沿う住宅の壁ぐらいしか見えない。住居が密集した、いかにも日本の街だった。
 でもそんな場所であるにも関わらず、私は以前と同様、この光景を絵にしたいと思っている。何の面白みも無い、芸術の要素がまったく感じられない街並みだと言うのに。
 そこで私は気付いた。私が私を取り巻く日常の風景を美しいと感じていたのは、その日常を愛しく思っていたからではないだろうか。それならば、納得がいくし、何よりそう思う原因が明確で笑えるものだった。
「ふふ……少年。これからも私の日常を彩ってくれよ。お前がいないと、どうにも面白くない」
 私は自分の弟子に、心の底から感謝した。


 </とある魔術師>


***

序章 『魔術師の弟子と彼の日常』

***


 <魔術師の弟子>


 『超常現象究明同好会』
 僕は、こんなふざけた名前のサークルはマンガやアニメでしか見たことがなかった。とりあえず、貴重な学生時代を消費してまで入る部活ではないことは確かだった。
 そもそも超常現象を究明するって、具体的に何するんだ。ビッグフットとかネッシーとか宇宙人とか、そういうのを探し回るのか? 放課後になったら、変な電波を受信しちゃう如何わしいレーダー装置なんか担いじゃって、近所の裏山なんかに繰り出すんですか? それらの質問をその同好会のメンバーに投げかけると、イエスとしか返ってこない。そう、本当にやってのけてるのだ。
 こんなサークルの存在を許している学校はどれだけおおらかなんだろうとも思った。ゆとり教育か。これはゆとり教育なのか。
 入学した当初。校内に存在している部活の一覧表に驚いたことが今でも懐かしい。こんな怪しげな名称、普通の感性ではつけない。誰も入部するわけないじゃないか。
 そう思っていた僕なんだけど……部活紹介が行われた生徒集会の15分後、入部届けを出しました。理由は……その、あまり聞かないでほしい。
 こうして、超常現象究明同好会に入部する『魔術師の卵』というとても面白い構図が出来上がってしまったのだった。


 私立盛稜高校。私立という名の割には自由でいい加減な校風が売りで、一般家庭から上流階級のお坊ちゃままで通っている、何かと幅が広い学校だった。ここが僕の通う学校で、件の超常現象究明同好会がある場所でもある。
 超常現象究明同好会の部室は結構いい場所を使っている。以前は理科室として使われていた教室を、どういう権力を使ったのか再利用していた。教室にはいくつもの木製の本棚が置かれ、本棚の中にはぎっしりと厚い書物が詰められている。その書物の背表紙に、『実録! 宇宙人との会談!!』『UMA(未確認生物)大解剖図鑑』なんて文字が記されているものだから手に負えない。なんていうかこの手の本は、本自身からも変なオーラが漂っている気がする。それは主観の問題でしょうか?
「天路くん」
 天路(あまじ)というのは僕の名字である。つまり、どこから持ってきたのか分からない社長机(なんだか無駄に豪華そうな黒色の木製の机)に右ひじをつき、社長椅子(これまた無駄に豪華そうな黒革の椅子)に深く腰掛けて、先ほど記述した怪しい本を読んでいた女性は、僕の名を呼んでいることになる。
「天路くん」
「……」
「……天路くん? もしかして、幽体離脱でもしているのかい?」
「いえ、先輩に見惚れてました……って違います!! 見惚れてなんていません!!」
 やっべえ。ボーっとしていたものだからちらりと本音が放流されてしまったじゃないか。慌てて訂正したものだけど、社長椅子に座っていた先輩はそんな僕を見て笑っていた。うう……すごく恥ずかしい。
「そう。それは嬉しいのだけど、私の話を聞いてくれないかね?」
「は、はい……」
 プチ告白になんのリアクションも示してくれなかったので、少しだけショックだった。多分、今のまま告白したとしてもこんな風に微笑まれるだけで、OKなんてもらえないんだろうなぁ。
 あ、今ので気付いたと思うけど、僕がこの超常現象究明同好会に入部したのは、この先輩が理由です。ええ、色恋沙汰ですよ。若気の至りですよ。
 白亜静流(はくあ・しずる)。このヘンテコサークル超常現象究明同好会の会長で、学校一の変人と言われている人。そして同時に学校一の美人だとも言われている人。成績優秀で趣味のピアノはプロレベルで、長い髪の毛はまるでモデルさんのように美しかった。僕にとっては高嶺の花で、遠くから見ていることしか出来ないような人だった。
 でも、そんな倍率の高そうな先輩だったけども、幸か不幸か先輩は他人から引かれるような変人だった。おかげさまでこんなにも簡単に僕は先輩の側に居られる。それはとても嬉しいことだ。先輩は確かに変な人だけど、魔術を学んでいる僕にとっては、大して気にならない。今まで出会ってきた魔術師に比べれば、先輩なんて常人レベルを超えてはいない。こういう時は魔術を勉強していて良かったなと心底思うよ。
 あ、ちなみに先輩には僕が魔術師の弟子だと言う事は言ってない。先輩だけじゃなくて、ほとんど誰にも知らせてないのだけど。
 魔術とは秘密であるからこそ魔術として成り立つ。そう僕の師匠は語ったことがある。いまだにその意味はよく分からないけど、師匠の教えに背く気はない。怒るとすごく怖いから。
 魔術師は掟と義理を何よりも重んじるらしい。だから、他の魔術師も皆その掟を守っている。無法者に見えて、その実すごく縛られている存在なのだ。何となく、ヤクザっぽいと思ってしまった事があった。
 そんな思考に耽っていると、社長椅子に座っていた僕の想い人もとい先輩はその手に持っていた分厚い本を机に置き、僕を見据えた。切れ長で綺麗な目に見つめられると、どうにも緊張してしまう。この超常現象究明同好会に入って2ヶ月ぐらい経つというのに、まだ慣れないんだよね。多分、いつまで経っても慣れることはないと思うのだけど。
「天路くん。次の日曜日に何か予定あるかい?」
「よ、予定!? ありません!! ガラ空きです!!」
 本当は何か予定があったのかも知れないけれど、そんなこと考える暇もなく僕の口はそんな言葉を吐いていた。すごい処理速度だ。脳を通していないのがすごく気になるけれど。
 それにしても信じられない。先輩からこういった風に誘ってくれるなんて。これってデートだよね? 男女が和気あいあいと連れ立って歩く、デートなんですよね? ああ、なんて幸せなんでしょうか。まるで夢のようです。えっと、デートには何を着ていけばいいのだろうか。てへ、まるで女の子みたいなこと言っちゃった♪
「日曜日にね、ツチノコを捕まえに行こうと思っているのだけど、君も一緒に来るかい?」
「―――え?」
 ……ツチノコですって奥さん。蛇みたいで、ビール瓶みたいなずんぐりむっくりな胴をしていて、2mジャンプするって言われていて。どっかでは2億円の懸賞金が掛けられている、日本を代表するUMA(未確認生物)を探しに行くんですって。ちなみにツチノコの外見的症状に妙に詳しいのは、この部室の中にある本を読んだことがあるからです。すごく、悲しい知識です。
「どうかね? 一緒に行かないかい?」
「え、え〜っとですね」
 ……そ、そうだよ。いくら先輩でも、いきなりツチノコを探しに行こうなんて言うわけないじゃないか。常識を考えてよ。きっと蜂の子を探しに行こうって言ったんだ。珍味と称される蜂の子。それなら探しに行こうって言うのも理解できる。きっと先輩は蜂の子が大好物なんだな。蜂の幼虫を貪り食う先輩なんて想像したくないけど、きっとそうに違いない。
「は、蜂の子ですか?」
「いや、ツチノコだ」
 先輩は僕の淡い期待をあっさりと裏切った。落としたコンタクトレンズをその足で踏まれたのごとく裏切られた感があった。
 さて、先輩と共に出かけられることは嬉しいけども、ツチノコ探しなんてろくなことにならないのは目に見えている。前回のスカイフィッシュ探しは三日間山に篭りっきりになったし。ここはやっぱり断った方が……。
「駄目かい……?」
「いいですよ。行きましょう」
 断れなかった。先輩が少し俯いて顔に影を落としただけで僕の心は悲鳴を上げるのだ。始めから選択肢がなかった気がするけど、僕の日曜日の予定が今決定しました。


「こんにちは〜♪ あ、姫ちゃんだ!!」
 能天気でどこか抜けている声が超常現象究明同好会の部室に響く。入り口を見るとそこには盛稜高校の制服を着た少女がいた。
 男子の中でも背の低い方の僕と同じくらいの背丈で、どこか垢抜けしてない可愛らしい顔。肩までの茶色い髪。そして頭のてっぺんから重力に逆らって生えているアホ毛。その特徴を持つアンテナ少女は、僕と同じ超常現象究明同好会のメンバーで、名前を森野沙智子(もりの・さちこ)という。あだ名はさっちん。僕もそう呼んでいる。
「姫ちゃ〜ん♪ 松平さん、直してくれた?」
 彼女が言う姫ちゃんというのは、実の所僕の名前だったりする。天路姫斗(あまじ・ひめと)、それが僕の名前。なんていうか女々しい名前で、僕の背が伸びないのはその名前のせいじゃないかと思うことがしばしばある。でも嫌いではない。両親が僕に遺してくれた唯一のものだから。
 で、松平さんというのはさっちんのテディベアのことである。僕はそのテディベアの松平さんを修理するように頼まれたのだ。それにしても松平さんとはすごいネーミングセンスだと思う。名前の由来を聞くと、松平健に似ているからだそうだ。すごいよさっちん。
 僕の趣味は魔術と、人形作りだった。球体関節の人形から極限まで人に似せた人形まで、人の形をしたものを作るのが得意だった。それの応用で、ぬいぐるみぐらい簡単に作れる。手芸部に誘われるぐらい、すごい腕なんだから。さっちんのように、人形やぬいぐるみの修理を頼まれることがたびたびあった。
「はい、さっちん。どうぞ」
 僕は自分の鞄から昨日の内に修理しておいた松平さんを取り出してさっちんに渡した。さっちんは松平さんを愛しげに抱きしめる。
「ありがとう。本当に嬉しいよ」
 こんなに喜んでもらえるとこっちまで嬉しくなる。彼女のにこやかな笑みにつられて僕まで笑顔になってしまった。
「森野さん。次の日曜日空いてるかい?」
「え? 次の日曜日ですか?」
 相変わらず本を読んでいた先輩がさっちんにそんなことを聞く。……なんだか嫌な予感がしますよ?
「空いてますけど?」
「そうかい。それじゃあ私たちとツチノコを探しに行かないかい?」
 ……ああ、やっぱり。
「私たち?」
「天路くんも一緒に行くことになってるんだ」
「そうなんですか。じゃあご一緒させてください♪」
 例えツチノコ狩りだったとしても、先輩と2人きりだという事実は変わらなかったのに、それすらも消えてしまいました。悲しいけど、さっちんに罪はありません。文句を言うのはお門違いです。……でも、もうちょっと気を使ってくれたらなあ。


「えっと、それじゃあ部員も揃ったし、今日の活動について話したいと思うのだが……」
 先輩が社長机に肘をつき、僕らに向かって話し始める。先輩が言ったとおり、超常現象究明同好会は僕と先輩とさっちんしかメンバーがいない。幽霊部員は5名ほど居るので、部活としては何の問題もなく存続出来ている。部活として認められる人数が5名なので、同好会なんて名乗らずに超常現象究明『部』と名称を改めればいいのに、それをしていない。先輩に理由を尋ねると、「同好会の方がそれっぽいから」らしいです。なんとも先輩らしい答えだった。
 さて、超常現象究明同好会の活動予定を先輩が話していると、急に部室のドアが開いた。そして、甘ったるい声が響き渡る。
「姫斗ちゃ〜ん♪ 会いたかった〜ん♪」
 その甘ったるい声の持ち主は、入室と同時に僕に抱きついてきた。水風船のような感触が僕の背中に押し付けられる。これはその……胸です。
「なっ、なにしてんだよ!! おかん!!」
 そう、僕のお母さんだった。一応、そういうことになっている。
「っていうかなんで学校に来てるのさ!?」
「姫斗ちゃんに会いたくなっちゃって、ついつい来ちゃいました。てへ♪」
 どう見たって20代中盤にしか見えないお母さん。背が高くて胸が大きくて。どこかのグラビアアイドルに見える彼女は、何故か学校によく来て僕の周りに妙な噂を生み出す原因となっている。その噂によると僕には年上の彼女がいて、いかがわしい宿泊施設に彼女と泊まることがよくあるらしい。誰が、自分の母親と怪しいホテルに泊まるものか。
「ねえねえ、今日の夕食は何がいい? コロッケ? ハンバーグ? それとも……私?」
「どっちでもいいよ!! お母さん以外は!! っていうかそんなことでいちいち学校に来るなよ!!」
「ひ、酷いわ姫斗ちゃん……。お母さんはこんなにもあなたのことを想っているのに……」
 わざとらしくよろけてよよよと泣くお母さん。さっちんはその演技を真に受けたのか、お母さんの背中をさすって慰めている。お願いだから、騙されないで欲しい。
「お兄ちゃ〜ん♪ あ、ママもいるー♪」
 今度はなにやら幼い声が。えっと、説明しますと、今部室に入ってきたツインテール小学生は、僕の妹です。
「ル、ルナ? どうしたんだい? なんでこんな所に……」
「えっとね、お兄ちゃんの所に遊びに行こうと思ったらね、お母さんの車が駐車場にあるのを見つけたの♪」
 そう言って僕に抱きついてくるルナという名の妹。なんで僕らの家族はこうもスキンシップが過剰なんだろうか?
 先輩の方に目を向けると、僕らの方を見てニヤニヤしていた。母や妹が訪ねてくるということは日常茶飯事なのでまったくと言っていいほど驚いてない。でも、こちらからしてみるとすごく恥ずかしい。
「あ、あの、先輩……」
「いやいや、気にしないで続けたまえ。素晴らしい家族愛は見ていてとても楽しいよ」
 その楽しいって感情は、コントを見ている感情と同じものなんじゃないでしょうね?
「え〜っと、白亜さん?」
「はい、なんですか姫斗くんのお母さん」
 いつの間にか泣きの演技を止めていたお母さんが先輩に話しかける。
「姫斗、今日は借りていっていいかしら? これからデートに行きたいのだけど」
 え? 借りていくって……。
「ええ、いいですよ。どうぞ思う存分家族の団欒を楽しんでいってください」
「先輩!?」
 酷いですよ。少しは引き止めてくださいよ。
「ルナも行くー♪」
「ええ、いいわよ。それじゃあ失礼いたしますね」
 ガシっと僕の腕をつかんで教室のドアへと引きずって行くお母さん。なんでそんなに力強いんですか。
「ちょ、ちょっと!! 僕は超常現象究明同好会の活動が……」
「いや、今日はそんなにすることがないから早退しても構わないよ」
 送り出すようなこと言わないでくださいよ先輩!!
「それじゃあね、白亜さんに森野さん」
「行ってきますー♪」
「ええ、いってらっしゃい。お三方」
「またね〜、姫ちゃん」
 ……みんな酷いです。







 お母さんの乗ってきた軽自動車の後部座席に詰め込まれる僕。隣にはルナが座ってきた。少しふてくされながらも、運転席に居るお母さんに話しかける。
「で、今日は一体どんな用なんですか?」
 家族だけの時は、僕はお母さんに対して敬語だった。お母さんは止めてくれと言うのだけど、僕はどうしてもこの性質を改める事は出来なかった。尊敬できる人間には、自然と敬語が出てしまうものなのだ。
「そんなにふてくされるな。急にお前の力が必要になったんだ。埋め合わせはいつかする」
 みんなの前とはまったく違う話し方をするお母さん。だってこの人は僕の本当の母親ではないから。この人は本当は……
「僕の力が必要って……『師匠』では、どうにもならないんですか?」
 お母さんは、彼女は、僕の魔術の師匠だった。

 さっきまで優しげだった瞳は細められ、厳しいそれに変わる。こうも雰囲気が変わってしまうと、少し戸惑ってしまう。
「とある魔術師がね、実験に失敗したんだ」
「で、それの尻拭いをさせられるんですね?」
 信号待ちをしている車内で今回の騒動について説明される。あまり乗り気ではない。
「まあそう言うな。魔術師は掟と義理を重んじる人種だ。ここで恩を売っておけば、いつか倍になって返ってくる。安い投資だと思ってくれ」
「さっきも言いましたけど、師匠じゃどうにもならないんですか?」
「私は学者だよ? 『殺す』ことに関しては、弟子のお前の方がよっぽど役に立つ」
「殺す、ですか……」
 あまりいい響きではないよ。
「っていうことは、僕の『傀儡』は持ってきてるんですね?」
「ああ、トランクに『ダイス』を入れている」
「また勝手に持ち出して……」
 僕は頭を抱えた。この師匠は、無茶苦茶すぎる。
「いざとなればルナも使え」
 師匠はバックミラーごしの瞳で妹の方を見た。彼女は車窓の向こうに流れて行く景色を見ていた。こうしてると普通の女の子にしか見えないけれど……。
「分かりました。頑張ります」
「ああ、頼むぞ。お礼はたっぷりと弾んでやるからな」
 そんなこと言うんだから、本当にたっぷりお礼してもらおうと思う。僕の好物ぐらいご馳走してもらわなきゃ、割に合わない。
 そんなことを考えている僕を乗せた車は、目的地へと着実に進んでいった。



 僕たちの手を煩わせることになった魔術師の工房は、何の変哲もない都内のビルだった。魔術師の工房と言えば、人が入り込む余地のない山奥にあるとか、古い屋敷だとかそういうイメージがあったのだけど、目の前のビルはまったく違う。築5年らしいその建物は灰色に照り輝く外壁をした6階建ての立派なビルだった。大通りに面していて、どこかの会社がスペースを借りていてもおかしくはない。こんな所で実験して、一般社会に影響は出ないのだろうか?
「普通のビルに見えるけどね、張られている結界はきちんとしたものだよ。一般人が迷い込まないように。中の魔術が漏れ出さないように。そういう所はきちんと造られている。工房としては一級品だな」
「そんな工房を使っている魔術師でも失敗するんですね」
「まあね。新しい物を作り出そうとすると高いリスクが付きまとうのさ。それこそ年季の入った魔術師でも、左腕と胃腸を喰われることぐらいのリスクをね」
 ……どうやらこんなことをさせられる原因を作り出した魔術師は、左腕と胃腸を喰われたらしい。僕は何と戦わなければいけないのか。
「大丈夫。もう治療は済んでいて元気だよ」
 そういうことを心配していたわけじゃないんだけど。

 ビルにある地下駐車場に車を駐車し、僕たちはコンクリートの壁で囲まれた空間へと降り立つ。蛍光灯で照らされる壁や地面は、鈍い色に染まっていた。張り巡らされている魔力のラインのせいか、少し圧迫感を感じる。工房としては一流かもしれないけれど、住処としては三流なんじゃないだろうか。
「敵は先ほども話した通り合成獣……キメラだ。普通のキメラなら何の問題もないのだが、なんでも霊体との融合を実験したらしくてね」
「それは成功したんですか?」
「ああ。『目には見えないが、殺せる腕』を持ってるらしい」
 これは本当に大変そうじゃないか。好物をご馳走してもらうだけじゃ足りないかもしれない。
「これが合成した動物のリストだ。それぞれの特性を持ち合わせているはずだから、充分に注意するように」
「はい。分かりました」
 手書きのリストを貰い、トランクに入っていたアタッシュケースを左手に持つ。少しだけ不安なので妹も連れて行くことにした。
「ルナ。お兄ちゃんを頼むぞ」
「うん♪ まかしといて♪」
「それじゃ行ってきます」
「ああ、気をつけてな。命を懸けてまでやるものでもないから、危なくなったらすぐに逃げてこい」
 放任主義なんだか過保護なんだか分からない師匠を置いて、僕は妹と共にエレベータへと乗り込んだ。僕の目標であるキメラは4階に居るらしい。これから戦闘が始まると思うと嫌でも手に汗をかく。


 低音の、身体に響いてくる駆動音を鳴らしながら僕とルナを3階へとあげて行くエレベータ。1階1階確実に上昇していくのが上のほうにある数字の表示が表している。いきなり敵の前に出るわけにはいかないので、3階で降りて階段を使って4階にたどり着く予定だった。
 短い電子音が鳴り、扉が開く。敵がいるのではないかと思って構えていたけども、それは杞憂に終わる。少し安堵して息を吐きながら降りて、三階の様子を見る。ぱっと見ここは倉庫か何かなのだろう。整理されていない書物やなんかが三階のスペース全てを埋め尽くしていた。なんで魔術師という人種はこうも整理整頓が下手なのだろうか。目の前の惨状を見て師匠の部屋を思い出した僕はそう思った。
 少しだけ安心していた僕の耳に、地響きのような唸り声が聞こえてきた。それはまるで地の底から湧き上がってくる様な印象を受け、身体が震える。
「お兄ちゃん……」
 僕の不安を感じ取ったのか、ルナが傍に寄ってくる。その気遣いが嬉しかった。
「さあ、行こう」
 右手でルナの手を掴んで、階段がある方へと向かった。いよいよ、戦いが始まる。


 ソイツは蹲っていた。何か苦痛に耐えるような、激しい息遣いが聞こえてくる。その呼吸は4階自体が行っているように思えた。照明が一切ない暗い空間だというのに、そいつの吐く息だけは白く見える。……その白い息が2ヶ所から出ていることから、ソイツの口は2つあるのだろう。とんでもないキメラを作り出しやがったみたいです。
 僕はそいつから目を離さないようにしながら、地面にアタッシュケースを置いた。ルナは僕の後ろに隠れさせておく。
「アーデル・フィルバ・ジアリス……」
 傀儡の起動呪文を唱える。地面に置いたアタッシュケースの封印が解け、『それ』が宙に飛び出す。
 『ダイス』。そう呼んでいるこの傀儡はサイコロの名前通りの正六面体で、緩やかな流線型に膨らんでいた。表面は鈍い金属色をしていて、周囲の風景を映し込ませている。アタッシュケースから出ると空中でぴたりと止まり、ゆっくりと回転し始める。ウオンウオンウオンと不気味な回転音が4階に響き渡る。
 キメラはその音に気付いたのか、僕たちの方を見た。暗闇でその目はきちんと見えなかったのだけど、でも確かに視線を感じた。確実に、僕たちに敵意を向けている。
『ガアアアアアアアァァァ!!!!』
 急に生まれた叫び。耳をつんざくその音はビリビリと僕たちの空間を震わせ、そしてこの場所を戦場へと変えた。
 20メートルという獣にとっては全然遠くない距離から迫ってくる。数瞬で僕の喉笛を噛み切ることは出来るだろう。やらなければ、殺される。
「アルガハート・ビュラフィム!!」
 非攻撃対象を設定してダイスを開放する。僕の呪文を聞き届けたダイスはその六面体の身体についていた『口』を開く。一面ごとに1つの口。人間の口のようなフォルムを持ちながらも、ニヤリと笑うことで見える歯は肉食獣のそれだった。肉を喰うためにある口。これで、あのキメラを喰う。
 風の様な速さで僕に向かってくるキメラの姿が、近付いてきたことでようやく知覚できる。類人猿のように二本足で走りながら、その速さはチーターを思わせた。巨大な右腕を持ち、オオカミとライオンのような2つの顔を持ち合わせていた。左腕にあたる部分はない。その左右非対称さが奇形を思わせるが、多分違う。そのように造られたのだろう。
「行け!!」
 僕の叫びと共に宙で回転していたダイスが凄まじい速度でキメラへと向かう。弾丸のように敵へと向かったダイスは、キメラの右腕をぞぶりと削り取った。
「ガアアアアアァァ!!!!」
 キメラは僕に届くことなく地面に膝をつけた。キメラを撃ち抜いたダイスはゆったりと旋回運動している。面ごとにある口は、何かを租借していた。唇の端から赤い血を垂れ流している。
 このダイスは『飢え』を形にした傀儡だ。ひたすら肉を喰う。このビルのようにきちんとした結界を張っていなければ、開放した途端に人の居る方へと飛び出し、大惨事を引き起こす。それぐらい、危険な物だった。師匠がこの傀儡を持ってきたのは、戦場が強固な結界で守られている工房だと知っていたからだろう。相変わらず頭の切れる人だと思う。ここはダイスが闘うには、すごく持って来いの場所だったから。
 ただ放つだけで、大抵の生物を殺すことが出来るダイス。戦力としては圧倒的に僕が勝っていた。
「グ、ガア、アアアァァ……」
 ゆっくりとキメラが立ち上がろうとする。その動きに反応して、ダイスが再びキメラへと特攻した。傷ついた肉体に回転する金属体が突っ込むと、血が噴出し肉が削れていく。ダイスがキメラの肉体を貫通するとそこには綺麗な穴が開いた。
「これで終わり……」
 安心してそう呟いた瞬間、急に横から凄まじい衝撃が僕を襲う。骨が軋む音がして、横に吹っ飛んだ。
「お兄ちゃん!?」
 叫ぶルナの声を聞きながら、師匠の言葉を思い出していた。『目には見えないけど、殺せる腕』。そうだ、キメラの左腕の存在を忘れていた。あいつの左腕は霊体だったはずだ。
 油断した自分を悔やむ間もなく、壁に身体を打ちつける。なんだか変な音が鳴った。骨が折れていなければいいけど。
 必死に意識をキメラへと向けようとする。こんな所で気を失うわけにはいかない。死に直結してしまうから。
 キメラは身体起こしていた。立ち上がれるダメージでは無いはずなのに。よく見てみるとダイスに喰われた右腕の傷口が盛り上がり、そこから新しい腕を生やそうとしていた。再生能力なんて聞いてない。
「くっ、はぁ……」
「お兄ちゃん!!」
 なんとか立ち上がろうとする僕に向かって、ルナが特攻してきた。そのままの勢いで僕を押し倒す。何をするんだと文句を言いそうになったが、妹の背中の服が裂けたので何も言えなくなってしまった。霊体の攻撃が、僕に襲い掛かってきたのだ。幽霊を見ることが出来ないことをこれほど悔しく思ったことは無い。
 ダイスは敵がまだ生きていることを感知して、またしてもキメラへと向かう。容易くキメラの身体を削るのだろうと思っていたら、そのキメラの身体から突然緑色の粘液が噴出する。それがスライムだと理解した時には、ダイスがその粘液に包まれた後だった。
 スライムというのは強力な再生能力を持つ魔物のこと。人間界にその存在を現すなんて信じられない。多分、キメラの材料として利用されていたのだと思うけど……分離、したのか? 戦闘中に? 自分の意思で?
 スライムに包まれたダイスは、粘液の中で回転し続けてスライムを喰い続ける。しかしスライムはそれを上回る速度で再生し続けるため、一向にその量は減らない。まずい。これだとダイスは封じられてしまっている。
 その間にキメラは僕へとゆっくりと向かってくる。彼の持つ2つの口は、締まり無くよだれを垂らしていた。僕を食べたくて仕方ないらしい。
 圧倒的な攻撃力を持っていたはずの傀儡は封じられ、敵は見えない霊体で攻撃できる。これは、本当にまずいよ。このままじゃ殺される。
「お兄ちゃん!!」
「ガアアアアアアアァ!!!!」
 妹の叫びと、キメラの咆哮が重なった。死を覚悟したが、喰われる前にやらなくてはいけないことがある。

「バハート・ギルリム・フィルマス」
 そう呪文を唱えると、ドンと言う音がして、僕に喰いかかったキメラは地面に突っ伏した。僕の傍にいたルナの左手が、まるでジグソーパズルをバラバラにしたように分解され、宙を舞っている。20個以上のピース一つ一つがキメラの周囲を取り囲んで、局所的な重力異常を起こす結界となっている。
 僕の妹は、天路ルナは、僕の作り出した人形だった。
「ギ、アア、アアア……」
 キメラが動き、2つの口から血を吐く。再生能力を持つスライムを分離したので、彼の命はもう取り留めることは出来ないだろう。何倍にもなった自分の体重に、押しつぶされそうになっている。
 僕の魔術の得意分野は、人形と結界だ。人形とは先ほどのダイスやルナのように、特殊な魔術機構を持つ存在を意のままに動かす魔術のこと。そして結界とは、限定空間内における物理法則、または魔術効果を操作する技術のこと。この2つを組み合わせた魔術こそ、さっきのルナの攻撃。局所重力崩壊だった。
 重力操作なんて普通の魔術じゃ不可能に近い。万能に思える魔術だけど、物理法則を無視するにはそれだけに見合った準備や条件が必要になってくる。どっかのゲームのように普通の世界で重力異常を起こすには、多分500年ぐらいの準備期間が必要だと思う。それを簡単かつ瞬時に出来るようにするには、結界を作るのが手っ取り早い。ルナの左手のピース一つ一つに刻んである刻印を空間に展開させることによって瞬時に結界を作り出し、そこで魔術を使う。これでいかなる場所でも実用レベルの攻撃魔法が使えるということになった。僕の自慢の攻撃だった。
「この子、どうする?」
 ルナが僕にそう聞いてきた。答えは1つしかないんだ。やはりそれは辛かった。
「殺してあげて」
「うん。分かった」
 ルナはキメラの周りを舞っていたピースの間隔を狭めた。結界の範囲を小さくすることで効力もUPする。つまり、重力異常も大きくなる。
「ガ、ア…………ァ」
 キメラは潰れた。僕の目の前で、命が消えた。



 ダイスをアタッシュケースに仕舞い、ルナと共にエレベータで地下駐車場へと戻った僕を待っていたのは、師匠の驚いた顔だった。
「姫斗!? どうしたんだその怪我は!!」
 乗っていた車から降り、僕の元へと走ってくる師匠。なんだかそんな行動がいつもの師匠とは不釣合いに思えて、少しだけ笑ってしまった。師匠は僕の傷ついた身体をペタペタと触り、大事に至ってないか調べている。
「キメラ相手に油断したのか!? ダイスを使いながらこんなに怪我したのでは、間抜けにもほどがあるぞ!?」
「ママ〜……あのキメラ、再生したんだよぉ?」
「再生だと? 馬鹿な。そんな能力聞いてないぞ?」
「多分スライムを合成させたんだと思います」
「スライム? ちっ……あの野郎、リストに書き込むのを忘れやがったな」
 師匠は本当に苛立たしげに呟いた。多分、僕のことを想ってくれている証拠なのだと思う。ちょっと、嬉しい。
「すまないな姫斗。相手側の不手際だとは言え、こんなにも怪我させて怖い思いをさせてしまった。本当に許してくれ」
 そういって師匠は僕を抱きしめてくる。まるで本当の我が子にやるようなその抱擁は、すごく気持ちよくて、それ以上に恥ずかしいものだった。
「だ、大丈夫ですって。そんなに心配しないでくださいよ……」
 師匠の腕の中で強がる僕だけど、その抱擁から逃げ出す気はなかった。なぜなら……その、本当に怖かったから。
 魔術師という人間の中では、戦闘を生業としている者はほとんどいない。今回駆り出された僕だって、いつもは魔術人形や結界の勉強をしているだけの人間だ。『ダイス』や『ルナ』のように、マンガやアニメに影響されて戦闘用の傀儡を作ることはたまにあるけど、それを実戦で使うなんてことはまったくない。というよりもそもそも実戦なんて日常では存在しない。ただの自己満足。そういったものだった。
 僕は本当の戦闘は3回しか経験していなかった。それらだって、敵より圧倒的な力を持つ傀儡を放つだけで全部終わってしまっていた。命の駆け引きなんて、やったことない。
 でも今回は違った。本当に死にかけた。今思い出すだけでも背筋が凍るような、そんな思いをした。僕は魔術を勉強しているけれど、身体面やメンタルな部分では普通の人と変わりない。あんな思いをすれば怖いと感じるに決まっている。だから、師匠に抱きしめられて、緊張の糸が切れてしまったのか身体が震えだしたのだって、当たり前の反応なんだ。
「すまない姫斗。本当にすまなかった……」
 僕の震えを感じてなのか、師匠の抱きしめる力が強くなった。普段お茶らけている癖に、こんな所は本当に母親っぽくなる。少し卑怯だ。クラスメイトや知り合いにこんな光景見られたら引き篭もりになると思うけれど、今は師匠に身体を任せておこうと思った。結局僕は、師匠に大部分を委ねているんだよな。今さらそれを気付かされた。
「お兄ちゃん……私もいるから大丈夫だよ」
 妹も僕の左手を握ってくる。彼女は人形だけど、その手は本当に温かかった。


 母親は師匠で、妹は人形で。そして家で待っている父と姉もやっぱり人間じゃなくて。そんな天路家が僕の帰る場所で、僕が愛していた場所だった。
 作り物かもしれない。偽物なのかもしれない。でも僕にはそれが全てだったし、本物以上の意味を持つ家族だと思っていた。
 それが僕の、魔術師の弟子の何より愛した家族であり日常だった。



 </魔術師の弟子>


***


 <とある魔術師>


 弟子の泣き顔はたいそう可愛かったが、出来れば二度と見たくないものだった。弟子を泣かす原因を作った魔術師には、たんまりとツケを払ってもらおう。
 それにしてもスライムだなんて、異世界の生物を合成させたのならば、意思の統制がとれなくなって暴走するのも当たり前である。新しい物を生み出そうという気持ちは分からんでもないが、他人の知的探究心ほど害悪な物は無いと思い知ったよ。
 さて、弟子の心の傷を癒すために、師匠という立場の私は何をすればいいだろうか? とりあえず好きなものを与えて、嫌なことを思い出させないようにするべきだな。
 おお、そうだ。久しぶりに一緒にお風呂に入るというのはどうだろうか? あまりにもベタベタなドッキリハプニングに、今日の出来事なんてぶっ飛んでしまうだろう。今から姫斗の驚く顔が見える。そんな想像をしているとついつい笑みを浮かべてしまうよ。
 腕の中に大人しく納まっていた弟子を見ると、私のにやつきを目撃してしまったのか怪訝な視線を向けてきた。ヤバイな。今この心の中にある計画を知られるわけにはいかない。あくまで冷静に、そして表面には絶対に出さないように、慎重に微笑み返した。彼はこの笑みに騙されてくれるだろうか? 私については妙に勘のいい人間だから、気付いてしまうかもしれない。
 邪な思惑を気付かれないことを、もっと長い間弟子の温もりを感じられることを、私は信じてもいない神に願った。
 これからもこの下らない日常を、愛弟子と共に歩んでいけることを、心の底から祈ったのだった。


 </とある魔術師>


***


序章 『魔術師の弟子と彼の日常』 了




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